第10話

「カーツ、助かったわ。本当にありがとう」


マークさん達が男を連れて行ってくれて、安心したら急に力が抜けちゃった。


ベッドに突っ伏したわたしをハートさんが労ってくれる。


彼女の方が大変だったのにね。


「ハートさんこそ大変でしたね。大丈夫ですか?」


「うーん、馴れてるわけじゃないけど、わたしは冒険者だからね。

いろんなトラブルに巻き込まれる耐性っていうかな……が身に付いているみたい。


それよりさー、あのナイフはなんなの?的外れなところに投げたと思ったのに急に変化して彼奴に直撃したわよねー。


びっくりしたわ。」


「よく分からないです。とにかく無我夢中で………」


本当に何が起こったのか分からないのよね。


そりゃ公演でナイフ投げをしてるから練習は欠かしたことが無いし、狙ったところに百発百中とはいかないけど、それなりに上手だと思うわ。


だけどさっきのは完全に予想外って言うか、自分でもどこ投げてるのよって思ったぐらいだもの。


「ねぇ、もう一度投げてみてよ。もしかしたら、あまりの緊急事態に新たな能力が目覚めたのかも」


ハートさんが興奮気味に捲し立ててくる。



新たな能力……か。本当だったら凄いね。


「分かりました」


ひと眠りして元気になったわたしは広い場所で適当な木を見つけて少し距離をとった。


近くにはハートさんや話しを聞き付けた銀の鈴のメンバーも集まっている。


「じゃあ投げますね」


いつものように的となる場所を狙って投擲。


少しずれたけど木には突き刺さった。


次は昨日のように大きく的を外した場所を狙ってみる。


案の定というか当たり前というか、ナイフは的を大きく外れてしまった。


それから何度か試したけどやっぱり外れてしまう。


飽きてしまったのか、そこに残っているのはハートさんだけになっていた。



「カーツ、昨日投げた時何を考えていた?」


「何をって………ハートさんを捕まえている賊の腕に当てることしか考えて無かったわ」


「たぶんそれよ。小さな的を意識してそこに集中してみて」


「分かったわ」


集中ならいつもしてるし、多少集中力を増やしたところで…って思うけど、とにかくやってみましょう。


あの時の光景を思い浮かべる。


暗かったわね。そううっすらとハートさんの顔と拘束されている白い腕は見えたような気がする程度だったけど。


後は真っ暗でほとんど見えなかった。


目の良いハートさんだからナイフの軌跡が見えてたみたいだけど、わたしは見えてなかったし。


目に集中するんじゃなくて的だけを頭に思い浮かべるようにしてみたらどうかしら。



ふとそんな思いが頭に浮かぶ。


的に集中する。


駄目よ。目で見ながらだと目に集中しちゃう。


目を瞑って的の木をイメージしたけど、すっごくぼんやりしてる。


もっと小さな的にしなきゃ。


枝を落とした小さな切り口が目についた。


あれを的にしよう。


もう一度目を瞑って今度は切り口をイメージする。


ぼんやりしてるけど、さっきと違って切り口だって分かる。


もっと集中。だんだん切り口が鮮明にイメージ出来てきた。


的まではおよそ15メートル。目で見ても切り口はあるかどうかが判別出来る程度なのに、脳裏には鮮明に年輪まで綺麗に見えている。


そういえばあの時も夢中だったけど白い腕は見えてたような。


そして切り口までの赤い線が見えた瞬間、ナイフを振りかぶっておもいっきり投げた。


ブスッ!


「す、すごーーい!」


ハートさんの驚嘆の声に目を開くと、わたしのナイフは木の切り口を半分に割って突き刺さっていたのだった。


それから何度か試してみた。


少し集中力を欠くと精度が落ちるけど、コツを掴む度に失敗しなくなり10分後にはかなりの確率で成功するようになっていたし、赤い線が見えるまでの時間もどんどん短くなっていた。


いつの間に集まっていたのか一座のメンバーや銀の鈴の面々も集まってきている。


「もっと別の方向に向いて投げたらどうかしら?」


「真上に投げたら?」


「地面に投げたら?」


「「「そりゃ駄目だろ!」」」


言われるままにいろいろやってみた。


結論からいうと、下は駄目だったけどそれ以外は問題なかった。


赤い線もある程度の距離が無いと曲がり切れないないようで、その距離は修練すれば縮まるような気がする。


今のところ2メートルくらい前が空いていれば投げられそうだ。


「こりゃ雪だるまでもナイフ投げが出来るナ」


いつの間に来ていたのかラック座長の楽しそうな声が聞こえた。

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