ジュニアアイドルを救え!

第24話 アナザーJK

 白神博士が住む、古びた洋館は市街地からけっこう離れた森の中にあって、現在いまは謎の大爆発で吹き飛んだ〈スカルコブラー〉の秘密基地の代わりも兼ねていた。

 タクシー券を渡されていたから、ここに来るのは不便じゃなかったけれど、わたしの貴重なプライベートタイムが移動時間で削られることに変わりはない。

 静かな揺れに身をまかせながら車窓を眺めれば、深緑の回廊地帯が迫るようにして流れていく。


(それにしても、ホントなにもないところよねぇ……)


 コンビニもなければ自動販売機も見あたらない。あるのは、大自然の中の古びた洋館が一軒だけ。そこから出てくるのは、お化けや妖怪じゃなくって、全身黒タイツの変態野郎どもと悪の超ド変態女大幹部。どっちにしろ、気色悪くて迷惑このうえない話だ。


 ──キィッ。


 緩やかに停車したタクシーを降りる。

 今日は約束した時間の三十分前に着いた。


(べつに早くても問題ないっしょ)


 鉄サビやひび割れがところどころ目立つ門扉をくぐり抜け、ゆっくりと薔薇の庭園を横切って歩く。深紅や純白、黄色の蕾がカラフルに愛らしく出迎えてくれた。

 あと数日もすれば、美しく咲き始めるのだろう。目を細めていたわたしが、正面玄関の大きな両開きのドアにたどり着いたちょうどその時、偶然にもドアが先に開いた。

 中から現れたのは、他校の制服を着た、スクールバッグを肩に担ぐ高校生らしき女の子。

 誰だろう、この子?

 もしかしてこの子も、パート戦闘員なのかな?


「えっ? ウソでしょ……ヒカルちゃん、まだやる気なんだ・・・・・・・・


 その女の子は、小声で誰となく話す。

 ヒカルちゃん? やる・・って、一体なんのこと?


「あのう……」

「ウフフ。今日は機嫌がいいから、お小遣い多目にくれると思うよ」


 意味深に笑う女の子は、すれ違いざまにわたしの右肩を軽くポンとたたいた。

 そして、いつの間にか門扉の前に停車していた別のタクシーに乗り込んで去っていった。

 小さくなるタクシーを見送りながら、いろいろと散りばめられたパズルのピースを脳内でかき集めて考えてみる。

 やがて導かれたひとつの結論は深いため息へと変わり、無意識のうちにわたしの口から大きくされていた。


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比乃子★えくすぷろーじょん! ~悪の大幹部でもアイドルになれますか?~ 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala

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