Invitation ~スポーツゲームのような空間へようこそ~

Wildvogel

第一話 「スポーツゲームのような空間へようこそ」

 「いい天気だな。スポーツでもしたいな」


 

 僕は青空の広がる地元の街を友人の松田由美子まつだゆみこと歩いていた。



 「じゃあ、バッティングセンターにでも行く?」


 「おお、いいね!行こう、行こう!」



 由美子の提案に頷き、僕達はバッティングセンターへ続く道を進む。


 それからしばらくし。



 「あれ…。何だろう…」



 僕は電信柱のそばに置かれた箱を見つけた。気になった僕は速足で箱の前へ。



 「高価なものでも入ってるのかな…」



 立派な造りの箱だった。蓋が閉まっている。僕は興味本位で蓋を開けた。


 中に入っていたものは。



 「スポーツシューズ?」


 

 新品同様の白いスポーツシューズだった。


 僕の手は無意識のうちにスポーツシューズへ伸びる。両手で持つと同時に、箱の中に一枚の用紙が僕の目に映る。


 はっきりとは見えないが、文字が記されていた。



 「何だろう…」



 僕の声と同時に、由美子が用紙を右手に取る。そして、用紙に記載されていた文章を読み上げる。



 「ええと…。-このシューズを履いていただいた方を楽しい空間へご招待します。-だって」



 僕の視線はシューズから由美子へ。



 「楽しい空間…?」



 僕が問うと、由美子は頷く。唸るように息をついた僕は再び視線をスポーツシューズへ。



 「『楽しい空間』か…。どんな空間なんだろ…」



 徐々に興味が湧いてきた僕は履いていたスニーカーを脱ごうとした。


 その時。


 

 「ダメだよ、履いちゃ!」



 何かの危険を察知したかのように、由美子が声を荒げる。同時に、僕は驚いたように視線を由美子へ。



 「どうしたんだよ、由美子…」


 「絶対ダメだよ、颯太そうた。履いちゃ」



 子どもを叱る親のように僕を見つめる由美子。


 しかし、用紙に書かれていた文章への興味が薄れることはなかった。



 「ちょっとだけなら…」


 「だからダメだって。どんなことになるか分からないんだよ?『楽しい』とは真逆のことが待ってるかもしれないし…」


 「でも…」



 駄々をこねる子どものように、由美子の言葉を遮ろうとする僕。由美子が僕のために言ってくれていることは分かる。


 しかし、どうしても「興味」という文字には勝てなかった。



 「ちょっと、颯太!」



 由美子の荒げた声をよそに、僕は履いていたスニーカーを脱ぐ。そして、白いスポーツシューズを履いた。


 靴紐を結び終え、僕は立ち上がり、由美子と正対。


 

 「どう?」



 僕が笑顔で由美子に尋ねた次の瞬間、目の前が真っ白になった。



 「颯太…!」



 由美子の声をかき消すように、僕は物凄い耳鳴りのようなものに襲われた。





 「ここは…」



 気付くと、僕の目の前にはどこか現実離れしたような空間が広がる。まるで、ゲームのような空間だった。


 見渡すと、テニスコート、サッカー場、バスケットコートなど、多くのスポーツ施設が。


 

 「スポーツゲームに出てきそうな光景だな…」



 見上げると、澄み渡った青い空が。太陽は出ているが、眩しさを感じない。



 そういえば。



 「由美子…」



 僕は再び周囲を見渡し、由美子を探す。しかし、彼女の姿は見当たらない。



 「いない…」



 僕一人だ。



 

 「何なんだ、ここは…」



 テニスコートを見つめ、言葉を吐く僕。


 すると、どこからか足音が僕の耳に届く。僕の視線は足音のする方向へ。


 

 「我が社製造のシューズをお手に取っていただき、ありがとうございます」



 若い女性の声。


 だんだんと足音が近くなる。



 「履き心地はいかがですか?」



 女性が問う。



 「あ、はい…。履き心地、バッチリです…」



 僕が戸惑ったように答えると、女性は嬉しそうに笑った。



 「おお…!安心しました。そのスポーツシューズは我が社自慢の商品でして。ですが、なかなか売れず。そこで、そのスポーツシューズを履いてくださる方を探していたんです。そして、履いてくださったのがあなたでした」



 その声から間もなくして、女性が姿を現した。


 僕とそれほど歳の変わらない、二十代前半と思われる女性だった。



 「スポーツゲームのような空間へようこそ。私、狩野由美子かのうゆみこと申します」



 女性は微笑むと、深々と頭を下げた。女性の名前を聞いたと同時に、僕の頭の中に一人の女性の顔が浮かぶ。



 あいつと同じ名前。しかし、顔は似ても似つかない。おまけに、あいつはショートカット。この女性はロングヘアーだ。




 「あの…。ここは一体…」


 「私が先程、申し上げました通り、スポーツゲームのような空間になります」


 「いや、その…」



 思わず頭を搔く僕。



 「我が社製造のスポーツシューズを履いてくださった方をこの空間へご招待したかった。ただそれだけです」



 女性は笑顔でそう話す。



 「さまざまなスポーツ施設がございます。それぞれにミッションがございまして、それをクリアすると、次のスポーツ施設へ進むことができるというシステムになっております。最初のスポーツ施設はあちらのテニスコートになります」



 女性はテニスコートへ視線を向ける。


 僕はテニスコートを見つめ、小さく頷く。そして、女性と正対。



 「私はサポート役のような形で同行させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」



 女性は再び深々と頭を下げる。


 応えるように僕も。


 顔を上げた僕の表情には自然と笑みが。


 理由は分からない。

 



 「じゃあ、行きましょうか!」



 僕の言葉に女性は「はい」と応え、僕の右隣を歩く。


 

 全てのミッションをクリアした先には何があるのだろう。そのようなことを考えながら僕達はテニスコートのドアをくぐった。



 

 

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