カードが転売されるとどうなるのか?
メリヤはレイについていき、朝早くからカードショップに並んでいた。
「レイさん、さっきからカードショップで並んでるみたいですが、カードってそこまで価値があるものなんでしょうか?」
「ああ。興味のない奴にとってカードゲームのカードなんて紙切れ同然なのは認める。でもこういうのは興味のある奴にとっては大枚を叩いても買いたいものなんだよ」
「メリヤにはちょっとイメージが湧かないです……」
そうしてレイが前から2番目の列まで来た時、レイの前にいた男が大声でこういう。
「はい!こちらのカードあるだけ全部ください!金ならいくらでもあるんで!」
そう言いながらその男は何枚あるか数え切れないほどの札束を次々置いてくる。当然、それを突きつけられた店員も困惑し、後ろからパックを次から次へと置いていく。
「はい、こちら28万6000円になります……」
「金ならいくらでもあるんでこれで!」
見るからに憂鬱な気分になりながら、店員は仕方なくお金を受け取る。
「あ、ありがとうございました……」
「ヒャッフゥ!」
男はカードパックと釣り銭だけもらって帰っていく。
「ただいまのお客様でファイトクリーチャーズは売り切れになりましたー!」
「あらら……残念でしたねレイさん」
「そうだなメリヤ。帰るぞ。新弾が発売されるから寝る間も惜しんで楽しみにしてたってのに……」
レイは舌打ちをしながら帰っていく。
カードゲームやテレビゲームなどの種類を問わずゲームが大好きなレイにとって、先ほどの男がカードを買い占めていく光景は見るも無惨なものだった。
しかし、メリヤはレイがそんな気分になっていながらも、ただ残念としか思っていなかった。
レイとメリヤが帰宅すると、早速2人は事情をアパートのみんなに報告する。
「……ということがあったんだが」
「えぇっ!そんなことがあったの……オタクの行動力って恐ろしい……」
「で、でも!メリヤは思うんです!カードゲームが好きだからあの人はあそこまでファイトクリーチャーズを買い占めたって!きっと石油王か何かだったんでしょう!」
メリヤのその発言に対し、シュウヤは呆れ、その数秒後に怒ってメリヤを説教する。
「おい、メリヤ!お前いい加減にしろ!氷室の前にいたのは多分『転売ヤー』だぞ!」
「転売ヤー?」
知らない言葉に首を傾げる。しかし、シュウヤは続ける。
「ああ!カードだのチケットだのゲーム機だのを買い占めてメリカリとかのフリマアプリ使って高額で売り捌く連中のことをそう言うんだよ!そんなクソ迷惑な奴らはちゃんと製品を楽しもうとしてる奴らの敵でしかねぇ!百害あって一利ねぇぞ」
「え、そんなきつい言葉を使わなくてもいいんじゃないですか——」
「いや、シュウヤの言うとおりだ。転売するような奴は一刻も早く業界から消えればいいと思ってる」
レイが肯定したのをみて、メリヤは状況が理解できなくなってしまった。
「で、でも……!きっと家族がいるんですよね?病気で死にかけている家族を救うために転売行為を繰り返しているんですよね?」
と、このとおり。メリヤは人間に夢を見過ぎるがあまり、人間の悪性を感じたり想像したりすることができないのだ。
当然ながら周りの人たちは皆呆れている。流石にお相手の転売ヤーに死刑になれと思うほど忌み嫌っているものはいないが、流石にメリヤの人間崇拝は度が過ぎていると思ったからだ。
「……メリヤちゃんは人間の悪意にもっと気づいた方がいいと思う」
「もう、アサヒさん!人間さんにも悪意があることくらいわかってますよ!アレですよね?人間さんだって他の人がとっておいた冷蔵庫のプリンを勝手に食べたりとか、寝ている人の顔に落書きをするくらいの悪意があることは知っています!」
(本当に
「それでなんだけどさ、メリヤちゃん。ちょっとスマホで調べたほうがいいことがあるよ」
「何?」
「さっきのファイトクリーチャーズ、メリカリで調べてみてよ」
「わかりました!ナオカさん!でもメリヤのスマホにメリカリはないので調べられないです……」
「それなら貸してあげるから」
「ありがとうございます!」
ナオカに渡されたスマートフォンでメリカリを開き、ファイトクリーチャーズがどのように売られたのか調べてみる。
