蜜柑と藍苺

@issei_00823

第一章 ササリアの塔

プロローグ


 君の、その声を覚えている。

 君の、その表情を覚えている。

 君の、その体温を覚えている。


 君は本当に勝手な女だった。

 何度君に振り回されたことか。でも。

 君は何度も優しくしてくれたよな。君は何度も叱ってくれたよな。

 君は何度も笑ってくれたよな。君は俺に少しだけ涙を許したよな。


 俺は本当に君が好きで、でも本当に君が嫌いだった。

 君の仕草が本当に可愛くて、でも君の決断が本当に許せなかった。

「キーク。あなたは生きるのよ」

「……待て」

 それならせめて自死するのは勘弁してほしかった。勝手に逝かないでくれよ。こんなでっかい感情を人に押し付けて、こんな重たい想いを背負わせて、自己満足したまま逝かないでくれよ。

「キーク。元気でね」

 おいおい。立ち直るのすげぇー大変だったんだぞ?

「……行くな」

「キーク。あなたは私が居なくても生きていける」

 ああ、そうだな。君は正しかったよ。

「……俺は、君が思うほど強くはない」

「キーク。あなたは自分で思うより強い人よ」

 いや、そこは今でも懐疑的だよ。

「……君は、本当にずるい女だ」

「キーク。ありがとう」

 最後にありがとうはずるいよな。

 君は本当にずるいヤツだよ。でも、俺はそろそろ夢から覚めるから。

 また夢で会うかもしれないけど、とりあえず今回はここで終わりにするよ。


 じゃあ、またな。


 さようなら。


 ササリア。

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