あなたをプロデュースしてあげる! 

涼月

予想外? いいえ、想定内です! (一華side)

第1話 マッチングアプリ

 待ち合わせのカフェは、北欧調のアイテムが並ぶ爽やかで癒される緑の空間。


 トクトク トクトク―——踊る鼓動。


 ちょっと早く来すぎたかしら?


 思っていた以上に浮かれている自分に気づいて、一華いちかはヒールの音を潜めた。


 静かに深呼吸。

 久しく忘れていた感覚に触れて、そっと噛みしめる。


 良かった。私、だ失っていないわ。

 ときめく心を。


 マッチングアプリで知り合った彼との初顔合わせ。

 もう三年もご無沙汰だったデート。

 今日こそ、最後のピースをはめるのよ!


 『完璧な私パーフェクト上司』にふさわしい

 『完璧な彼氏スーパーダーリン』をゲットするんだから!



 なんでも完璧にこなす『パーフェクト上司』。

 それが彼女、草間一華くさまいちかに贈られた二つ名だった。

 

 美人で仕事もできて、気配り上手。隙の無い流れるような身のこなし、周りを明るくする美しい笑顔。時々手作りお菓子の差し入れをしたり、流行をさり気なく抑えていたり、全てにおいて完全無欠な女性。

 自己管理も完璧。カロリー計算に筋トレ、リラックスバスタイム。

 彼女の日常は、と思われるコトに溢れていた。


 そんな彼女の唯一の弱点は……


高嶺の花面倒くさい女』として敬遠されまくること。

 別れの言葉はいつも『君といると疲れる』


 お陰でここ三年ほど、彼氏がいない。


 私だって人並みに結婚願望を持っているし、恋してアドレナリンをいっぱいにしたいと思っているのに。

 

 とは言っても簡単な話では無かった。


 昇進して忙しい現在、知り合いは会社関係と学生時代の友人のみ。

 会社で目ぼしい男性はみんな既婚者。後輩君は可愛いけれど、下手に誘惑して後から会社に居づらくなるのは避けたい。

 取引先とのトラブルは絶対起こせないし、友人関係も今更新たな段階に進むのはダルい……

 

 つまり、出会いが無いのだ。


 そして何より、完璧な人間関係を築き上げてきた彼女は、今更誰かに自分のを見せられない……いや、見せたく無かった。

 借りなんか作りたくないし、紹介してもらって上手くいかなかったら、後から色々面倒くさそうだし。

 にっちもさっちもいかない現状を打破する唯一の道。

 

 それが婚活アプリ。

 マッチングアプリだった。

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