02

 そこには、おれとたいして年の変わらなさそうな、あるいは年下の女の子が、その白く透き通った手でアダルト作品をつかみとり、静かに、そして哀愁を漂わせながら見つめていた。鳥肌がたった。でも少し、親近感があるというか、なんだか嬉しくなる。

 その不思議な少女は、一度パッケージを元の場所に戻した後、再度他のパッケージへと手を伸ばした。小さい手で持ったパッケージをひたすら見つめている。決して覚えたてではない完璧な動作が、そこらのおっさんや、おれと同じだ。やがて繰り返されていた動作は止まり、とあるパッケージに彼女の視線が止まった。

 彼女に興味のないふりをして、彼女の後ろを、さっと通った。彼女の純度百パーセントの黒髪が、おれが通ったことによって発生した風圧で静かに揺れる。すると、シャンプーの香りがおれの鼻を突き抜け、目の前の人物が女の子であるということを改めて認識させられた。

 疑問はいくらでもある。清楚で、端正な顔のつくりをした彼女がなぜエロを嗜んでいるのかということと、どうして彼女はパッケージに写った女優の乳ばかり見ているのだろうということ。このふたつだけは、どうしても気になって仕方がない。



 もしかして、借りるのか……?



 そんな疑問が浮かんだ。あんな綺麗な彼女が、あんなビデオを借りて、家で吐息を洩らしながら見るのだと思うと、自然に心拍数があがる。ああ、気になる。その様子を見てみたい。その動機をきいてみたい。

 急にわいた欲望があまりにもおれを狂わせる。次の瞬間には、普通はありえないような言葉を彼女に投げかけていた。

「胸ばっかりみてさ、なに、それ、借りんの?」

 びっくりした。

 あまりにも無防備で、自分でも馬鹿みたいだと思ってしまうような質問。そして、少し攻撃的な言い方になってしまったのは、その裏返しの意味があるからだろう。

 彼女はこちらのほうへ顔を向けたが、目は合わさずに、何も言葉は放たなかった。

 また、柔らかいかおりがする。なんだか、この子は、色素の薄い花弁みたいだ。なぜかこんなところに咲いてしまった花の断片。完全に、景色にから浮き出てきてしまっている。

 彼女の表情は、エロで興奮しているというよりも、どこか切なげだった。本当は綺麗に咲いていたのに、いくつかむしりとられた、庇をつくる薄い影。

 彼女は俯きながら、大事そうにかかえていたパッケージを元の場所に戻した。彼女は困惑したようで、そわそわと変な足踏みをはじめた。

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