第2話 神杖の儀式 ⑵
クウガス王国の王都クウトは、大きく分けて3つのエリアに分かれている。王都の中心からレジェ区、アリイ区、コモン区と区別されている。
レジェ区は、王家と大貴族が住んでいる地区。
アリイ区は、中流貴族と下級貴族が住んでいる地区。そして、アリイ区はさらに北区、東区、南区、西区の4つに分かれている。
コモン区は、下級貴族の中でも身分が低い貴族と平民が暮らしている地区。そして、コモン区は時計のように1番区から12番区と分けられている。
それぞれの地区には教会が存在する。この世界では魔法の力で身分が決まるくらい、魔法絶対主義である。そして魔法の才能は神から与えられる杖に依存するため、ほとんど全員が神を信仰している。そのため、全ての地区に神を祀る教会がある。
私はコモン区の6番区に住んでいるため、6番区の中心にある教会へと向かっていた。
教会へ向かう道には、私と同い年と思われる多くの子供が居る。
クウガス王国では、全ての5歳の子供が4月1日の
周りを歩く子供達は全員、黒いマントを着ている。The魔法使いといった感じの服装だ。
神杖の儀式に参加するときは、黒のマントを着ることが暗黙のルールとなっている。そして、マントの下には白い服を着る人が多い。
このことをリンはミステから何度も言われ、今日の朝も最後の確認を取られたが、もちろん服装に関してはかえるつもりはなかった。リンが今着ているゴスロリ衣装を変えてしまえば、ゼータのように堂々と行動することができなくなってしまうため。
もちろん、このゴスロリ衣装の上から黒いマントを着れば、ある程度周りの人に馴染むことができ、さらにゼータとして行動もできるが、ゼータになりきろうとするリンにとっては妥協できないところである。
そのため、周りの子供達はリンのことを異物でも見るかのように怪訝な視線を送っていた。
私は周りからの視線に気づいたが、世界の中心である妾が注目されるのは当然のことだと思い、特に気にすることはなかった。
教会の前に着いたときには、多くの子供達が集まっておりとても注目された。
私はそんな注目にも気にすることなく、いつもように優雅に堂々と教会の入り口に向かってまっすぐ歩いて行く。
全員が道の端により、私の目の前に一本の道ができる。
悪くない、この感じ。ふふ。
リンは、内心、気分が揚がりながらも、なんともないといった感じで歩き続けた。
でも、もう少しなんかないかな。もうちょっとなんか、
「おい、あいつの服装ヤバくないか?」
「あいつ誰だよ?」
道の端からはそんな声が聞こえてくるが、振り向いたり反応することはない。
これこれ!この感じめっちゃゼータっぽい!もうこんなの私、妾は世界の中心じゃん。
そんな興奮した感情を抑えて、私は開けた道を優雅に歩いて行く。
ボン!
「ああっ!」
私は目の前の何かに当たり、目の前の人が声を出したことに気づいた。
リンは興奮した感情を抑えるのに必死で、道を空けずに立ち止まってる人に気づかなかった。
顔を上げると、同い年とは思えないほど大きな男がこちらをにらみつけていた。男の右頬には大きな傷がついていて、目つきが悪い。普段のリンならびびって震えていただろうが、今はゼータなのでまったく怖くない。
「申し訳ないでありんす。少し考え事をしていて、ぶつかってしまったでありんす。」
リンは男を見上げながら、はっきりと言った。男は上から顔を近づけ、威嚇するようににらみつけてきた。
「ああ、それだけかよ。人にぶつかっておいて、ただごめんなさいって言うだけか?なあ!」
「じゃあ、妾はどうすればいいんでありんすか。あなた殿は何がお望みでありんすか。」
堂々と受け答えするリンに対して男は地面を指さす。
「土下座に決まってんだろ。そしたら半殺しで許してやる。早くしろよ。」
周りの子供達は騒いでいた。
「おい、やばいぞ。あいつ猛犬に絡まれてるぞ。」
「大人呼んできた方がいいんじゃないか。」
ふーん、この男は結構こう有名なのか。それに猛犬?少しだけ興味がわいてきたな。別に土下座するのはかまわないけど、ゼータとして服従したような行動するのも嫌だなぁ。
リンは周りからの声を聞き、のんきにこれからゼータとしてどうするか考えていた。
男は無言のリンにいらつきを募らせ、さらに顔を近づけてくる。
「おい、聞こえてるのか、早くしろよ。殺すぞ!」
「ところであなた殿は誰なのですか。謝るにしても名前が分からないとでありんす。」
私の言い分に納得してくれたのか、男は顔を離し、胸のあたりで腕を組み、周りにいる子供達にも聞こえるほど大きな声で宣言した。
「俺のことを知らないだと、俺は6番区の猛犬タイチ様だ。」
「……」
「おい、びびっちまったか?」
タイチは下卑た笑みを浮かべる。
え、ダッサ。6番区の猛犬タイチ様?ダサ。いや、5歳の子供ならかっこいいと思えるのか?いや、それでもダサくない。もうどう考えても序盤のモボキャラじゃん。
リンは唇を震わせながら答えた。
「申し訳ないでありんす。ダサ、ふっ、かっこいい名前でありんすね。妾はロコー・リンなのでありんす。」
「ロコー?どこかで聞いたことあるな。」
「妾は一応貴族でありんす。なのでここらへんで終わりにしようでありんせんか。」
リンは相手の二つ名が拍子抜けで、もういいやと思っていた。
そんなことより笑わないように必死だった。唇がピクピクしていた。
「はぁ!猛犬と呼ばれてるこの俺が貴族だからってびびると思ってるのか!」
右腕を振り上げ、リンの顔めがけて拳を突き出してきた。
「はぁー。」
私は頭を少し右に寄せ、タイチの拳をよけ、一歩下がる。
「はぁー、めんどくさいでありんすね。もう妾はタイチ殿に興味はないでありんすがね。」
「黙れ!」
タイチは私が下がった分詰めてくる。そして拳を振り上げてくる。
タイチが詰めてくるのに合わせて、私も一歩大きく前に進み、二人の距離はほぼゼロ距離になった。私はできる限りつま先立ちし、顔を上げ、目の前のタイチを下から、口の端を上げ笑いながらのぞき込んだ。あと数ミリで私の顔がタイチの胸あたりにぶつかりそうなくらいの距離だった。
「!」
タイチは私の行動が予想外であったのか驚いた顔をしている。そして、距離が近すぎたせいで拳を突き出せず、一瞬止まった。
私は左手の人差し指で躊躇することなく、止まった男の右目に突き刺した。 何か膜のような物がプチと破れて、一瞬何も無い空洞になりそのまま突っ込むと柔らかくぐちゃぐちゃした感覚がした。気にすることも無く人差し指を押し込んだ。
ぐちゃ!
うわ、気持ち悪い。
まあ、心の奥でゼータっぽく残虐的なことができて嬉しいとは思ったけど。
それでも悪いことをしたなどの後悔は全くなかった。
「うわー、い、ウッ、あっ、たす」
リンの目の前では、大きな男が右目を押さえて声にならない声をだし、嗚咽を漏らしていた。
周りで見ていた人も黙り、タイチの悶え苦しむ声だけが響いた。
リンは左手を振り汚れを落とし、ハンカチで拭きながら、目の前で動く物体に声をかけた。
「それでは失礼するでありんす。六番区の駄犬殿。」
リンはすでに目の前の駄犬には興味がなくなっていた。もともとダサい二つ名を聞いて興味をなくしていたが。
リンは一度も振り返ることなく、教会に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます