13話
昇格点を取得するため、Eランクの奉仕依頼をこなしながらシャノン、サーシャの指導を行うこと1週間。2人も基礎訓練に慣れてきたため、模擬戦闘を訓練の内容に組み込むことにした。
ルーヴァルが2人を見ながらそわそわしており、混ざりたそうな気配を感じたので、必ず手加減をするようにルーヴァルに伝えてそれぞれ模擬戦を行っている。
シャノンは基礎訓練によって身体強化がスムーズになり、訓練開始前よりも格段に良い剣を振るうようになっている。この模擬戦は身体強化と剣技以外の魔法の使用は禁止しているため、現時点で魔法や精霊の助太刀はない。
サーシャはなかなか面白い剣を振るうようになった。8歳とは思えないほどだ。ルーヴァルも驚くほどの動きをしている。
ただ、どちらもまだまだルーヴァルに敵わず、敗れては顔を舐められている。
ルーヴァルはこの1週間でかなり体が大きくなった。小型犬くらいのサイズだったのが、現在は大型犬くらいのサイズまで大きくなっている。
こんなに短期間に成長するものか?とウルに聞いたら、このくらいは普通だと言っている。
本来は、食事に含まれる魔力の量などでサイズが変わってくるが、儂に名づけられたことで、儂を通じて精霊の力がルーヴァルに流れこんでいるらしい。
そのために成長は多分早い、と言っている。1ヶ月もすれば儂と同じくらいの身長まで大きくなるそうだ。
子供たちのそれぞれの魔法や精霊の扱いもだいぶよくなってきた。やはり、この年頃は1日1日の成長の度合いが大きい。儂も負けてられない。
本日の訓練も終了に差し掛かったころ、シェリダンがやってきた。執事を伴っており、その両腕には大きな箱が抱えられている。
「やぁ、シノ君。どうだい?2人の様子は」
「1週間前とは見違えるほど変わっていますよ。8歳とは思えないほどの成長かと思います」
シェリダンはウルと訓練を終えた2人の姿を愛おしそうに見る。
「本当だね。短期間でここまで変わるなんて思っていなかったよ。シャノンに非常に珍しい精霊との契約まで行ってもらったみたいだね。なんて言ったらいいか…君はやはり私達の英雄だ」
「大げさですよ。精霊についてはウルがやったことですから、儂自身の力じゃないですよ」
「はは。まぁそういうことにしておいてあげるよ。そうそう、先ほどロヴァネからミスリルのインゴットが到着したんだ。子供たちを救ってくれたお礼として早速君達に渡しておこうと思ってね。エドガー」
エドガーと呼ばれた執事は「はい」と返事をし、大きな箱を前に出して蓋を開ける。そこには、深く濃い青で、まるで夜空のような透き通った深い色つミスリルのインゴットが2つ、存在していた。
「父上、とっても綺麗ですね」
「いつも見るミスリルとは雰囲気が違うような気がします」
「これはだいぶ純度の高いミスリルだわっ?でもちょっとミスリルとは違うかも?精霊の力を感じるような気もするのだわ?」
訓練を終えた3人とルーヴァルがこちらにやってきた。儂の世界にもミスリルはあったが、頭に残っているミスリルの印象とはだいぶ違うような気がする。ここまで美しいものだっただろうか?
