第8話

「5年間、私の傍にいてくれてありがとう。私の味方でいてくれてありがとう。……最後まで、信じきれなくてごめんね」


「……由奈」


「……私のことは忘れて、元気でね」





そう言って、私は日下の方へ歩き出す。



小さく私の名前を呼んだ光流の瞳は、微かに揺れていた。……酷く、胸が痛い。



でも、何もない私が光流に出来ることはこれだけだ。主人の癖に情けないけど、私の為に光流が犠牲になるなんて耐えられない。



……まぁ、私が主人らしくいれた時なんてきっと無いけど。




「…由奈」


「……」


「…由奈、行くな」




背後で光流の声がした。

……彼の声が、震えている。



私はグッと拳に力を入れて、聞こえていないふりをした。




……光流。


ずっと、応えてあげられなくてごめんね。




少し考えれば分かったことなのに。そんなことないって自分に暗示をかけ続けた私のせいで、最後まで日下を信じていた私のせいで……光流をこんなことに巻き込んでしまった。


私は光流を傷付けてばかりだ。


光流に傷付けられたことも沢山あるけど、それは彼の愛情の裏返しであって、私はそれにもずっと気付いていなかった。



……だから、最後くらいは。



光流のために私が出来ることをする。


光流が私に割いてくれたこの5年間の記憶を、私は一生忘れない。傷付いたことも、悲しんだことも、幸せだったことも……光流の分まで全部忘れない。



だから、

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