ホストクラブに通うとどうなるのか?
「なぁケーイチ、ユナを知らないか?」
「ユナちゃんなら仕事に行ったきり見てないけど?」
レイとケーイチが、アパートのどこにもいないユナのことを心配していた。それを見たメリヤが2人の会話に割り込んでくる。
「レイさんレイさん、ユナさんがどうかしたんですか?」
「ああ、あのな……ユナが帰ってきてないんだ」
「そうなんですね。じゃあ帰るまで外で待ってます!」
レイはそれを見て止めようとするが、メリヤにその静止は無意味だった。
メリヤはユナが帰るのを30分ほどかけて待っている。すると、箒を持ってユナが帰ってきた。
よく見ると少しだけ顔が赤くなっていて、ふらふらした足取りで動いている。
「遅くなっちゃった……あーあ、あのお兄さんかっこよかったな〜」
「あ、ユナさん!何かあったんですか?」
「え〜?ええっとね〜」
見るからに酔っ払っているユナを見て、メリヤは状況を理解する。
「あ、もしかしてユナさんってお酒飲んだんですか?」
「そうだけど……」
そのままふらふらした足取りで進むユナを見て、メリヤはドアを開けてユナを部屋に入れてあげた。
部屋に入ったユナは、そのまま床に倒れ込みゴロゴロし始めた。おそらく酔っていて怠惰になるタイプなのだろう。
「酔っ払ってる人間さんも可愛いなぁ……」
メリヤはそう呟きながらドアを閉めた。そして、レイがいた部屋へ向かう。そこにはまだケーイチもいた。
「レイさんレイさん!あ、ケーイチさんもいたんですね!聞いてください!ユナさんが帰ってきましたよ!」
「えー?ユナちゃん帰ってきたのー?」
「はい。なんかお酒飲んだのか酔っ払ってましたよー?あと、なんかお兄さんがかっこよかったみたいです。まぁ、メリヤが見たら可愛いんでしょうけど」
その発言を聞くと、レイは一気に衝撃を受ける。
「おい待て、それユナがホストクラブに行ったんじゃないのか!?」
「ホストクラブ……?」
「ああ。簡単にいうとイケメンの男が女に酒を飲ませるところだ」
レイは端的に説明するが、無論それだけではホストの危険性がよくわからない。
伝わらなかったメリヤは首を傾げながら聞くが、当然それを聞いたレイは激しく取り乱して答える。
「えーっと、それの何が問題なんですか?ただ酒を飲むためだけのところですよね?」
「おい、あそこを甘く見るな!あそこにいる男は客を捕まえて離さないんだ!行ったら最後、中毒になって金と精神がやられる……恐ろしい場所なんだ!」
「なるほど……ちょっと調べてみます」
そう言ってメリヤはスマートフォンを取り出して、ホストの何が恐ろしいのかを調べてみた。
ここで、メリヤの中に一つのアイデアが浮かんできた。
「わかりました!メリヤ、ちょっとユナさんと周りの様子を調べてからホストクラブに行ってきます!」
当然ながらレイは止めようとするが、メリヤは聞く耳を持たない。
翌日、メリヤは仕事に行くユナに事情聴取をしてみることにした。
「ユナさん、ホストクラブに行った感想はどうでしたか?」
「楽しかったけど、あたしには合わないって思ったかな……。それに、あたしってあんなに酔うんだって恥ずかしくもなった。だから行かないほうがいいかなって」
「なるほど、それなら安心ですね。でも、じゃあどうやってホストクラブに行きついたんですか?」
「友達から紹介されちゃった」
「なるほど、ホスト通いの友達がいるんですね〜」
そのままメリヤはユナに取り入ろうとし、ユナのいる会社「株式会社リンメイン」に向かって話を聞くために入り込んだ。
二人乗りをお願いしたが箒の交通ルールで禁止されているため、仕方なく自分の足で向かうことにした。幸いそこまで遠くなかったので、ちゃんと着くことができた。
メリヤは人間界を調査する妖精のための魔法技術により、この時にできるだけ違和感を抱かれないように侵入できる技術を持っているのだ。
「ねぇねぇ篠崎さん、ホストクラブに行った感想はどうだった?また行きたいって思った?」
「えーっと、あたしはあんまり……お酒も強くないし、だからもう2度と行くことはない、かな」
「そっか……それは残念だった。私はヴァイツェンさんかっこいいからまた行きたいと思ってるんだけどな〜」
「ユウリちゃん、散財には気をつけてね」
メリヤは会話の節々を脳裏に刻み込み、覚えようとする。