「ふふ。驚いたかい?サプライズとしては上出来だったかもしれないね。シャノンとサーシャも見たことが無いとは思う。これはミスリル鉱山で稀に採掘される『精霊銀』のインゴットだよ。ミスリルの中でも最上位に位置するものさ」
驚いたことに、シェリダンはロヴァネ領で稀に取れるミスリルの最上級鉱石『精霊銀』を全て、インゴットにしてきたらしい。
この精霊銀はミスリルが産出される鉱山の一部のみで取得できるもので、精霊がミスリルに宿って性質が変化し、透き通った濃い青の鉱石になる。
数年に1度発見されるかどうかの超希少鉱石だそうだ。
「ちょっと待ってください、そんな希少なミスリル鉱石をいただくわけには…」
シェリダンは首を振って、話を続ける。
「大丈夫さ。これは魔力との馴染みがよくて、魔法使いが使う杖や、魔術具の触媒として使われることが多い金属なんだ。もちろん、希少で最上級の鉱石だからそれなりの値段で取引されてはいるのだが、品質が良すぎて逆に使い道が限られていてね。加工もかなり難しくて、消耗品である剣や斧などに使う人も少ない。使用者が限られているのでなかなか買い手も現れてくれなくてね」
倉庫に残っていたんだよ、と言いながらシェリダンは頭を掻く。
「君は『精霊の力』を武器に付与するという。それなら、変に一般的なミスリルを使うよりも、元々精霊と馴染んでいる精霊銀のほうが相応しいんじゃないかって思ったんだ。同じミスリルに変わりはない。気にせず受け取ってくれないかい?」
「へー!いいじゃない!その夜空の色、シノにピッタリだと思うのだわ?」
ふーっと深呼吸をして気持ちを落ち着ける。明らかに過剰なお礼にも感じはするが、2人の命に対する謝礼とするならば、この精霊銀でも足りないのかもしれない。
頑なに固辞したところで、子供たちの命の価値を否定することになりかねないか。シェリダンはできる限り最高のものを儂に届けようとしてくれているのだから。
「…わかりました。有難く受け取らせていただきます」
エドガーからインゴットの入った箱を受け取り、深くお辞儀をする。シェリダンは満足そうに頷く。
「あ、一つ注意しておかないといけないんだけど、並みの職人だと加工すらできないからね?君が知り合ったドワーフ…ドルグは大丈夫かな?」
シェリダンはにやりと笑い、少し挑戦的な目をしている。あれ?そういえば食事会の時にドルグに興味を持ってた…?
ひょっとして、精霊銀を加工させることでドルグの腕を計ってもいるのか?まさか?…ね?
目の前にいるシェリダンの笑顔の奥に何やら色々と計算めいたものがあるような気がする。なんだかんだで恐ろしい人なのかもしれない。
「きっと大丈夫でしょう。今の言葉、伝えておきます」
再度お礼を言って、午後はドルグの元へ向かうことにした。
「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃ!!!!精霊銀じゃとぉぉぉぉぉ!!!」
ドルグの工房に割れんばかりの叫び声が木霊する。シェリダンから受け取った箱を開けた途端に目を見開いている。
「し…し…しかも…2個…じゃと…」
最期のほうは興奮しすぎて息も絶え絶えだ。あ、意識を失った。
…
ブローダに活を入れられ、ドルグは目覚めてあらためて仕切り直す。
「すまんすまん。本気で驚いてしもうたわ。坊主。お前本当に何者なんじゃ。ミスリルはミスリルでもまさか精霊銀を持ってくるとは…」
「いや~、色々ありまして…」
「アホか!!精霊銀の加工はひじょーーに!!難易度が高いんじゃぞ!!確認もせずに入手した挙句、勝手に持ってきおって!!!俺が加工できなかったらどうするんじゃ!!」
苦笑いする儂に精霊銀の加工の難しさを切々と語るドルグ。確かに難易度が高く、並みの職人では無理なのはとても理解できた。だが、ドルグは一言も「できない」とは言わない。
「店舗に並ぶ武器の質も見ていますし、あれだけの自信をもって、堂々とミスリルを持ってこいと言うドルグさんならできると思っていましたから」
目をぱちくりとさせてドルグは気恥ずかしそうに眉を寄せる。
「まぁいいわい…。約束通り持ってきたんじゃ。儂に任せておけ。精霊銀の加工はいつぶりか。腕が鳴るのう。それにこれだけの量を使うのは初めじゃが、期待して待っておれ!」
「ありがとうございます。そういえば、精霊銀を用意してくれたロヴァネ公爵が、ドルグさんは精霊銀の加工ができるのか?と疑問を持っていたみたいですよ。とても心配していました」
