第64話 属国伯爵視点 子爵に降爵させられて、必ず小娘に仕返ししてやると心に決めました

俺はハイデック伯爵家の領主だ。

親の後を何の考えもなしで継いだお気軽領主と一緒にしてもらっては困る。

俺様は一代でこのハイデック男爵家を伯爵家まで上げた功労者なのだ。



元々我が家はしがないハイデック男爵家だった。

産業も何もないどこにでもあるちっぽけな男爵家だったのだ。

そして、その横には裕福なオイシュタット伯爵家があった。

オイシュタット家は建国当初からある豊かな穀倉地帯を持つ伯爵家だった。


領地が隣り合っていることもあり、その息子と同年代だったこともあり、小さい時は一緒に遊んだこともあった。

奴はちょっとぼんやりした顔だけ良いお坊ちゃんだった。

頭の回転も鈍くてこんなのが次期当主で良いのかと俺は思わないでもなかった。

でも、顔だけは本当に良かった。


俺が16の時だ。奴は何を思ったのか我が国の学園ではなくて宗主国の帝国の学園に留学していきやがった。

物好きな奴もいると俺は呆れたのだ。

何しろ我が国の学園には当時王太子が通うことになっていたのだ。

貴族の子弟ならば宗主国にいるよりも、将来の自国の王の傍で人脈を広げた方が良いではないか。

あわよくば王太子と仲良くなれば将来の出世が約束されるのだ。


後で聞くと王太子は本来優秀ならば帝国の学園に留学するはずが、テストに落ちて我が国の学園に通うことになったそうだ。奴は王太子の代わりに帝国で人脈を広げるように国王から命じられたらしい。

将来は外務卿になるのが決まったようなものだった。

俺は王太子からそれを後で聞いてとても羨ましいと思った。


まあ、俺も努力して、なんとか王太子の傍に侍れるようになっていはしたが……

俺様は頭の回転の速さを王太子に認められたのだ。


もっともやることといえば、王太子のデートの予約とかダブルブッキングした時の片方への謝り役が主な仕事だったが……

王太子は女をとっかえひっかえしてよく遊んでいた。

俺は側近の一人として、いや走り使いとして、周りの側近がやりたがらないことをしていたのだ。


その俺の努力が認められて俺は卒業するときに城に仕える文官として働くことになった。

王太子の覚えも目出度いし、前途洋洋に思えたのだ。

そんな時だ。

帝国内で人脈を広げるように命じられていたオイシュタット伯爵家の奴が見目麗しい女を連れて帰国してきたのだ。

なんとその女は帝国のライゼマン公爵家の令嬢だった。

さすが顔だけ男。そんな高貴な女を連れ帰るとは、俺は妬ましさとともに、あきらめに似た感情があった。

しかし、陛下も王太子もなぜかとても慌てていた。

後で聞くとその女は帝国に婚約者がいたにもかかわらず、真実の愛に目覚めたとかで奴と一緒に駆け落ち同然でこの国に来たのだとか。


我が国に激震が走った。

帝国ににらまれたら、我が国なんて一瞬で立ちいかなくなってしまう。


臣下の不始末は国王の責任になるのだ。


国王が慌てて帝国にすっ飛んでいった。

王宮内は皆ピリピリしていた。


俺はそんな時に天啓を得たのだ。

心配する王太子に俺は言ってみた。


「殿下。オイシュタット伯爵令息のしたことは大変なことです。下手したら我が国は大変なことになります」

「判り切ったことを言うな」

王太子は苦虫をかみつぶしたような顔をして俺を見た。


「そこで、誠意を示すためにオイシュタット伯爵家を子爵家に降爵させるのです」

「我が国の名門伯爵を降爵するのか」

驚いたような顔をして王太子が俺を見た。


「しかし、取り上げた領地をどうするのだ。わが国は疫病が終息したところで、国では到底面倒が見れないぞ」

そこが俺の目の付け所だった。


「私目が面倒を見させていただきます」

「お前がか」

「もともと伯爵家の隣の領地ですし、交流もあります。しばらく預けるという形にしてはいかがでしょう。なあに、帝国の怒りが解けたら殿下が私から領地を取り上げてまた伯爵家に返せばよいではありませんか。殿下の側近の私なら問題ないでしょう」

