あなたさえいなければ 【再掲】

猫山鈴助

なぜなら


 体の芯から熱いのか冷たいのかの判断もつかないような灼熱の黒が湧き上がる。

 他の人が自分を見たらどす黒いモヤが見えるのではないかというくらいの殺意。

 女、もしくは男はそんな様子で街を、人混みの川に流されていた。

 池袋、サンシャイン通り。自分のような亡霊が何人も、いや、何匹も転がっている。

 体のどこも痛くないし、口から血の味がするなんて漫画的な事も無い。ただ、心臓が凝縮されたドブ色の感情で激しく震えている。

 アイドルとか、ホストとか、今まで自分を無様にも励ましやがった脳天気な、現実が明るく見えすぎてる奴らへの怨嗟を脳内で呟きながら、流される。ここは道路だったか、三途の川だったか。

 話は戻るが、現実はすべて見え方の問題だ。東京は世間知らずで心のきれいな、なんの苦労もしたことのないガキには美しく見える。

 でも、暗く霞んだ私達の目では糞尿で溢れた灰色の箱に美しさは見いだせない。

 きれいな桜の枝は6年前には人が吊るされていたし、カフェテリアの談笑に感情は含まれていない。

 今の私に何かを美しく見ることはできない。きっとシャワーでも浴びてテレビを見る頃にはこんな激情もすっかり忘れているのだろう。また世界がきれいに見えるように錯覚してしまうのだ。そんか決まり切った無様で滑稽な幸せが私には許せない。

 許してたまるものか。

 私はこの世界を正しく見続けたい。この街は汚らしくて、生理的な、動物的な感情をさも上位生物気取りに装飾した肥溜めに過ぎないのだ。

 あなたの顔はもう忘れた。池袋駅を出る山手線は3分後に発車だ。

 道路を歩く。 

 階段を、登る。

 

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