人神
雨湊宵カサ
第一話
第一話 プロローグ
生きていれば、楽しいことも、理不尽なことも、不思議なことも沢山あります。
「ったくもう春じゃないのか寒っ」
午前五時五十五分、日が少しづつ顔を出してきた頃。
はっくしょん、と東京の道を歩く一人の黒髪の男がくしゃみをしながら寒そうに愚痴をこぼした。
彼の名はメノ。
頬を叩きつけるように冷たい向かい風が吹く。
「暦の上では、だよ」
その隣で赤みがかった白髪の少女が軽快な足取りで笑った。
彼女の名はコゼット。
暖かいと思えば暖かいと言いながら楽しそうにくるっと一回りした。
「雪、降るかもね。三月だけど」
コゼットが空を見上げる。
桜が今か今かと咲きそうな木が揺れた。
「吹雪の野郎……あいつまだこっちで遊んでるのかよ」
吐く息は白く、空もどんよりと雲でおおわれている。
「もういい!俺帰る!こんな大都会に願いの神器があるわけが無い」
鼻水をずずっと啜りながらメノが立ち止まる。
「都会だからこそあるんですー。いいもん見つけても独り占めしてやるもんねーだ」
むっと頬をふくらませたあとべーとコゼットがメノにむけて嫌味に言い放った。
「!」
“ギィィ”
耳に触る不快な音が鳴り響いた。
二人ははっと音が鳴った方へ振り返る。
「物の怪!」
あ!と指を指しコゼットが叫ぶ。
その先、トラックの運転席。
運転手の後ろに黒い化け物のような歪な形の悪霊が絡みついている。
そして手を伸ばしうとうとと睡魔と戦う運転手の目を塞いでいた。
「言わなくてもわかる!」
メノがそう言い放ちばっとトラック目掛けて飛んだ。
突然現れた少し大きめのナイフ型の武器を手に取り構え、トラックの運転席目掛け飛び込む。
運転手が一瞬驚いたかと思えばメノは窓に衝突することなく通り抜け運転席へとナイフを振った。
ナイフは運転手やトラックを傷つけることなく影……物の怪だけを斬った。
メノはそのまま地面に着地する。
運転席の物の怪はふっと消えていった。
運転手がはっと我に返り再び運転に集中した。
「メノ!」
コゼットがはしってメノの方へ向かってくる。
「手応えがねえ。本体どこだ!」
メノが立ち上がり周りを見る。
「ねえあれ!」
メノの前まで来て立ち止まりそう言ったコゼットの視線の先。
赤い高級車がこちらに向かって走っている。
そしてその運転席には運転手と、また先程と同じ物の怪が居た。
また同じように手で運転手の目を覆う物の怪。
「おいおいこのまま突っ込ませる気かよ」
大きな道路でそこそこ交通量も多く、駅もあり人も沢山いる。
「そこに本体いるかもしれない!」
コゼットが車の来る方向と反対側を指さす。
交差点の歩道の角に綺麗に並べられた未開封のペットボトルや花束。
「かもしれないってお前かもしれない好きだな」
「いふ!!!多分斬った時に一瞬出てくるはず。メノはそっちお願い本体は任せて!」
コゼットは自分の現れた背丈くらいのロッドを手に走り出す。
「一回黙れバカ!」
「バカって言う方がバカなんですー!」
「アーホアーホ!」
「ばーーか」
「べーだ」
そう叫びあいながらもメノも車のなかの物の怪向かって正面からナイフを構え突っ込む。
“ギィィィ”
「ッ……」
ちっと、不快な音に嫌そうな顔をしながらまたフロントガラスを通り抜けナイフで斬りかかりそのまま地面に着地する。
ナイフはまた物の怪以外はすり抜け狙ったものだけを斬った。
「斬ったぞ!」
立ち上がりメノがコゼットの方に向かって叫ぶ。
「来た!いふ当たり!」
ペットボトルや花の備えられた道路の一角に先程よりも明確に人の形に近い物の怪が現れる。
物の怪がコゼットに攻撃を仕掛けるがそれを飛んで避ける。
「ごめんね」
そう一言呟き物の怪に向かってロッドを降る。
降った先から魔法のように可視化された衝撃が出てきて物の怪の元へと向かう。
そして物の怪と共にシャボン玉のように弾けた。
そのまま物の怪も散って消えた。
コゼットはぱっと手を離し武器を消す。
「おつかれさん」
メノがゆっくりとコゼットの方へ向かって歩いてきた。
相も変わらず人々は何事もないように日常を送り続けている。
そう、彼らは人では無い。
これは私達が願いの彼らに出会い日常を少し塗り替えてしまう、そんな話。
人神 雨湊宵カサ @asuyoi_kasa
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