9話

 

「ようやく終わったのだわ~!!!」


「ワゥゥゥ~」


 冒険者ギルドから出た途端にグイーッと伸びをするウルとルーヴァル。


「きちんと登録が完了してよかったよ。これでお前達も安心して行動できるな」


 ウルの右の足首と、ルーヴァルの右足には赤い文字で術式が描かれている。


 従魔登録の際に渡されたリングは腕輪のようなサイズだったが、身に着ける従魔に合わせてサイズが変更される優れものだった。金属の素材だったが、不思議なことにウル達が身に着けると、魔術式が残るだけになった。これはすごい。


 サラに聞いたところ、ダマスカスという特殊金属を使用しており、最初はそのままサイズが変わるだけだったそうだ。しかし従魔によって動くときに邪魔になるという意見があり、装着すると金属部分が消え、文様が浮かぶだけという形になったようだ。


 ウルもルーヴァルも特に違和感を感じていないので問題はなさそうだ。


 街行く人はウルが喋っていることにかなり驚いているようだが、足の文様を見ると「なんだ、変わった従魔か」といった感じになるから、入場時のようなトラブルは減りそうで安心した。


「じゃぁ次に行くのだわ~???」


「エリオスさん、店はどのあたりにあるんですか?」


 後ろに立つエリオスは少し疲れた顔をしている。彼は儂たちの目的などをちゃんと確認しなかったことで、サラに思いっきり絞られていたようだ。


 彼が冒険者として活動を始めたころからの担当者で、彼女には頭が上がらないのだと言っている。


「職人街のほうにあるから、俺についてきな」


 エリオスの案内に従いながら冒険者ギルドを後にする。前を歩くエリオスを観察していると、かなり洗練された歩き方であるのが分かった。


 体の使い方が上手な証拠だ。彼は冒険者ギルドではサラに叱られてばかりだったが、この身のこなしを見ると、相当な実力者なのだろう。


 大通りに出ると忙しなく人が行き交い、商人の客を引く声が飛び込んでくる。露天から肉の焼けるいい匂いが漂ってくるたびにウルが「あれを食べるのだわ!」と突っ込みそうになるのをなだめるのに一苦労だった。


 やがて職人街の入り口に差し掛かると、そこかしこから槌が鉄を打つ音が規則的に響き、道端には鎧や剣を磨く職人たちであろう人たちの姿や、仕入れをしているのであろう、大きな荷物を運んでいる商人の姿を見かける。


「ここが職人街だな。ソットリス関門に供給する武具を作ってたり、もちろん、俺達冒険者向けの装備も作ってくれる店が多い。特にこの街はソットリス関門から質のいい魔獣の素材が入ってくるからな。腕のいい職人が集まりやすいんだ」


 エリオスが職人街について道すがら解説してくれる。職人といえば、儂の世界の感覚ではドワーフが最も秀でていたが、こちらでも似たようなもののようだ。知っているドワーフに似た体格、風貌の職人をよく見かける。


「このあたりは。ドワーフが沢山いるのだわっ」


「あれ?ウルはドワーフは分かるのか?」


「知ってるのだわ~。2200年くらい前だったかしら?フォレの湖に迷い込んできたのがいたのだわっ」


 ドワーフの起源は土の精霊だそうで、ウルの遠い遠い眷属に当たるらしいという話だ。代を重ねることに精霊としての力はなくなっているが、その影響で、鉱石などの扱いに長けているとのことだ。