俺様は言葉巧みに王太子に説明したのだ。


なあに、一度与えられた領地を召し上げるなどということはないはずだ。

返すなど言葉の綾なのだ。

まあ、こんな事が認められることはないと思っていたが、言っておけば、いつの日かプラスになることもあるだろうという気軽な気持ちだったのだ。


しかし、驚いたことにその案が認められたのだ。

俺はとりあえず、一年だけその伯爵領の一部の領地を預けられたのだ。

せっかく与えられたチャンスだ。俺は俺なりに必死に頑張った。

そんな時だ。運の悪いことにオイシュタット領の領地で作物に病が流行りだしたのだ。

わが領地は風向きが良かったのか川の上流だったから良かったのか、そんなに大きな被害はなかった。

でも、下流では被害は大きく広がったのだ。

帝国の怒りだと恐れおののく領民たちもいたが……


国王は怒り狂って更に領地を取り上げて、俺にあたえてくれた。我が家は子爵に昇爵、10年後は伯爵になり、オイシュタット家は男爵に降爵されたのだ。


以来40年がたった。

その間にオイシュタット家は奴が亡くなり、その娘も死んで、いつの間にか俺が酒場の女に産ませた娘フリーダが当主代理の妻に収まっていた。

王家とも繋がる伯爵家の3男でオイシュタット家に婿入した当主代理はフリーダのいうがままに骨抜きにされているらしい。

オイシュタット家は完全に娘の意のままだそうだ。

確か、そこには妙齢の当主である娘がいたはずで、何ならその娘を俺の側室に入れて領地をいずれ併合してもよいし、最悪はわが娘の産んだ子に継がせてもよいかと考えていた時だ。


帝国からいきなり使者が来てその当主である娘を帝国の学園に連れて行ったとのことだった。

そして、すぐにまた帝国から使者が来て、当主を虐待していたとのことで娘と孫を100叩きの上、鉱山送りにしたというのだ。

どういうことだ?

俺はコマとしか思っていない娘のことなどどうでも良かったが、伯爵家のメンツというものがある。

俺様は即座に抗議に元王太子である国王の所に行ったのだ。


「その方の娘はとんでもないことをやってくれたな。貴様の娘のせいで帝国から睨まれることになったわ」

国王はとても怒っており、俺様の抗議は聞き入れられそうにもなかった。


俺は娘と孫の事は諦めるしかなかった。

娘たちが当主である娘に対していろいろしていることは報告は受けていたが、多少の事は目を瞑っていたのだ。

見たことのない当主の事などどうなっても気にすべきことではなかった。


しかしだ。

その後またすぐに国王から呼び出しがあったのだ。

俺のメンツのために娘を許してくれることになったのかと、一抹の安堵とともに、俺様は王宮に向かった。


しかし、そこで国王から言われたことは俺にとって青天の霹靂だった。


「昔その方に預けた領地の一部を返してもらえないか」

なんと国王はそう言ったのだ。


「陛下、おっしゃっている意味が判りませんが」

俺は首をひねったのだ。

「その方、最初に申したではないか。オイシュタット家の領地を返す時はいつでもお返しいたしますと」

「それは確かにそう申し上げましだか、そのときたら既に40年近い歳月が経っておるのですが」

「そうは言っても、そもそも当主を虐待していたのはその方の娘たちではないか。帝国の公爵家から直々に要請が来たのだ。今回の責任はハイデック伯爵家にもあるのではないかと」

「我が家にですか」

「虐待を全く知っていなかったわけではなかろう」

「いや、しかし、あそこまでひどいことをしていたとは私も知りませんでした」

「その方の監督不行き届きというのもあるだろう」

「しかし、陛下」

「また、償いはするつもりだ。ここは涙を飲んでくれ」

そう言われれば俺はもう何も言えなかった。

返す土地を交渉してなんとか4分の1にしたが、俺は伯爵から子爵に降爵してしまったのだ。


俺はまだ見ぬおいシュタット当主にただならぬ怒りを感じたのだ。

どうしたか判らぬが、絶対になにか奥の手を使ったのだ。

小娘と思って侮っていたが、この仕打ち、必ず仕返ししてやると俺は心に決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る