第53話 ルード視点 クラウが行方不明になったので、コンスに結界を壊してもらいました

俺は大聖堂の見学会にとても胡散臭いものを感じていた。

だからクラウにはとても注意をしていたのだ。

E組の連中も文官志望のベルナールを懐柔して、クラウの護衛役にしたのだ。

クラウは基本はコンスと一緒だし、お守りもある。

俺としては盤石だと思っていた。


でも、それが甘かった。


「ルード様。色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

当日朝、停学から復帰してきた聖女のデジレは、来なくていいのに俺様に近づいてきたのだ。

カスパーとボニファーツが止めようとしたが、手前で頭を下げてきた。

今までならば俺のところまで二人のガードをかいくぐってきて、俺様に巨乳を押し当ててきたはずだ。

少しは進歩したようだ。


俺は少し安心した。


でも、それが間違いだったのだ。


馬車は何故か聖女と一緒で、聞きたくもないのに、聖女は教会について延々と説明してくれた。

そして、大聖堂に入ると、シスターの説明にいちいちプラスで説明して、皆の機嫌を取ってくれた。


「あれでも一生懸命覚えられたのです」

聖女の育ての親役のロメウス司祭が言ってくれたが、元々頭がないに等しいのではないかと言いたかった。

クラウならばこれ以上のことを簡単に覚えているだろう。


しかし、孤児院では聖女は思った以上に子供たちに慕われていた。

俺は少しデジレを見直した。

デジレが毎日子どもたちの所に、子供たちが普段は食べられないような高価なお菓子を持って行って機嫌を取ったなんて知らなかった。


そして、つい、聖女と一緒に子供たちの面倒を見てしまったのだ。


俺の側近もクラウを見るよりは俺を見ていた。


俺はクラウにはコンスが付いているものだと思っていた。


コンスが子供たちに請われて、剣術の稽古をつけてやるなんて思ってもいなかった。



俺がクラウが居ないと気づいたのは、クラウが居なくなってからしばらく経ってからだ。


孤児院の中を見回してクラウが居ないのだ。


変だ!


俺は連れてきた騎士たちに合図をした。


でも、騎士たちは誰も見ていなかった。


「大変だ。クラウが居なくなったの」

そこへ、カーテンを開けて帰ってきたヘレナが叫びだしたのだ。


「何だと」

俺はクラウにつけていたベルナールを見るとこいつは俺の直ぐ傍で子供たちに本の読み聞かせをしていた。


「クラウはその子に連れて行かれたから慌てて追いかけたんだけど、カーテンの向こうでいなくなったのよ」

俺はそのヘレナの指さした女の子を見ると

「知らないわ。お姉ちゃんは奥に行ったのよ」

女の子が答えていた。

こんな女の子に聞いても無駄だ。


「何なら私と一緒に奥に探しに行きましょうか。わたししか入れない場所もありますし」

デジレが言ってくれたが、それはあまり信用できない。

「いや、それは良い」

俺は断ると慌ててクラウに渡しているお守りの位置を探った。


でも、いくら探ろうとしても判らなかった。


指輪も見るが反応はない。


しまった!


ここは教会の総本山、大聖堂だ。結界が張られているかもしれない。


「こうしてはいられない。直ちに調べろ」

俺は慌てて騎士と側近に指示して探しに行かせた。


「これはルード様。どうされたのです?」

ロメウスが聞いてきた。

「クラウディアが行方不明になったのだ」

俺が言うと

「行方不明と言われましても困りましたな。直ちにシスターたちに探させまずか、教会のは建ってから時間が建っていまして、開かずの間とか言うのも存在すると聞いておるのですが」

自分たちが拐ったくせによく言う。

俺はこの男を拷問にかけたくなった。


「おい、ルード、クラウが行方不明になったというのは本当か?」

そこにコンスタンツェが飛び込んできた。

「お前今までどこにいたんだ」

俺がムッとして言うと

「子供たちに剣術の稽古をつけていたんだ」

少し口を濁してコンスタンツェが言ってくれた。

こいつがちゃんとクラウの面倒見てくれていたら……いや、違う。俺が面倒を見ていたら良かったのだ。

俺は後悔した。


「クラウのお守りは?」

コンスが聞いてきた。

「ここでは大聖堂の結界が強くて駄目だ」

「仕方ない。教会の結界をぶっ壊すか」

コンスが物騒なことを言い出した。

「元々私は教会が気に食わない」

そうだ。コンスの家と教会は仲が悪かった。


「な、おやめください。教会の結界は何人も触れてはならないものです」

ロメウスが必死に止めてきたが、元はと言えばこいつらがクラウを拐ったのだ。

証拠はないが断言できた。


「よし、やってくれ」

「おやめください。やるならば我らが相手になります」

ロメウスの後ろから聖騎士が抜剣してきた。


こいつらは愚かだ。

コンスの前に剣を抜くなど。


「ほおおおお。お主ら、我がピザン公爵家の私の前に剣を抜くとは死にたいと言うのだな」

コンスの目がランランと光ったのだ。


「な、何を言う」

騎士たちは慌てたが、

「我が宝剣。ミネルヴァの前に剣を抜いたのを恥じるが良い」

そう言うとどこから取り出しのたかコンスは帝国の宝剣ミネルヴァを取り出して抜き放ったのだ。


まばゆい光が教会を照らす。


「お、お前、それは、帝国の宝剣でピザン家当主が持つものと定められている宝剣ではないか?」

俺が何故こいつが持っているんだと考えると、


「ふんっ、酔った祖父に勝って召し上げたのだ」

俺は頭を押さえた。どいつもこいつも孫に弱すぎるのだ。


「行くぞ!」

「騎士たちは退け! ミネルヴァを持つやつに歯向かうと反逆罪が適応されるぞ。そうなりたくなかったらその場に伏せよ」

俺は一応教えてやった。


「げっ」

聖騎士達は慌ててその場に伏せた。


「あの十字架を狙え」

「判った」

そう言うや、コンスは剣を横なぐりに振りきったのだ。


ズカーン

大音響とともに教会の壁にあった十字架が真っ二つに割れてその向こうの壁も吹き飛んでいた。


ぴきっ

その瞬間、教会の結界がぶっ壊れた。


俺様は直ちにクラウの居場所を探り出して地下室にいたクラウの所に飛んでいったのだった

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