「は~。嬢ちゃんはそんなに長く生きているのかよ。さすが妖精種だな…あ、あそこが目的の店だ」


 エリオスの指さした先に少し古びた作りの看板が出ている武具店があった。見た目もかなり年季が入っている。


「おやっさーん!いるか~?」


 店舗の扉を開けると、店の奥から心地よいリズムの槌の音が聞こえてくる。


「おや、エリオスじゃないか。今日はどうしたんだい?また防具を壊したのかい?」


 カウンターで武具を整えていたドワーフの女性がエリオスに向かって声をかけている。


「いやいやそんなに頻繁に壊さないって!勘弁してくれブローダ!おやっさんは今仕事中か?紹介したいやつがいるんだ」


「はいはい。あんた良く壊すからまた修理かと思ったよ。ちょっと待ってな」


 ブローダと呼ばれた女性は手をひらひらさせながらカウンターの奥に入っていき、「ドルグ~!エリオスが来てるわよ!」と大きな声が聞こえた。


 店主を待っている間、店内に並んでいる武具を手に取って品定めをしてみる。展示されているものは確かに質のいいものばかりだった。


「おう、どうだ。おやっさんが作った武器は」


 エリオスが声をかけてくる。


「とてもいいですね。どれも手に馴染むというか、使い手のことを考えられた良い品だと思います」


「そうだろそうだろ。おやっさんの武器はピカイチだからな!きっとシノの希望に沿ったものを作ってくれると思うぜ」


 自分が褒められたかのようにエリオスは破顔している。ここで作られた武器や防具で、今の自分は生きながらえているのだとこの店をの自慢話が溢れてくる。


「くぉらぁぁぁぁぁぁエリオス~!!!!!」


 カウンターの奥からドワーフが怒鳴り込んできて、そのままエリオスにくってかかる。


「何度言ったらわかるんだ!!もっと丁寧に装備を扱えと何度も逝っとるじゃろうが!!!この馬鹿たれ!!」


 ドワーフは飛び上がり、その大きな拳でエリオスにゲンコツを落とす。店内にゴツン!と鈍い音が響いた


「いってぇぇぇ!!!おやっさんひどいぜ!!今日は俺が装備壊しんたんじゃねぇって!!!」


「あぁん!?じゃぁなんの用でうちに来たってんだ!!お前がうちに来るときは大体武器壊したり、鎧壊した時じゃねぇか!!」


「あっちだよあっち!!」


「あっちだと?…おい、まさか、この坊主たちか?」


 エリオスにおやっさんと呼ばれる店主はこちらを見聞するようにじろりと見る。


「そいつはギルドの訓練場の剣であの訓練用傀儡人形をばらばらにしたんだ。腕は確かだぜ?」


「なんじゃと!!!おい坊主!!詳しく聞かせろ!!!」


 勢いよく肩を掴まれ、店主にガックンガックンと前後に揺らされる。その圧力に少し腰が引ける。


「お、お、落ち着いてください、話します!話しますから~!」


 ここに来るまでの道中でエリオスから聞いたのだが、ギルドの訓練場にあった傀儡人形も魔術具の一つで、ちょっとやそっとの攻撃で壊れるようなものではない。壊せるとしたら、かなり高位の冒険者の全力の一撃でようやく罅が入るといった代物と言っていた。


 ひとまず、訓練場での一連の流れを話し、自分の技に耐えれる剣を探していると伝える。


「は~。坊主、今どき精霊術を使うものがおったのか。しかも今まで聞いたこともない手法じゃ。ちょっと裏の試し場で見せてくれ」


 店主はブローダに店番を任せると告げる。あいよ!と切符のいい返事が返ってきた。


 ちらりとウルとルーヴァルの様子を見ると、ウルはお菓子を食べながらお茶を、ルーヴァルは肉を食べている。どうやらブローダが彼女たちをもてなしているらしい。


「頑張るのだわ~」


「わう!」


 …どちらも我関せずといった感じである。まぁ、ここは儂の用事で来ているのだから仕方ない。


 やれやれと肩を竦めながら試し場へ移動する。「俺も行くぞ~」とエリオスもついてくる。そこにはギルドの訓練場にあった傀儡人形が並んでいた。店主はそのうち1体を動かし、試し場の中央へ移動させる。


「よし、こいつに向かって坊主の技を見せてみな。あぁ、武器がないか…剣だな?これを使え。失敗作だから壊してもらって構わねぇ」


 樽の中に乱雑に刺された武器の中から一本を取り出して儂に向かって放り投げる。


 その剣を受け取り、了承の返事をし剣を抜くと、店頭に並んでいた武器と同じくらいの質の良さを感じる。これで失敗作なのか?


