第3話 深夜の出会い
僕の体が熱いお湯と拾ってくれた女性の心遣いで温まる頃には、もうあの雨のように冷たい女の声が思い出せなくなっていた。
「お〜い、着替え置いとくぞ〜。私のだから大きいかもだけど…」
その代わりに僕を拾ってくれた女性、シンヤさんの温かくて優しい声がお風呂のドア越しに聞こえる。。
「お前の服すごいびちゃびちゃだったからな…。すごい寒かっただろ?」シンヤさんが洗濯機を操作しながら聞いてくる。
「はい…おかげで本当に助かりました。」
あの後僕を家に連れ帰ってくれたシンヤさんは親のことやこんな夜まで外にいた理由も聞かず、素性も分からない僕をお風呂にまで入れてくれたのだ。シンヤさんの優しさで暖まった僕は、シンヤさんが脱衣所から出たのを確認してお風呂からあがる。
洗濯機のけたたましい音と、何やら美味しそうな良い香りがする。用意してもらった大きめの赤いジャージに袖を通し、短い廊下を通りリビングのドアを開けると、下ろしていた髪をポニーテールに結んだ私服のシンヤさんがカップラーメンを作っていた。
「私、料理は美味しく作れなくてな…。これで我慢してくれ。」と申し訳無さそうにシンヤさんが目を伏せる。
「いえ…!温かい食べ物をいただけるだけでも嬉しいです。それに、カップラーメンなんて食べるの久しぶりだし…。」
「本当か!?それなら良かったっ!」シンヤさんは目を輝かせて喜んだ。
「じゃ、伸びる前に食おう。」
僕達は初めて一緒に食べる食事に感謝し、手を合わせた。
「いただきます」
茶色の熱いスープが絡まった麺をすすると、豚骨のいい香りが鼻腔をくすぐる。その香りにさらに食欲が溢れ、たまらずにさらに麺をすすった。
「すごい食いっぷりだな…ずるる。」
「はい、ふおくおいひいれふ!(すごくおいしいです!)」
僕の止めどない食欲が落ち着く頃には、スープの一滴まで無くなってしまっていた。
「ぷはぁ〜。ごちそうさまでした。」
シンヤさんの方を見ると、かなり勢いよく食べた僕よりもずっと早く食べ終わっていたらしく、頬杖をついて僕を小鳥でも見るかのようにじーっと、眺めていた。
「あの…?シンヤさん、どうしました?」
するとシンヤさんがぼそっと、かろうじて聞こえるような小さい声で呟いた。
「…。お前が好きだ。」
言われた言葉の意味がわからず、何度も頭の中で反芻する。好きっていうのは…?好むこと…、僕を愛している…?、いや、それはありえない、
そして記憶のページは出会った頃まで巻き戻る、最初の悪魔のような笑い声、食事を振る舞い、体を洗ってくれる、僕は小学一年生のときに学校の図書室で読んだ「三枚のお札」を思い出す。
ひとりぼっちの少年を拾い、世話をするふりをして食べてしまう。
少年の柔らかい頬が凍りついた。
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