夢見堂
松田詩依
第一話「夢香る」
第1話
暗闇の奥底に沈んでいた意識が、目覚まし時計の音でゆっくりと浮上していく。
心地よい眠りから無理矢理現実に意識が引き戻されていく感覚の中で、何か夢を見ていたような感覚が頭にぼんやりと残っているのを感じた。
硬く閉ざされていた瞼をゆっくりと開きながら、どんな夢を見たのだろうかと考えるがまるで思い出せない。
目を開けるとカーテンの隙間から差し込む光に目が眩んだ。
日の光はこんなに眩しかっただろうかと眼を細めながら手探りでけたたましく鳴り響く目覚まし時計を止める。
起き上がる頃には夢の内容どころか、自分が夢を見ていたということすら忘れかけている始末だ。
突き刺さっていた筈の朝日が心地く変わっていく。カーテンを開けると窓の外に広がる快晴。今日もいい天気だ、と身体を大きく伸ばした。
だが清清しい天気とは真逆に、酷い気怠さが襲い掛かってきた。頭が酷く重い。まるで丸一日働いたかのような疲労感を覚えた。
「はぁ……なんか疲れた」
大きなため息をつきながらまるで一日働き終えた終えたかのような、寝起きに似つかわしくない台詞を零した。
デザイナーを志し大学を出て無事希望のデザイン会社に就職して早数年。
学生時代からの恋人との交際も順調で、公私共に充実した日々を送っていた。
そんな自分に唯一悩みがあるとすれば、睡眠の質だろう。
散々寝たというのに体は酷く気怠い。まるで寝た気がしない、というのはまさにこのようなことをいうのだろう。
寝ぼけた顔を引き締めるために冷水をかけた。しゃきりと目が覚めるが、冷水の効力はほんの一瞬で次の瞬間にはまた頭が呆けはじめる。
氷水に顔をつけた方が良いのではないかと考えながら、そこで初めて鏡を見て思わず眉間に皺を寄せた。
鏡に映る自分は驚くくらい酷く疲れ果てた顔をしていた。目の下にできた大きな隈、やつれた顔は明らかに身体の不調を訴えている。肌も荒れ化粧乗りも酷く悪い。
この疲れ果てて死にそうな顔をしている人物は一体誰だ。眉間に皺を寄せながらまるで他人事の様に鏡の向こうの自身を睨みつけた。
昨晩は日付が変わる前には床についたから睡眠時間は十分に取れている筈だ。
寝ると疲れる病気なのか。それとも夢遊病で自身が知らぬ間に夜中ずっと起きてしまっているのか。
そういえば順調な交際を続けていると思っていた恋人ともお互い仕事が忙しいからと最近連絡を取っていない。このまま自然消滅――なんてこともあるのかもしれない。
頭はぼんやりと重く、事態を悪い方へ悪い方へと考えてしまう。いけない、確実に自分が悪い方向へ進んでいるような気がして慌てて考えを取り払うように首を大きく横に振った。
大丈夫。今日を乗り越えれば明日は休みだ。そうだ、この頃仕事が忙しすぎて疲れているのだろう。明日からゆっくり休めば大丈夫。
恋人とも今夜にでも連絡を取ってみよう。きっと彼も仕事が忙しいのだ。きっと、きっと大丈夫。
「……はぁ、今日も一日頑張りますか」
早朝から本日二度目の大きなため息をついて
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