 訓練場の時と同じように、傀儡人形に相対して立ち構える。そして霊迅強化・付与を発動。剣への力の馴染みは訓練場にあった剣とは比べ物にならない。フォレの湖で拝借していた剣と同水準のように感じた。


「では、行きます…!はぁっ!!!」


 一足飛びに人形の懐に飛び込み、逆袈裟から一回転、そして左袈裟で人形を斬る。傀儡人形はバツ印に筋が入り、崩れ落ちた。ふぅ、と一息つき、剣は大丈夫か、と思いきや、こちらもすでに刀身が砕けていた。


「申し訳ない。剣が耐えきれませんでした…。これはどうすれば…」


 失敗作といっていたが…剣の弁償とか必要かも…?など思いながら店主を見ると、目が飛び出さんばかりに見開いており、口をぽかんとあけて放心状態になってる。その隣にいるエリオスは必死で笑いをこらえていた。




「名乗っていなくてすまんな、坊主。俺はドルグだ。あっちは女房のブローダ」


 気を取り直したドルグに案内され、店内の接客用であろうテーブルを囲んでいる。テーブルをは挟んで向かい側にドルグ。ブローダはカウンターに座って手を振る。


「儂はシノ。この肩に座っているのはウルで、こっちの子狼はルーヴァル」


 こちらも簡単に自己紹介をして、話しの続きをドルグに促す。


「俺はここでもう長いこと武具を作ってるが、まさかあの人形をあんなに簡単に壊されるところを見たことなかったぞ。んで、坊主はさっきの力に耐える武器が必要…ということで間違いないな?」


「はい。この力を使うたびに武器が壊れていたらこれから冒険者なんてやっていけないので相談ができればと」


 ふぅむ…と蓄えられた顎髭をなでながらドルグは考える。


「使っているのは精霊術、だったか。精霊の力を借りて身体を強化したり、各種属性の魔法のようなものを使うことができる…と。なかなかむちゃくちゃな話だな!!そんなことをできるやつはなかなかおらんぞ!」


 がはははと笑い、話は続く。


「昔は精霊と契りを結び、召喚をして力を行使するものがそこそこおったが、魔力を扱う技術が進歩した今、どちらかといえば少数派の技術じゃな。その中でも、『精霊に力を行使してもらう』のではなく、『精霊の力を自分で使う』なんてものは聞いたことがない」


 精霊術を行うために精霊と契約しなければいけないが、精霊との親和性が低いと契約すらできず、契約ができても精霊との相互理解に苦労し、本来の力を発揮できない人も多かったそうだ。


 人間が魔力を効率的に扱う方法を開発し、魔法を扱う方が簡単になった。現在は精霊術を選択するものも少なくなったとのことだった。


 もちろん、契約した精霊によっては非常に大きな力を行使することができるが、今はエルフの上位階級や、一部の巫女と呼ばれる人が行使するに限られていて、使い手自体がかなり珍しいらしい。


「しかも魔力がないじゃと?そんなやつが居るのが信じられん」


 ドルグはムムムと眉間にしわを寄せて腕を組む。難しいですか?と率直に聞くと、ギラッとした目で睨まれる。


「だーれができんと言った。俺を誰だと思っとるんじゃ。剣が耐えきれない要因は想像できる。それこそ精霊との親和性によるものじゃろう。鉄や鋼、魔獣の素材で作った武器なんぞ、精霊との相性最悪じゃからの。すぐに耐えきれんくなる。精霊の力をうまく活用するとしたら…ミスリル、ルミナス鉱、エルナイト、それこそオリハルコンあたりが必要になってくるじゃろう。最低でもミスリルじゃろうな」


 ルミナス鉱やエルナイトと呼ばれる鉱石は最上級の素材で、精霊や、魔法の力との相性は抜群だが採掘量が少なく流通も少ないため非常に高価。


 オリハルコンは神の金属と呼ばれていて市場に出回ることは殆どなく、国宝級の武器数点に使われているくらいだそうだ、


「それこそ、変な力の使い方をしたら坊主が身に着けておる魔獣素材の衣服などもすぐに痛むじゃろ。最も手に入れやすい鉱石でミスリルになるが…それでも小金貨3枚はくだらんぞ。どうする?これから冒険者を始めようとする小僧に払える金か?」


