第13話 女の子ちゃんの日

 部活動三日目──。

 なぜか今日は、女子部員だけの四名しか出席していない。

 と言っても、破壊倶楽部の全部員数は、男子を含めて十名未満なんだけど。


「……ねえ、なんで男子がいないの?」


 隣に座っている、同学年のとがりおんちゃんに小声でいてみる。


「んー、なんかぁ〝女の子ちゃんの日〟らしいですよぉ? 女子部員限定の活動だそうです」


 おっとりとした口調で、ほほみながらそう答えてくれた。

 寝癖なのか、いつも頭頂部の髪の毛が三本ほど立っていて、喋るたびにフワフワと軽やかに揺れ動く。わたしの中では、癒やしキャラ確定だ。


「女の子ちゃんの日?」


 活動内容を伝える意味としては間違ってないし、わかりやすい名称だけど、その言葉だけを聞いたら、世間一般で通用する方の意味が圧倒的に勝ると思う。

 それは置いといて、女子部員限定の活動なんてこの部にはあるのか。部室の上座に座る毒島部長をチラ見してみると、目を閉じてブツブツなにかをつぶやいていた。

 その隣では、副部長の鳴瀬めぐみ先輩がプロテインバー(バナナ味)を食べながら、机に置いたスマートフォンをもう片方の手の指で気だるそうにいじってる。


「……ねえ、紙音ちゃん」

「なんですかぁ?」

「今日はなにを壊すのか、聞いてる?」

「んー。多分、なにも壊さないで終わるかもです」

「え?」

「だって、今日は女の子ちゃんの日ですからねぇ」


 そう言いながら、ぷっくりとした頬っぺたを緩ませて笑う紙音ちゃん。

 わたしは心の中で、彼女の頬っぺたを人差し指でツンツンする妄想を膨らませつつ、毒島部長をふたたびチラ見してみた。

 相変わらず目を閉じたままの彼女は、額に汗の粒をいくつも浮かばせて険しい表情で苦しそうにうなっていた。めぐみ先輩が背後からスリーパーホールドをかけていたからだ。


「あのぉ、副部長」


 何事が起きているのかまったく理解できないわたしよりも先に、紙音ちゃんが疑問を口にしてめぐみ先輩にたずね──


「もっと左腕を喉元までずらして食い込ませないと、確実に落とせませんよぉ?」


 訊ねてねぇ!

 むしろアドバイス!

 絞め落とすためのアドバイス!

 なんでそんなにサブミッションに詳しいのか、高校一年生女子!


「いいのよ、落とさなくても。毒島部長はいつも、女の子ちゃんの日は瞑想しておとなしくしてるんだから。こうやってちょっかいをだして遊ぶだけで、わたしはストレス解消をしているの」


 そう言ってはいるけれど、めぐみ先輩は左腕をずらして喉元に食い込ませていた。

 毒島部長はとても穏やかな表情で、眠るようにぐったりとして動かない。

 窓から射し込む光が、毒島部長とめぐみ先輩たちを暖かく照らす。

 いったいどんなストレス解消法なんだよ……ついていけなくなったわたしは、トイレを口実に部室を後にした。


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