シェリダンからの伝言を聞いたドルグの顔が一瞬で赤くなる。
「なんじゃとぉ…!!よかろう!!文句のつけようのない一品を作ってやるわい!!」
とてつもなく発奮し、渾身の一振りを作ってやるのだと息巻いている。ひょっとしてこの伝言も…シェリダンの策略か?いやいや、深読みしすぎだろう。
「武器はよいが、インゴットが2個ある。剣以外の装備も作ることが可能じゃがどうする?」
シェリダンは一通り装備をそろえることができるように、と精霊銀を用意してくれている。
「もしよければ、残りの精霊銀で防具も作ってもらえませんか?」
「良いぞ。しかしどんな装備が欲しいんじゃ?この量だとフルプレートは難しいが、軽鎧くらいは作れるぞ」
儂は基本的に、肩当や胸当てなどの甲冑、軽鎧は好んでいない。体の関節の動きをできる限り阻害したくないからだ。
前の世界では和服と呼ばれるデザインで、魔獣が吐く糸を使って織った生地から作られた服を着ていた。通常の鉄や鋼の装備よりも高い防護、対魔法の性能があった。また、特殊な加工で精霊との親和性も良かった。
大森林で拝借した装備は布生地の痛みが進んでいたため、念のため軽鎧をつけていた。
できる限り最小にしていたが、それでも細かい部分で動きづらさを感じていたので、本音を言えば布のみの装備が良いと伝える。
「か~!お前は本当に難しい注文出してくるな!!この精霊銀を布にしろってか!!いい度胸だ!おい!ブローダ!」
膝を叩きながら不敵な笑みを浮かべるドルグ。その後ろにブローダが腕を組んで仁王立ちしている。
「精霊銀は俺が布に編み込む方法を考えてやる。皮鎧や服系の装備はこいつがやってるからよ。詳細はこっちに聞きな」
「あいよ。あたしにまかせな。とっておきの服装備をを拵えてあげるよ」
ブローダもドルグに似た挑戦的な笑みを浮かべる。とっても似たもの夫婦だ。少しでもいいものを作ってやるという強い信念を感じる。
職人として強い信念を持っている2人に任せていれば安心そうだ。
そういえば、全身作るとして、値段はいくらになるんだろうか?
「あん?…そうだな~…大銀貨5枚だな!」
…後ろでブローダが凄い目をしているが、大丈夫なのだろうか?儂たちが帰った後のドルグが少し心配になった。
精霊銀をドルグに渡してからは、子供達への指導、昇格点の取得を引き続き続ける日々が続く。
ランク昇格点については中旬を過ぎたころには充分確保できた。
サラができる限り高くポイントが取れるものを優先的に回してくれていたのもあるが、依頼元からの評価が高い場合、昇格点が高くなることもあるそうだ。
奉仕任務は非常に多岐に渡っていて、実にやりがいがあった。街の掃除だったり、近くの村に荷物を運ぶような依頼、孤児院での子供たちの相手をするというのもあった。
子供が大好きなウルは孤児院の仕事が大好きになったようで、彼女のリクエストでほぼ毎日通うことになった。ルーヴァルは男の子たちに大人気でだいぶお疲れのようではあるのだが。
これまでの依頼で印象的だったのは、とある商人の男性の手紙を、別の店舗のご令嬢へ手紙を何度も届ける、なんてのもあったか。その甲斐あって2人は結ばれることになったのだが、幸せそうな笑顔が印象的だった。
そういえば、最初にお肉をサービスしてくれた屋台の手伝いの依頼もあった。あの屋台はとても繁盛するようになったことで人手が足りていなかったそうだ。
顔を出すたびに一番いい肉串を出してくれる。手伝いに行った時にもウルとルーヴァルが大活躍していたものだ。
最初の依頼人であるおばあさんの家にも時々顔を出していたが、鍛錬ができるほどになって、また日々を楽しく過ごせるようになったと言っていたので安心したものだ。
ランク昇進試験も無事パスし、ランクDに上がることができた。これはアイゼラのギルド最短の記録とのことで祝ってもらった記憶も新しい。
それからしばらく時間が経過し、まもなく子供達への指導の期間も終わりを迎える。
シャノンとサーシャの剣の腕は見違えるほど上達した。ルーヴァルとの模擬戦も形になってきたし、儂も木剣での指導試合を行っていたが、おもわず唸ってしまうほどを剣筋を見せることがある。
そういえば、途中からレグレイドの子息子女が訓練の様子を見学するようになり、シャノンとサーシャと同じ歳の男の子が2人に対して何度も挑戦をしていた。
