悪の秘密結社〈スカルコブラー〉

第16話 謎のお姉様

「美少女、美少女……メロン、メロン……」


 ある日の午後、いつものように大好物が足もとに落ちていないか目視で探しながら、わたしは帰りの通学路を一人歩いていた。

 残念だけれど、いまだかつて大好物が落ちていたことはないし、お金も見つけたことがない。せいぜい落ちている物といえば、コンビニとかで配られているプラスチック製のスプーンや割り箸の未使用品くらいだ。落とし主には同情よりも「なんでこれを落とすねん?」と、関西弁でたずねたかった。


「美少女、美少女……メロン、メロン……」


 そもそも、美少女が住宅街に落ちていたら(※1)、先に拾われる可能性が高いだろう。

 いったいどこの誰よ!? 野生の美少女(※2)を独占している変態は!?


「美少女、美少女……ペロン、ペロロン……」


 急に沸き上がった怒りの感情がメロンをペロンに変えた時、疾走する黒いワゴン車がわたしの真横に急停車した。

 次いで、見覚えがあるし着たこともある全身黒タイツ姿の変質者たちが奇声を発しながら次々に飛び出てきて、あっという間にわたしを取り囲む。


「ちょ……ええっ!?」


 驚きのあまり、抵抗するひますらなかった。

 変態野郎たちに力づくで車内へと連れ込まれたわたしは、ふたたび拉致られてしまった。



     ★



 大きく左右に曲がりながら、ワゴン車はどこかの坂道を走り続けている。


 揺れる車内。

 閉ざされた視界。

 流れるK―POP。


 変態黒タイツ集団に拉致られたわたしは、目隠しとヘッドフォンを付けられたまま、ざっくり一時間は車に乗せられていた。

 いったい全体なにがなんなのやら──これって、テレビ番組の企画ですか?

 たしかに、わたしは芸能人並みの容姿ビジュアルを持っているし、いつでもベストジー〇スト賞ウェルカムだけれど、こんなお笑い芸人みたいな扱いを受ける心当たりはまったくない。

 しかも、さっきからヘッドフォンで流れている曲は四曲だけのリピート再生だった。

 つか、そのうち二曲はオフボーカルだし! シングルかよ!? せめてアルバムにしなさいよ!

 わたしのストレスが頂点を通り越して外宇宙へと旅立った頃、車内の揺れがゆるやかに止まった。

 暗闇の中、誰かに腕を引っ張られて外へ降ろされる。

 そのどさくさにまぎれて、別のヤツに尻を触られた。殺す。絶対にぶっ殺す。


 すると急に、目隠しを取られて視界がひらける。


 久しぶりの光にまぶたを細めれば、そこは鬱蒼と繁った深い森に建つ古びた洋館だった。

 つたに浸食された外壁が、立派な門扉からも見える広い庭の手入れされた薔薇園とは対照的で、とても不気味に感じられる。長い玄関アプローチの真新しさも、さらに拍車をかけていた。


 そして、流れ続けるK―POP。


「ヘッドフォンも取れよ!」


 わたしの叫び声に反応した背後の誰かが、ヘッドフォンをやっと外した。それと同時に、別のヤツがまた尻を触ろうとしたので、すぐさまそいつの手首を掴んで振り向きざまに殴りかかる。

 でも、その手首の持ち主は、まったく見覚えのない美人のお姉様(推定年齢二十代後半~三十代前半)だった。

 ハーフリムの銀縁眼鏡に均整のとれた顔立ち。右側にき上げられた前髪はふんわりと立ってボリュームがあり、マットグレージュに染められたミディアムロングの毛先は、ワンカールされて上品にくるりと巻かれ、美麗の彼女をより華やかにせていた。


(この綺麗なお姉様が……わたしのお尻を?)


 殴りかかったままの体勢で固まるわたしに、そのお姉様は無表情のまま、掴まれていないもう片方の手を上げて〝パーの形〟にしてみせた。




※1…………道端に人が倒れていたら、救急車や他の人を大声で呼びましょう。

※2…………外出先で偶然すれ違ったりする、見ず知らずの美少女のこと。謎が多い分、妄想が無限大に膨らむよ。


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