第13話 成績を上げるためにルードが教えてくれることになりましたが、その量を見て泣きそうになりました。

私はみんなの見ている前でずんずんルードに引かれて空き教室に連れて行かれたのだ。

入学前から皇位貴族の令息に連れ去られたのだ。明日からなんて言われるんだろう?

私は明日が怖かった。


「ちょっとルード、私に気安く話しかけるなって言っておきながら、皆の前で私に声かけて連れ去るってどういう事なの?」

私は部屋に入るなり、怒って聞いた。


「今は、それどころじゃないだろ。お前の成績見たろう」

なのに、ルードはいきなり怒り出した。どうやら私の最下位の成績を見て怒っているらしい。


「だって、仕方がないでしょ。実家ではほとんど勉強させてもらったことなんて無かったんだから」

私も言い返した。


「でも、200人中。200位だぞ」

そんな事は言われなくても判っているわよ!


「それはそうだけど、仕方がないじゃない。帝国の詳しい歴史なんて知らなかったんだから」

「いや、まあ、それは仕方がない面もあるとは思うが、例えば太陽はどちらの方向から登りますかっていう問題はなんて答えたんだ」

ルードが馬鹿にしたように聞いてきた。


「何よその幼稚園の入試問題は。そんなばかみたいな問題が出るわけはないでしょ。ここは帝国の学園なのよ」

「いや、俺等の理科の問題はそうだったぞ。そう言う簡単な問題さえできれば赤点取ることもなかったんだ」

ルードによると5教科で赤点があるとそれだけで貴族への加点が無くなるんだとか。そんなの聞いていないし。前もつていってほしかった。


「それに、そんなばかみたいな問題だったら解けるわよ。

私に出た問題は2メートルの高さから球を落としたら、何秒後に地面に落ちますかとかいう問題よ」

「はああああ! そんなの判るわけ無いだろう。それ学園の専門問題だろうが」

ルードはそう言い張るんだけど、出たんだから仕方がないでしょ。


「例えば前皇帝の名前はどう答えたんだよ。」

「そんなの出ないわよ。わたしに出たのは第十九代皇帝陛下の側室の名前を問う問題よ。そんなの判るわけないじゃない」

私がそう言うと

「そうか、追試は問題の難易度がもの凄く高いんだな」

ルードは納得したようだった。


「だから、そんな問題は解けるわけ無いでしょ」

「まあ、そうだな。そこまで問題の難易度が違うと問題だな」

私の言葉にルードは頷いてくれた。


「じゃあ、テストをやり直してくれるの?」

「いや、それはないだろう。教授たちはプライドだけは高いからな。母が少し掛け合ってくれたが、一蹴された」

喜んで言った私の問いはあっさりと否定されてしまった。

一応、交渉はしてくれたんだ。ルードと違ってルードのお母様は親切みたいだ。


「でも、私が何位でもルードには関係ないと思うけれど」

私が素直な質問をすると、


「そんな訳無いだろう! お前は俺のこん、いや、俺が連れて来て入学させた生徒だからな。流石に最下位ではまずいんだよ」

ルードが言い訳がましく言ってくれた。


「それは確かに、あの悲惨な生活から助け出してくれたことには感謝しているけれど、そもそも試験の前にそんな事は一言も言ってくれなかったじゃない。

話しかけるなって言って自分の仕事始めたくせに! いろんな事を聞くに聞けなかったじゃない!」

私が文句を言うと


「まあ、俺にも悪い点はあった。それは素直に認めよう」

なんとあのルードが謝ってくれたのだ。


昔は自分が悪くても全部私のせいにしてくれたのに。

悪かったなんて言葉をルードから聞いたことがなかった。

何しろ、二言目にはクラウが悪いだったから……

その頃に比べたら大きな進歩だ。

私は少しだけ嬉しくなった。



「仕方がないから少しだけ勉強を見てやる」

でも言い出したことがやっぱり俺様だった。

「見てやるってルードの教え方は下手だから嫌だ」

私は一言で拒絶した。


だって、ルードは頭が良いからか、出来ないものに対して教え方がなっていないのだ。

釣りでも木登りでも教えてもらったけれど、

「なんでこんな簡単なことが出来ないんだ!」

といつもすぐに怒り出して私は泣かされた。


か弱い女の子にとって木登りはとても難しいのだ。

出来ないからって怒鳴りだすな!

今ならそう言えた。


それに、16にもなって泣かされたくない。

まあ、その時に比べたらいろんな事が出来るようにはなったけれど……


「教えるのが下手だと! お前言うに事欠いて天才の俺様になんてことを言ってくれるんだ」

やっぱりルードだ。

優しくなったと期待したのが間違いだった。


そして、ドサッと参考書の山を私の前に出してくれたのだ。


「これが、本来ならば高位貴族が学園入学までに覚えている内容だ。これを覚えれば学園でもある程度の成績を取れるはずだ。これを1年かけて頭に入れろ」

やれて当然だという顔でルードが言ってくれたが、


「えっ、これ全部?」

私は唖然とした。

私の眼の前にはうず高く本が積まれていたのだ。


「これでもだいぶ減らした方だ」

恩着せがましくルードが言ってくれたが、いや、こんなにたくさん、絶対に覚えられないだろう。

私はめまいがしてきた。


「とりあえず、この本を覚えるだけ覚えてこい」

ルードは私に一冊の分厚い本を渡してくれたのだ。


「えっ、この分厚い本を?」

「そうだ。俺様も忙しい中でお前の勉強を教えてやるのだ。ちゃんとやって来いよ」

ルードは言いたいことだけ言うとさっさと部屋を出ていったのだ。


いや、ちょっと待ってよ。こんなの無理よ!

私は文句の言う相手がいなくなった教室でしばし唖然と立ち尽くしたのだ。

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