「小金貨3枚…えっぐ…」


 エリオスが隣で顔を真っ青にしてぶつぶつ言っている。あ、ドルグに拳骨を落とされた。「武器や防具にはしっかりと金をかけて質のいいものをそろえるのが良い冒険者なんじゃ!!!」と雷を落とされている。


 シャノンやサーシャに教えてもらったのだが、「大小銅貨」「大小銀貨「大小金貨」「白金貨」といった貨幣が流通している。


 これはベルキア大陸で統一されている貨幣価値で、10枚ごとに上の貨幣の1枚になる。小銅貨10枚で、大銅貨1枚、といった風に。


 主に市場などでは銅貨で取引されていることが多く、日ごろ街の人が使う食材や日用品などは小銅貨~大銅貨で取引される。


 銀貨になると冒険者の装備品や、家具などの取引、個室がある宿屋などで多く使われ、商取引でもこのあたりから使用量が増える。


 金貨ともなると高価なアイテムや資産の取引、高級な宿や食事処で使用する。ちなみに、小貨幣は分かりやすいように四角形になっている。


 それにしても小金貨3枚か…。確かに今は厳しい。さすがにフォレの湖で集まった装備品の中にも金貨はなく、銅貨が数枚くらいある程度だった。


 もしもの為に悪いとは思いつつも拝借してきたが、この銅貨が使えるかどうかは少々怪しい。


「あれだけの腕があれば1年もあれば稼げるじゃろ」


 現状、お金を稼ぐ手段はこれから冒険者の仕事を受けていくしかない。しかし、エリオスが言うには、最初の報酬はかなり少ないため、困らないくらいに稼げるようになるまで半年はかかると言っていた。


 領主邸に長くお世話になることも難しいから、途中で宿などに移る必要があるだろう。様々な経費を考えると、必ず1年後に用意できるとは限らないか。


 うーん、と眉間にしわを寄せ、顎に手を当てて考える。迷いを見透かしたようにドルクはにやりと笑って言う。


「なーに、ミスリル製の剣を作るのに最も費用がかかるのが鉱石だ。もし、自分で鉱石を持ってくるのであれば、大銀貨5枚で良い」


 ぶー!!!っとエリオスがお茶をふく。きったないわねー!とウルに頭を叩かれていて、ルーヴァルには足を嚙まれている。


「おやっさん!まじっすか!?」


 エリオスが口元を拭きながらドルグに問う。


「マジもマジの大マジじゃ。今はとんと見かけん精霊術の使い手で、しかも見たことがない、通常の剣が耐えられもしない技。そして、卓越した技量を持つ少年。そんなん創作意欲がわいてくるってもんじゃろう」


 大きな目をキラキラさせながら身を乗り出し、腕に力こぶを作る。エリオスは「そんな裏技が…」とまたぶつぶつ言っている。


「ふむ。ミスリル鉱石はどこで手に入りますか?」


「そうだな。俺が使うときは商人から仕入れるが、このギレー領は産地が近いので比較的安値で仕入れることができる。隣のロヴァネ領がミスリルを産出しとるからな」


「ロヴァネ領!?」


 思わぬ名前につい声が大きく出てしまった。


「おうよ。イシュオリア山脈は貴重な鉱石が多く採掘される。ロヴァネ領にはミスリルの鉱山が存在していてな。そっちに行けば比較的安く手に入るかもしれんし、もしくは、自分で採掘できるか交渉することだ。冒険者ならそういうこともできるようにならんとな」


 にかっと笑ってドルグはぐいっと酒を飲む。


「ねぇ、ロヴァネっておちびちゃん達のとこなのだわ?」


「まさかミスリルの鉱山があるなんてね。聞いてみるか」


「なんじゃ、ロヴァネ領に知り合いがおるのか?」


 どこまで話していいものか少し悩んだが、詳細は伏せて、ロヴァネ公爵家一行が魔物に襲われているところを助太刀した縁で領主と顔見知りになったという感じに説明した。


「坊主!!お前は本当に面白いやつだな!いいぞ!ミスリルを持ってきたら大銀貨3枚で作ってやる!!」


 ミスリルを加工する機会はそう無いからの!といってその大きな手を差し出してくる。儂はがっしりとその手を握り返す。カウンターではブローダが「これだからうちは稼ぎが少ないんだよ」とジトっとした目でドルグを睨んでいた。




