黄昏

藤間詩織

第1話 ためらい

「立浪さん、歩くの早いよ。もう少しゆっくり歩こうよ」

「だって、カラオケの予約に間に合わない」

立浪真琴はずんずん歩いていく。

誰もいない裏通り。

サークルのみんなに見つかったら、誤解されるからと真琴はこの道を選んだが、立花圭一は、そんな真琴の気持ちを淋しく思う。

四月も下旬、初夏の日曜日だった。

「圭ちゃん、もうすぐだよ」

真琴は目を輝かせている。

そのとき、手がぶつかった。

圭一は体の芯から反応してしまい、あそこももう少しで起ちそうになったが、ぐっとこらえた。

真琴のポニーテールの襟足がやけに色っぽい。

歩くたびに揺れる大きな胸も圭一の体の芯まで刺激する。

二人きりでカラオケに行こうと誘ってくれたのは真琴の方からだった。

厳密にいえば、真琴が高倉純一の病状を圭一にラインで盛んに知りたがっていて、何かしてくれたら教えると真琴に返信したら、真琴の住む街に大きなカラオケボックスがあるから行こうということになった。

「ねえ、純一君の病状はどうなの?」

「連絡取れてないんだ。ごめん」

「最近、純一君と連絡取れてないんだね。純一君病状悪いのかな」

せめてもの抵抗だった。

真琴に純一の情報を教えないことを。

純一とライン交換していない真琴が圭一に純一の病状を知りたいとライン交換を迫ってきたのは3月だった。

最初のうちは純一の病状を教えていたが、段々自分がお人良しのように思えてきてはぐらかしてきてしまった。

俺はいつもいい人で終わってしまう。

今度こそ主役になりたい。

「圭ちゃん、backnumberは歌わないでね。純一君を思い出すから」

結局、俺は女性アイドル歌手の歌を歌って、その日のカラオケはむなしいまま終わった。

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