寿司ペロして炎上した奴の末路

ある日、レイとメリヤとユナの3人は寿司屋に来ていた。


無論、寿司屋といっても回る安い寿司屋である。


「あー、寿司屋なんて久しぶり来たな。いつも出前とかで食ってるし」


「ま、まぁまぁ……私、結構お寿司は好きだから」


ユナは割とグルメで健啖家なところがあるので、こういうお店に行くのも好きだ。早速、いくら軍艦を取って食べている。


「えぇっ!前来た時より美味しくなってる……次は私の大好きなタコとハマチを注文しよ!」


(美味そうに食べる奴だなぁ……俺、人並みに生魚は食べるけどここまでじゃないからな……)


一方、メリヤは寿司がレーンに乗って回っているのを見るだけでとても喜んでいた。


「はわわぁ〜!これが人間界にある『回転寿司』っていうお店ですか……!こうやって食べ物が回っているのを見るととても面白いです……!ちょっとここからとっても良いですか?」


「良いに決まってるだろ。ここはそういうお店なんだからな。というか、じゃなかったらどうやって食べると思ってたんだ?」


「え?てっきりああやって楽しむものかと……」


「「ああやって?」」


レイとユナがメリヤが指差した方を向くと、その方向には悍ましい光景が広がっていた。


片方の人がスマホを掲げ、もう片方の人が醤油差しや湯呑みをぺろぺろと舐めている。もう片方はそれを面白がっている。


「もしかしてあの湯呑みに味とかあるんですかね?あんな不思議な楽しみ方をする人間さんも可愛いなぁ……」


当然ながらこれにレイは顔を真っ赤にして怒る。


「良い加減にしろ、メリヤ。あれは悪い楽しみ方だ。ここからさっさと食べたいものを選んで食べろ。わかったな?」


「あ、はい。レイさんがそういうなら従います」


そのままメリヤは寿司を頼んで食べる。とりあえず寿司と言ったらマグロだからなのか、マグロの赤身が2貫注文されてきた。


「メリヤ、お前はワサビ付けないんだな。……辛いの苦手なんだったよな?」


「はい!メリヤ、辛いのはあまり好きじゃないんですよね。この前作ったカレーもメリヤの分は甘口だったじゃないですか。ちなみにレイさんはお寿司なら何が好きですか?」


「エビとイカとサーモンかな。あとかっぱ巻きも割と好き」


「記憶しておきます!メリヤは次は卵を頼みますので!」


こうしてレイたちは一通り寿司屋を楽しんだ。メリヤにとっては寿司を食べたのは生まれて初めてのことだったが、思ったより美味しかった。


3人で40皿ほど食べたあと、レイたちは他のみんなに今日起きたことについて報告していた。


「あ、あのシュウヤさん!メリヤ、醤油差しや湯呑みを舐め回してスマホで撮影してる人を見かけたんです。これってどう思いますか?」


(あー、終わったなメリヤ。よりによってシュウヤにそんなことを聞くとは——)


「お前、何ふざけたこと聞いてんだ!そんなことして許されるわけねぇだろ!それは『寿司テロ』っていう立派な迷惑行為だぞ!」


「すし……てろ?そういえばレイさんも同じことで怒ってましたね……」


「テロってあのテロか?2001年9月11日にアメリカのビルでも起きた……」


アサヒの横からの反応に対し、シュウヤはキッパリと回答する。


「流石にあれほど壮大じゃねぇし直接的な死者も出ねえけどよ、そんなことが起きたら寿司屋の業績にも影響が出んだよ!お前はそれでもいいのか?」


「大丈夫です!それでも人間さんはやり直せます!」


流石のメリヤの反応に、周囲はほぼ全員ドン引きしていた。どうやら、メリヤの人間への理想主義を甘く見ていたようだ。


「猫が皿割っても許すタイプの飼い主だこいつ。あと寿司屋のスタッフ側も人間だからな?」


「あっ……それはそうですよね。お寿司屋さんをやっている人間さんのためにも、一度は罰を受けた方がいいですよね」


ちゃんとそこら辺の理性はあったんだな、とメリヤの底を知って安心する一同だった。


————


一方その頃、一人だけいなかったケーイチは唐突にみんなの部屋に入り込んできた。


「ねーねーねー!面白い動画が友達から流れてきたんだけど、見る?」


「あ、ちょうど色々落ち込んでるところだったから助かるわ。どんな動画かしら?」


「見た方が早いと思うから見せるねー!」


そうしてケーイチは動画を見せた。しかし、その動画はというと……


『はいどーも!今日は醤油差しと湯呑みを舐めていきたいと思います!』


そのまま寿司屋で青年が寿司を食べずに醤油差しから直飲みしたり、湯呑みをペロペロ舐め回したりしていた。他にも寿司をネタだけ取ってシャリを皿の上に置いたままにしたり、ガリを直喰いしたりなど、悍ましい行為の数々が流れてきた。