あっさりと一蹴されていた様子を見ても、現時点でこの2人に敵う同世代の子はいないと思われる。これなら、シェリダンが気にかけていた2人の将来の選択肢を増やすことの手助けになるだろう。
魔力や精霊の力の扱いもだいぶ上達している。このまま2人が慢心せずに研鑽を積むのであれば、きっといい剣士、精霊使いになる。たった1ヶ月だが、この2人はこの世界での最初の弟子になるのが少し感慨深い。
彼らの成長を好ましく感じつつ、春の二月の末になり、指導依頼も終了となった。
ギルドに指名依頼の完了を報告した際には、大銀貨5枚だけでなく、追加報酬の大銀貨2枚が発生していた。
サラからは、依頼主が冒険者に対して、既定以上の仕事をしてくれたと判断した場合に追加報酬が付与されることもあるという。これからのことを考えると、とても大きい。
またシェリダンにお礼を言わないといけないだろう。
依頼終了の翌日。依頼のものが完成したと連絡が来ていたので、ドルグの店で武器と装備を受け取る。
ドルグはやり切った顔をしながら、鞘に納められた一振りの剣を渡してくる。
「どうじゃ!!俺の渾身の一振りじゃ!!!」
鞘から剣を抜くと、精霊銀の特徴である夜空のような透き通る濃紺で、吸い込まれてしまいそうな刀身が現れる。
「この剣…、精霊達がとても喜んでいるのだわ?インゴットの時とは比べ物にならないくらい純度が高まっててびっくりするのだわ。うまく精霊銀に宿る精霊の力を高めてるのだわ?」
ウルが感心したようにドルグを称える。
剣は刀ではないが、リクエストの通り、片刃で反りができるように作られている。どちらかと言えばサーベルに近いが、儂が伝えた刀の制作方法も取り入れながら作り上げたそうだ。
「坊主が言っておったとおり、鞘で滑らす?走らす?ということもできるように作ってある。まぁ俺の感覚であってるかはわからんが、試してみぃ」
蓄えられた髭をなでながらドルグが胸を張っている後ろからブローダが姿を現す。
「服もできているからね。先に着て感触を確かめておくれ」
ブローダが作った服に袖を通す。剣士、というよりは盗賊や忍といったものたちが着るようなデザインだ。袖を通すと、高級な着物に袖を通すようななめらかな心地を感じる。
ドルグから受け取った剣を抜き、構えて軽く振ってみる。非常に軽く、腕の動きの阻害も感じない。
「そいつは精霊銀が編み込んであるからね。普段からかなりの物理耐性と、魔法耐性を備えてる。ドルグとも話してたんだけど、たぶん精霊の力ってやつを使うと、耐性自体が強化されてちょっとやそっとじゃ破れたりすることはないよ」
ブローダも、どうだ!と言わんばかりの笑みを浮かべる。
ドルグとブローダに促され、試し場で動作の確認を行うことにする。中央には変わらず
「こいつは前のよりももっと強度を高めたやつだ。そう簡単に壊せると思うなよ?」
ドルグがニヤリとして人形から離れる。儂は人形の前で正眼に構え、剣と服に精霊の力を流す。
すると、剣は濃紺の夜空のような刀身に、星のような小さな光が輝き、服は金色の光を帯び始める。
この世界に来て感じることがなかった精霊の意思が、声として聞こえてくる感覚に陥る。そのまま傀儡人形に対して剣を振ると、音もなく真っ二つに分かれた。
剣は粉々になることもなく、剣が通った後にはキラキラと白い光が舞っている。
鞘に納めて居合いを行っても何の問題もない。月華のほかに、ここまで美しく、手に馴染む剣を佩いた記憶は外にない。
振り返ると、ドルグは固まるほどではなかったが、「こいつもあっさり壊しちまうのかよ…」と目を見開いている。
ブローダは笑顔だが、ピクリとも動かない。その様子を見てドルグが肩をポンポンと優しく叩いてあげている。
「剣を握ったときの手に吸い付く感じや、精霊の力を流した時の抵抗感のなさに驚きます。儂が知る中でも最高のものですよ」
「おう、そうじゃろう、そうじゃろう!」
「あたしも気合が入ったからね!」
ドルグも蓄えられた髭をゆっくりとなでながら嬉しそうに返事をする。はっと我に返ったブローダもにかっと笑う。
「その剣の銘は宵月じゃ。儂が知っておる刀の命名法則を参考につけてみたが、悪くなかろう?」
"宵月"か。前世界の儂の愛刀は"月華"。こうして月に縁がある武器を手に入れることができたのは、なんらかの導きを感じる。
「こんなに素晴らしい装備を作っていただきありがとうございます。この剣と服を持つにふさわしい剣士になります」
ドルグに大銀貨5枚を渡し、2人に感謝を伝え、とがっしりと握手をした。