 ドルグの店から出ると、エリオスがガシっと肩を組んできた。


「お前、領主代行だけじゃなくロヴァネとも繋がりがあんのかよ…。ほんとわけわかんねぇし、とにかく驚くぜ」


 儂の顔を覗き込むその目はなぜか据わっている。


「はは…なかなか変わった縁が繋がっていまして」


「変わった縁なんてもんじゃねぇよ…。まぁ色々聞きたいことはあるが、明日からお前も冒険者になるんだ。あとは自分でできんだろ?」


「助かりました、エリオスさん。腕のいい職人の方を紹介していただいて、さすが熟練の冒険者ですね」


 儂は腰に佩いた剣をなでる。店から出る前にドルグが渡してくれたファルクスだ。失敗作だから代金はいらんと言ってくれたが、稼げるようになればこの分も支払うつもりだ。


 ただ、精霊術には耐えられんと思うから気をつけろとのこと。


「へっ。失敗も多い分、いろんな経験もしてるってもんだ。ここは俺が冒険者始めたことから色々とお世話になってるからな!安心して任せていいぜ」


 エリオスは儂の頭をぐしゃぐしゃと掻きまわす。彼はギルドでは色々と注意されたり、どこか抜けている感もある冒険者だが、サラやドルグの様子を見ると信頼されているんだろうというのが良く分かった。


「明日からは俺も依頼があるからこの街から一旦離れるが、機会があればパーティメンバーを紹介するぜ。それまで生きてろよ?あれだけの腕を持ってれば余計なお世話かもしれないけどな」


 くくく、と笑うと儂の肩をポンポンと叩き、「じゃ、頑張れよ」と手を振りながら去っていく。


 彼の姿が見えなくなったころ、鐘の音が4回なった。そろそろ領主邸に戻る必要がありそうだ。ギルドを出るときに貰った街の地図を見ながら領主の館までの路を探す。


「シノ!ここに来る途中の美味しいそうなもの食べて帰るのだわ!!」


「ワウ!」


 ウルとルーヴァルはもの大通りの屋台をすごく期待している。ここに来るまで結構我慢させたからな…。ただ、今持ってる銅貨が使えるかどうかはわからないのだが。


「仕方ないな。とりあえず寄ってみるけど、今持ってる銅貨が使えるかどうかわからないからな」


「おっけー!いっくのーだーわ~!!」


「ワウワウ!」




 結論から言うと、手持ちの銅貨は屋台で使えなかった。


 店主は「大陸の統一刻印があるので本物だとは思う」と言っていたが、見たことがない銅貨で屋台では支払いに使うのは難しいと言っていた。使用するならどこかの大店の商店など、硬貨の鑑定ができる場所でしか使えないだろうという。


 その事を聞いたウルがとてもがっかりしていたのを見た店主がサービスだと言って肉串をウルに、ルーヴァルに肉焼きをくれた。


 どうやら職人街に行くときに、美味しそうだと騒いでいたウルがとても印象に残っていたそうだ。


「喋る妖精なんて見たことないし、ひょっとしたら幸運を運んでくれるかもしれないからな」


「あなたいい人間なのだわ!!きっといいことが起こるのだわ!」


 ウルは喜びながら屋台の上を飛び回る。


「ありがとうございます。店主。必ず買いに来ますね」


「ワウ!」


 体は大きく、威圧感のある風体をしていたが、とても気さくで心優しい店主だった。ウルもルーヴァルも喜んでいたし、依頼で報酬をもらったら、まずはここで買い物をするとしよう。


 余談ではあるが、ウルの喜びの感情が爆発すると、羽から光の鱗粉が舞う。


 屋台の上を飛び回っていた様子が『神の祝福』のように見えたようで、一部始終を見ていた住人のうわさが広がり、『幸運の妖精が訪れた屋台』として大きく人気を博すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る