しばらくすると、メリヤがユウリというらしいユナの同僚に事情を聞くため、物陰から現れた。
「わっ、誰?羽生えてんじゃん!」
「初めまして、メリヤって言います!カイコガの妖精です!ユウリさん、ホストクラブはどこにあるんですか?教えてください!」
「ダメだよ、メリヤちゃん!ホストクラブはお酒を飲む場所だから子供は入っちゃいけないの!」
「えぇ……ダメですか?メリヤ、こう見えても妖精年齢だと80歳なんです——」
「えげつない嘘つくじゃん!どっちにしろダメだからね?」
ちなみに妖精年齢だと80歳というのは嘘でもなんでもない。メリヤは人間年齢だと20歳程度だが、メリヤは人間の4分の1の速度で成長や老化をする。
仕方ないと思ったメリヤは、ここで洗脳の魔力を使い、強引に情報を吐かせる。
「あーわかった。それじゃあ教えてあげるね!ええっと、私が通っているクラブは……」
親切にも彼女のオアシスを教えてくれるユウリ。まぁ、親切というか、メリヤによる強制なのだが……。
5時になって退勤時間になると、メリヤは外に出てユウリについていく。
「アパートの外に住んでる人間さんについていくなんて初めてです……でも人間さんはみんな可愛くて性格も優しい人たちばかりなんですから、きっと大丈夫ですよね〜」
(本当に80歳なの、この子……。精神年齢8歳くらいじゃない……?病んで犯罪に手を染めるホスト狂いの子とかよく見るんだけどさ)
当然ながらユウリはメリヤのことを怪しがっている。しかし、メリヤは実際に80歳なので、日本国では法的に酒が飲める年齢である。というか、妖精は人間より小柄だから子供に見えるだけで、人間年齢に換算しても20歳なので酒が飲めるのである。
「こんにちはー!」
「ここがホストクラブですか……」
暗い人間の大人の世界であるとは知らずに足を踏み入れたメリヤ。
「ねぇ、なんで私のことを愛してくれないの?他の女の子と喋ってるの?全部営業だったの?」
「落ち着いてよ姫。さっきの子とはただの仕事関係で、本当に愛してるのは——」
「私ともそうなんでしょ?あの子にもそう言ったんでしょ?もう嫌!うわああああ!」
そう泣きながら出ていく女性が見える。
「あ、あれは……」
「節度を守って楽しめない客はああなるんだよ。ホストなんてただの仕事、そんなのに本気で恋するのも良くないと思うなー。でもさ、そういうのってソシャゲとかでも同じじゃない?私は軽くお酒が飲みたい時やちょっと2人で話したい時に来てるだけだからそんなのないんだけどさ……」
「バーじゃないんですからそんな使い方しないでください……」
「お、その子は新しい客?」
「はい!メリヤって言います!」
「可愛いね、君!まるで子供みたい!ちゃんと20歳以上なのかな?」
メリヤは人間界の年齢証明書に似せて作られた妖精界の証明書を取り出す。
「おお、そうなんだね!」
「はい!メリヤはお酒はまだ飲んだことがないんですけど、あなたはとっても可愛いです!」
「か……可愛い?」
「はい!人間さんは可愛いんですから!」
「え……えっと?」
彼は戸惑い続ける。その一方で他のホストたちもメリヤに見つかると、次第に可愛いと言われ始める。
「ちょ、ちょっと待って。俺たちはかっこいいって言われることには慣れてるけど、なんていうか、その……可愛いって言われることには……」
周りは本気で引いているが、メリヤは謙遜しているだけと思ってさらに詰め寄ってくる。そうしたことが混乱の渦を拡大させることを知らずに。
「あぁ、そこにいるお客さんも可愛いです。可愛い人間さんを見れるだけでメリヤは満足です♡」
「ちょっと待て。彼女は店員じゃない!君と同じ客だよ!」
「わかってます。メリヤは人間さんが可愛いと思ってるだけです」
「よくみたら翅ついてる……もしかして君人間じゃないの?」
周りがメリヤのせいで騒ぎ立てている。あまりに気まずくなったので、これ以上場を悪くしないようにワインを一杯だけ頼んで会計を済ませて帰った。
(もうちょっと人間さんと遊びたかったなぁ……でも、迷惑になるなら仕方ないですね)
「ちょっとここに来るのやめようかな、気まずい……」
こうしてユウリはホスト離れできたのだった。
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