ロヴァネの依頼も終了し、冒険者ランクも無事Dに昇格した。そして、素晴らしい装備も手に入った。これで安心して剣が振れる
「これからどうするのだわ?このままここで冒険者を続けるのだわ?」
ウルがこれからについて聞いてくる。
「それもいいんだけど…ランクを上げていくのは少し時間がかかりそうだからね。これからの指針を決めるためにも、王都に行こうかと思ってる」
そもそも儂がこの世界に来たのは、神に近い存在を殺してほしいとお願いされたからだ。
しかし、どうすればそれが達成できるのかわからない。この世界の状況を見ると、神様が実際に存在していた時代は1万年も前になるという。
神様が世界中に存在していた、というのはウルの話しだが、儂の世界には神が実際に現れたという伝承はどこにも残っていなかった。
現在のこの大陸のように唯一神ではなく、多くの神が存在していた。
それぞれ加護を受けることができたことから、神の存在自体は信じられていたものだ。
しかし、『現界した神』というのは、儂の死の間際、世界を混乱に陥れた『禍つ神』が初めてだったはず。
本当に神様を屠ることが必要なのか、そんなことができるのかどうかさえ分からない。
もしかしたら、そうすることでこの世界に大きな混乱を巻き起こしてしまう可能性だってあるだろう。
シェリダンにも情報を集めてもらっているが、彼は研究者ではなく領主だ。学生の頃に歴史や文化、神代の伝承についても調べていたそうなので詳しいのだが、現在は広く浅く、表面上のものしか収集することしかできなかったと言っていた。
そのため、王都にある学園を訪ねてみてはどうかと言われている。
ギレー領とロヴァネ領が所属する国、オーラリオン王国。その王都にあるアルヴェリア学園はこの大陸の中でも5本の指に入る優秀な教育、研究機関だそうだ。
王国建国時の宰相、セオドール・アルヴェリアの号令によって王国民の教育水準の向上を目的として建設され、大陸にある数多の国家の中で3番目の長い歴史を持つ学校だという。
11歳になった王侯貴族や商家の子息子女、数は少ないが入学試験を通過し、能力を認められた平民も通っている。
学校内では各種専門の研究者がいるので必ず役に立つだろうとの事だった。ついでに、そこにしばらく通ってみてはどうかとも提案されている。
騎士戦士科では様々な流派に触れることができるだろうし、学園の図書館にはこれまで王国で研究された魔法の論文が多数収蔵されている。精霊術について研究を行っている者も居ると聞いて、ウルも非常に興味深々と言った様子だった。
「必要な授業と、必要な試験さえ受けていれば毎日出席しないといけないという訳でもないらしい。冒険者と並行してやれるのであれば儂も助かるし、ウルも嬉しいんじゃないか?」
「人が研究した魔法を見ることができるのよね?凄ーく!興味あるのだわ!!サーシャから見せてもらった魔法書もすっごく面白かったのだわ!人の視点は変わってるし、細かく整理されているのはわたしも参考になったのだわ」
ウル達ピクシーは息をするように魔法が使える。精霊にお願いすればその力を借りることもできるし魔力も無尽蔵。
頭に思い浮かべれば必要な魔法が使えるという何とも反則な力を持っているのだが、そのため、魔法を研究するという概念はなかったようだ。
人類のように限りある魔力を効率よく有効に使えるようにしたり、魔法陣の効率化を行ったり、魔法を論理的に組み上げるという視点は、「なんとなく」で使っていたウルの魔法に新しい風を送りこんでいるようだ。
魔法書を参考にいくつか旅に役立つ魔法を新しく開発したらしいので、「やっぱり森を出てよかったのだわ」と、よく口にしている。
「ウルも賛成なら次の目的地は王都だな。ルーヴァルもそれでいいかい?」
「ヴォウ!!」
すっかり儂の腰の大きさまでに成長したルーヴァルもご機嫌に返事をする。あの母狼のように儂より高い身長まで大きくなるのだろうか?
「よし、決まりだな。では、王都へ向かう準備を始めよう。必要な物資や移動などを考えないとね」
儂は周囲を見回し、旅路に必要なものを頭の中でリストアップする。道中、獣や盗賊に遭遇する可能性もあるので、準備は怠れない。
「それじゃ、王都でまた新しい冒険が始まるのだわ!」
ウルは楽しげに宙を舞いながら、王都がどんなところか、ワクワクしながら考えているようだった。
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