スミスの監視カメラ
ポンコツ二世
ジョンと監視カメラ
ベトナム戦争は終わった。アメリカの敗北で。祖国に帰国した兵士は様々な道を歩むこととした。軍にとどまるもの、除隊するもの、家族や恋人と一緒にのんびりするもの、新たな職業を見つけ、新生活を再スタートさせるもの…。しかし、もうひと種類の人間がいた。
ジョン・スミスは自分の家にいた。家族も恋人もいない、独り身だった。いや、正確に言うと、彼は一人ではなかった。彼は監視されていたのだから。二十四時間ずっとだ。
彼はコーヒーとパンを体内に入れる。今日は何もすることがない。というか、毎日することはない。あの、激戦からようやく帰ってこられたあとは何もない日々だ。その姿は監視されている。
彼はあの時のことに思いをはせた。塹壕での日々、ベトナム人ゲリラ兵との銃撃戦、遠くで聞こえる爆撃の音…。すべて、彼の生活の中心だったものだった。彼は元陸軍だ。
「あの時代のこと、思い出しても大丈夫なのか?」監視カメラから声が聞こえた。この監視カメラは彼の思考すらも把握することが可能なのだ。
「大丈夫かもしれないし、大丈夫じゃないのかもしれない。」スミスはそう応答する。
「今日は何をする予定だ?」監視カメラ側はなおも尋ねた。
「今日は何もしない。ただ、本を読み、ベッドに入るだけだ。」
「医者から太陽の光を浴びろと言われていなかったか?」
「そんなすることはする必要はない。」そしてスミスはそう付け足した。「まだ、戦争は続いているからな。わざわざ、戦う必要はない。」
監視カメラ側は少し戸惑いながらこう答えた。「ここはアメリカ合衆国だ。ベトナムじゃない。」
スミスはコーヒーをすすってからこういった。「いや、どこだろうと侵略されているの。アメリカもベトナムも中国もソ連も。」
「ほう、それはどこからだ?」監視カメラは尋ねた。
「分からない。本当にわからない。それはどこでもないのかもしれない。だけど、どこかに世界は侵略されている。」そして、こう付け足した。「俺はまだ前線にいる。まだ、戦争は終わっていないんだ。」そう言って、スミスは机の引き出しからピストルを取り出した。
ジョン・スミスと監視側の通信は途絶えた。
スミスの監視カメラ ポンコツ二世 @Salinger0910
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます