第8話 真っ白い世界

「ヘイ、シスター! 出し惜しみをしているのか? それなら……オレがすぐに終わらせてやるぜ!」


 バトルパンサーに変身したジャクソン伍長が大きく息を吸い込み、牙の隙間から赤い光がミラーボールみたく次々と放射される。

 確実にこれは嫌な予感しかしない。

 一撃必殺の、とんでもない攻撃をくり出すつもりに違いない。


らえ! デンジャラス・ドライブ・キャノン!!」


 はい、嫌な予感的中。

 凄まじい轟音と共に、強烈な赤い光線が大きな口から一直線に放出されました。もちろん、この間まで中学生だった十五歳の美少女に向けられてですよ。


「ひええええええッ!? 誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!」


 どうしようもない状況に、もはや打つ手なし。

 正義の味方がいるんなら、さっさと早く助けに来なさいよね!


「いやっ…………お母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 まばゆい閃光に視界が奪われる。


 ああ、わたし死ぬんだ。

 大人のキッスもニャンニャンもしないまま、天国へと旅立つんだ。美人薄命って、本当なのね。

 もしも生まれ変われるのなら、異世界の悪役伯爵令嬢になって、美男美女にまみれたラブコメディをチートスキルで制したついでに、そのまま覇王になってやる──そんな覚悟を決めた次の瞬間、わたしの胸が大きく跳ね上り、全身に激しい電流のようなエネルギーが駆けめぐる。

 やがて、目の前には、真っ白いだけの世界が広がっていった。
















 大爆発。
















 足もとの世界で、岩山に囲まれた巨大な建造物が、黒煙に包まれて崩れ落ちていく。


 あれは……なに?


 ここは、どこなの?


 不思議な浮遊感のなかで、わたしは夢心地で考えてみた。

 けれども、答えはなにも出てこない。


『比乃子さん』


 不意に自分の名前が呼ばれる。

 声の方を見ると、蛇のような骨のような銀製の仮面をすっぽりと被った人物が、全身から強い光りを放ち浮かんでいた。


 スカルコブラー総統?


 なんだかその姿は、さっき見た時よりもさらに不気味で、リアルで凶悪な細工が施されているような気がした。そんな悪役度がアップした仮面越しでも、スカルコブラー総統は、どこかほほんでいるようにさえ見える。


『比乃子さん。こんなことになってしまい、本当に申し訳ありません。ですが、これも運命。きっと意味があるはずです』


 スカルコブラー総統は、他にもなにかいろいろと語りかけてきたけれど、夢心地のわたしの頭には上手く理解ができなかった。


『比乃子さん、お願いします。どうか娘を、〈スカルコブラー〉を頼みましたよ……よ……よ…………』


 急に目の前が真っ白になって、わたしの全身にふたたび激しい電流のようなエネルギーが駆けめぐる。




 そして──




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