「ふざけんじゃねえ!どこも面白くねえよこんなん!」


「ご、ごめんなさい……」


ケーイチにもこういう意味でやばい側面があり、決してピュアではないのだと思い知らされた瞬間だった。いや闇を汲み取れない分ある意味ピュアと言えるかもしれないが。


「えぇっ!?もう拡散してるの、これ……ネットの拡散力って怖い……」


「いい教訓になったな、ユナ。魔女だから最先端の科学の力を甘く見てただろ?もう時代はここまで来てんだよ」


(えぇっ!?なんかディスられた気がするわ……私だってネットぐらい使うのに)


ユナがかなり落ち込んでいると、そんなのお構いなしにナオカが横を通り過ぎ、ケーイチからスマホを奪った。


「ねぇケーイチ、これでコメント欄見ていい?」


「いいけど?こんな面白いもの、どうせみんな笑ってるからさー——」


しかし、そんなはずはもちろんない。ナオカが目にしたコメント欄は凄惨を極めていた。


「マジかよ。こんなことして許されると思ったわけ?」

「汚すぎるでしょこの寿司屋。もう二度と行きたくありません」

「怖っ……寿司屋でこんなことするやつって本当にいるんだ。最低」


ナオカは次から次へとコメントを読み上げていく。別に感情がこもっているわけではなく、ただ悪意も怒りもなくAIのように読み上げを進めていく。


「あ、あのー……まぁ確かにやっちゃいけないことではあると思うけどさ……わかる?ブラックジョークってや——」


レイは剣先を突きつけてケーイチを睨みつける。無論本当に殺すつもりはない。


「だとしても弁えろ。ブラックジョークで全ての人間が笑えると思うな」


「あー、それに関してはすみませんでしたぁ……」


(ヒィッ!やっぱりこんなことを笑いながらネタにできるって怖すぎません?)

(案外一番やばいのってケーイチかもしれねぇな……)

(こんなの寿司屋の人が悲しむだけだろう……なんの意味がある?)


当然、周りもケーイチをすごく冷たい目で見ていた。


「とにかく、炎上するって言うのはとても大変なことなんだぞ。令和が始まった時くらいに中国から例のウイルスが流行り出してから、こういう衛生面での配慮ってすごくされるようになったんだ。そこはわかってくれるか?」


「あー、あのウイルスね。はいはい……」


もう今となっては割と過去のことになった、新型コロナウイルス感染症のことを思い出したケーイチは、なんとか笑いを堪えて端末を閉じた。


「とりあえず、これからヤツはおそらくとんでもないことになる。メリヤ、ケーイチ、もうこんなバカなことをしようとは二度と考えないことだな」


「いや、待ってくださいレイさん!私の洗脳で少しだけ状況をよくしたいと思ってるんです!」


メリヤは顔さえわかっていれば、なんとなくのイメージで遠くの相手に洗脳をかけることができる。それを利用して、メリヤは今からでも謝罪させようとしているのだ。


「とりあえず謝罪動画が出るまで洗脳を続けておきます……なんとかメリヤの集中力が持ちますように……」


「ヒィッ!なんだかんだ言って人を洗脳してるのって怖い!」


「いや今更かよキョウカ。ここまでするメリヤは確かに怖いけど」


こうして、翌日無事に謝罪動画は投稿された。


『この度は寿司屋で迷惑行為を働き大変不潔な行為をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした!このようなことはもう二度としません!反省しています!』


「なんとかやつを反省させることはできたか……まぁ、コメント欄は死ぬほど荒れてるけど」


『もう私はとっくに警察に自首しました!なのでもう二度とこのようなことはしませんしできません!』


「え?」


その後レイがニュースを見てみると、寿司ペロを起こした大学生は実際に警察に逮捕されていた。


「あらためて思ったけど、メリヤって怖えな……いや今までとは違う意味だけど。できる限り怒らせないようにしよ」

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