第51話 聖女視点 悪役令嬢を拉致することに成功しました
私はこの1週間、大聖堂でやりたくもないお勤めとお祈りをさせられたのだ。
朝は4時起床、
「まだ、真っ暗じゃない!」
と言う私の抵抗はテオによって布団から叩き出されて潰え、まだ冷たい水で絞った雑巾で床を拭いた。
「なんで聖女の私がこんな事をしなければいけないの!」
「ブツブツ言っていないでさっさとやりなさい」
ビシバシとシスター鬼婆と私が名付けたテオは容赦が無かった。
まだ4月だから本当にバケツの水は冷たかった。
大聖堂の床の雑巾がけは本当に大変なのだ。
私も孤児院にいる時はやらされていたけれど、伯爵家の養女になってからはやったことがなかった。
私がこんな事を久しぶりにさせられるのは全てあの悪役令嬢のせいだ。
本当に許せない!
本人は否定するが、絶対にあの悪役令嬢のクラウディアは転生者に違いない。
そうでないと、あのクラウディアが私を虐めてこないのがおかしいのだ。
クラウディアさえ、私を虐めてくれたら、私はルード様に泣きつけるのに!
「クラウディア様に虐められたんです」
そう言って私の大きな胸をルード様の腕に擦り付けたら男なんてイチコロなのに!
なのに、あの子は私をいじめようとしないから、私のこの大きな胸の出番がないじゃない。
それに、何故かルード様はクラウディアを庇うのだ。
本当に信じられなかった。
転生者のクラウディアが色々暗躍して、クラウディア自体を悪役令嬢からヒロインに改悪しようとしている。
私はせっかくこのゲームのヒロインになれたのだ。夢にまで見たヒロインデジレに!
あの女の悪巧みに嵌まるわけにはいかない!
やむを得ず、私は改悪しようと暗躍する悪役令嬢をこの学園から退場させるために、階段から突き落とすことにしたのだ。
そうしたらあろうことか私が突き落とされたのだ。
神様に守られている私は階段から落とされても大きな怪我はしなかったが、これ幸いとばかりに、クラウディアに突き落とされたと吹聴したのだ。
それは私の取り巻きのおかげもあって途中までうまく行った。
そう、あと少しだったのだ。
でも、なんとルード様はゲームでは私にくれていたお守りをクラウディアに与えていたのだ。
私はそれを知って唖然とした。
「なんで、なんで私のお守りをあの女が持っているの?」
私はショックのあまり唖然として何も言えなかった。
女の武器を使ってあの女はルード様に取り入ったのだ。そうに違いない。
よく二人して部屋にこもって何かしているみたいだし……絶対に人に言えぬことを二人してしているのだ。
私ももっと先に使えばよかったと後悔したが後の祭りだった。
最も考えたら私は学園に入学したてでルード様と出会ってもいなかったのだからそんな事を出来るわけはなかったのだが。
そうして私は罰として奉仕と祈りの一週間が与えられたのだ。
ショックを受けていた私だが、更にショックなことがあった。
私の味方だったはずの大司教様が、あの女に影響されたのか、私を思いっきり張り倒してくれたのだ。
私はこの世に生まれてこの方頬を張られたことなど無かったのだ。
「何するのよ!」
そう言った途端に
「なんだと、貴様が礼儀作法もわきまえずにいるから、あのアデライドのばばあに延々と文句を言われたのだぞ」
私は更に二発張られたのだ。
その瞬間だ。母によく叩かれていた前世の記憶が蘇ってきたのだ。
「あんたが、あんたなんかが生まれてきたから、こんな事になったのよ」
パシンパシン
私はそう言われて良く母に殴られていたんだった。
何度止めてと言っても母は止めてくれなかった。
「もう止めて」
でも、今世では私は泣き出したら、
「大司教様、さすがにそれ以上は」
ロメウスが止めてくれた。
だからなんとかなったけれど、あのまま張られ続けていたら大変なことになったかもしれない。
それもこれも全部あの女のせいだ。
何としても仕返ししてやる。
私は大司教様があの女を拉致する作戦を思いついた時にこれで仕返しが出来ると喜んだのだ。
でも、今回は私も前回のような証拠を握られないように私なりに考えたのだ。
あの女が拉致されるまで、私はルード様と一緒にいるようにしたのだ。
私は朝から嫌と言うほどルード様に付きまとったのだ。
最初は逃げようとしていたルード様だったけれど、孤児院で下のものに慕われている私を見て少し考えを変えてくれたみたいだ。
この一週間、子供たちの面倒を見た甲斐があった。
子供たちは私に懐いてくれたのだ。
そんな子どものメイに「銀髪のお姉ちゃんを孤児院の奥に連れて行って」
と頼むのは簡単だった。
そこに修道士を一人控えさせて、あの女を拉致させたのだ。
私はクラウディアがカーテンの向こうに姿を消してからしばらくは子供たちと遊んでいた。
「クラウディア、クラウディアはどこに行った」
少し経ってからあの女と良く一緒にいるヘレナとか言う女が騒ぎ出した。
「なんだ、どうした」
ルード様も慌てだした。
「クラウディアがいない」
「そんな馬鹿な」
「メイ、お姉ちゃんは」
「判らない。奥に行ったよ」
「奥ってどこだ」
「あっち」
言われたようにメイは奥を指さしたのだ。
「ルード様。何でしたら奥にご案内しましょうか」
私がすかさず申し出た。
「いや、良い」
残念なことにルード様はついてきてくれなかった。
ついてきてくれたらそのままルード様を私のものに出来たのに。
まああの女がいなくなれば焦る必要もない。
「手分けして探そう」
ルード様は焦って側近たちに指示を出しだした。
でも、いくら探しても無理なのだ。
この大聖堂には秘密の部屋がたくさんあるし、ルード様のお守りも大聖堂の障壁の前に無力化されている。外部の人間が探しようがないのだ。
捕まったあの女は拷問にかけられるか、実験に使われるか、そうか娼館に売られるか。
可愛そうだが、あの女は二度と太陽を見られることはないはずだ。
ふん、あの女も馬鹿ね。私に逆らわずに素直に悪役令嬢の役割を演じておけば良かったのに。
そうすればこんな事になることもなかったのよ。
私は心の底から高笑いしてやったのだ。
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