「ファイトクリーチャーズのパックが500円で売られてます!確かファイトクリーチャーズって1パック……何円くらいでしたっけ?」
「確か180円だったぞ」
「たったの180円!?それが500円にって……倍以上になってるじゃないですか……」
転売の恐ろしさを知ったメリヤだった。しかし、一応言っておくと、これでも転売した人間が完全な悪だとは思っていない。むしろ、何か大切なものを守りたい理由があるのではと思っている。
「それで、転売されたパックはどうするんです?」
「補充されるのを待つに決まってるだろ。そっちの方が負けた感はない。だいたい買い占めて高値で売りつけた迷惑なヤツに金が入るのは嫌だからな」
「なるほど!それじゃあ、明日になるのを待ちましょうかね〜」
とりあえずこれで解決したかのように見えた。
翌日、メリヤとレイは転売ヤーが現れたカードショップに行く。そこではすでにファイトクリーチャーズのパックが補充されていた。
「よし、これを買うか」
レイはファイトクリーチャーズのパックを1枚買おうとレジに並ぶ。
「180円になりまーす」
レイは言われた通りに財布から180円を出して購入する。
しかし、レイの後ろでは別のカードゲームのパックを買い占めようとする例の男がいた。
「はい!こちらのカードあるだけ全部ください!金ならいくらでもあるんで!」
「おい、メリヤ。あいつがカードショップを出ていったら洗脳で動きを止めてくれ」
「わかりました!」
カードショップを出ていった転売ヤーの男を見つけると、メリヤは彼のことを洗脳し、その場に立ち止まらせる。
「よし、メリヤ。こいつをアパートまで連れていくぞ」
メリヤとレイは転売ヤーをアパートまで連行する。転売ヤーはメリヤに洗脳されて操られているので、足だけを動かして一言も発さずについていく。
「よし、ついたぞ。お前ら、こいつが問題の転売ヤーだ。捕まえたぞ」
「ヒィッ!初めて会う人だ……」
「逆にいつも遭ってたら嫌だろ」
「メリヤ、こいつの洗脳を解いてやれ」
メリヤは了承して洗脳を解く。すると何が起こったのかわからないまま転売ヤーは逃げようとした。
「こいつのこと追いかけてくる」
そう言ってナオカは瞬時に駆け出し、転売ヤーの腕を固めることで捕まえた。そして持ち上げて身動きが取れなくした転売ヤーを再び敷地まで運んでくる。
「まさか俺が女に捕まって持ち上げられて運ばれるなんてな……まるで赤子みたいだ……」
「お前はどんな動機があってこんなことをしたんだ?」
「……家族がいたんだ。俺の母さんは癌でな。それを治すためには高額の医療費が必要って言われたんだ。だから仕方なく転売をしてたんだ……」
「えぇっ!?まさかそんなことが……」
一般的な犯罪者のように利己的な動機で転売をしているかと思ったら、まさかのメリヤの言った通りだったことに驚くユナ。
しかし、それでもメリヤ以外の一同はやったことは許されないというような顔をしている。
「どんなことがあろうと悪行は許されませんよ。あなたのお母さんは残念ながら……」
「ああ、死ぬ運命だったのはわかってる。でも俺が希望を捨てられなかったのかもな。今回は俺の負けだ」
その後、ナオカは彼をつかんだままスマホで警察に通報する。しばらくするとアパートの元に警察が来て、転売ヤーの男は逮捕された。
「刑務所でゆっくり反省します……」
そのまま転売ヤーは申し訳なさそうな顔でパトカーに乗った。
「これで一件落着か。みんなありがとう」
そうして、レイは自分の部屋に戻っていく。メリヤもその後を追った。
「レイさんレイさん、メリヤの予想、当たってましたよね?」
「ああ、そうだな。驚いたよ」
「とりあえず、そのカードパック開けてみたらどうですか?」
「わかった」
レイはカードパックをハサミで開封する。すると、中から竜の頭をしたローブ姿の魔術師のようなモンスターが描かれたカードが出てきた。
「おお、これは……」
「やった!大当たりだー!今日のパックの目玉商品だ!」
そう言ってレイは上に拳を突き上げる。その様子はメリヤも見たことないくらいの笑顔だった。
(こんなに喜んでるレイさんも可愛い……)
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