lost children
縹香麗
序章 放課後
剣戟、魔物の消滅する音、血気盛んな若者達の雄叫び。その中を突き進む彼女もまた、剣の才能に優れていた。勇猛果敢な彼等によって魔物の討伐は簡単に思われた。そう、あの鐘が鳴るまではーー。
昔々。人々はこの“ホシ”と呼ばれる島の表層の全てに居住を構え、平穏に暮らしていた。だがある時、地下に住んでいた筈の魔物が結界を破ったことにより、平穏な生活は一変した。強力で多様な魔物達は一気に勢力を覆し、人間達を徐々に上の層へと追いやった。
約百年前、漸く現れた大賢人によって再度張られた結界によって人間達は再び平穏な暮らしを取り戻した。しかし、狭くなった土地では十分な資源が得られず、王は魔物狩りを決意し有志を募った。集まったのは腕に覚えのある若い男女が数百人。彼等は王の真意などいざ知らず、意気揚々と結界の外側へと向かった。
「カリナ!まだ行けそうか?」
「余裕余裕!だってこの辺りゴブリンばっかじゃん!」
「それならいいが、怪我するなよ!」
「分かってるってば!」
いつも私を心配するリーダーの口ぶりは少し小うるさいが、初めての実戦に私も少し緊張していた。結界の境界線の近くに住んでいた私達は、結界越しに何度かゴブリンを目にしたことはあったが、実際に剣を突き立てたのは初めてだった。
下級の魔物と言われるだけあって、次々と消滅していくゴブリン達に周りで戦う他の有志達も士気は向上しており、私達は更に下へと步を進めた。
「この辺りで少し休憩をしよう。相手がゴブリンとはいえ長期戦は危険だ」
「リーダーってば本当心配性だよね。でも私も喉渇いちゃったし休憩するよ」
リーダーに倣って私も近くの倒木に腰掛けた。言い遅れたが、リーダーというのは彼の愛称だ。本名はジョセフ。私が小さい頃に遊んでいた近所の子供達のまとめ役をしていた彼を、いつしかそう呼ぶようになっていた。
「そろそろ進もう。旧市街に入れば野営もしやすくなるはずだ」
「よっし!じゃあ旧市街に向けて出発!」
「あ、あの、国王様……本当によろしいので……?若者は貴重な働き手……」
深い眼窩の奥に鋭い光を湛えた熊のような大男にそう声をかけるのは背の曲がったしゃがれ声の老人。
「働き手は足りておる。食料が足りぬことの方が問題であろう。そう言ったのは大臣、貴様ではないか」
「しかし……」
「貴様の孫が志願したのは其奴の意志だ。一人のために多くの民を犠牲にはできぬ」
王は至極冷淡に言い放つと、未だ反論しようとする大臣を他所に中庭へと向かった。
「大賢人」
「はい」
「始めよ」
中庭に控えていた大賢人に、王は短く声をかけた。有志達が出発して僅か1日後のことだった。
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