殺人鬼に恋をした

EVI

第1話

曰く、一人で1000人の人を屠った大女。曰く、その美貌で、幾人もの男を惑わせ、家庭を破壊した絶世の美女。曰く、人間の形を模した狐。曰く、彼女の前に立ったものは、次の瞬間命を狩られているという殺人鬼。


数々の伝説が残っている女。名を、藤田未兎ふじた みう。名と言っても、あだ名みたなものだ。誰が呼んだかその名前は、今この時代において、一種の一般教養並みに知られている。


なぜこうもこの女の名が世に知れ渡っているのかというと、彼女は人を殺した後、必ずどこかにある印を残すからだ。


その印とは、円の中に、藤の花とウサギを模した焼印を被害者の体に焼き付けるのだ。


そして、今までに殺した人の数は、124人。少なくとも、おれが知っている限りの被害者の数だ。


藤田未兎ふじた みうとは、集団の名前なのか、一人の人物の名前なのかすらもわかっておらず、謎に包まれた存在。


今のところわかっている情報は、藤田未兎(のトップ)は、女であるということと、人からの殺人の依頼は一切受け付けないということのみ。


自らの元へ来た人間は、人知れず殺し、数週間後には遺体として発見される。そして、彼女自らが殺人を犯す場合にもその対象となった人物は数週間後には遺体になっている。


彼女は詮索されることが嫌いらしい。彼女を調べている人間は、ことごとく帰らぬ人となっているからだ。


おっと。彼女のことを長く語りすぎたかな。


俺の名は、浅黄鳥冥あさぎ ちょうめい。性懲りも無く、藤田未兎ふじた みうを探しているバカな男だ。


なぜ探してるのかって?そりゃあ、俺は彼女の大ファンだからに決まってんだろ? 彼女が推しと表現してもいいくらいに、俺は彼女に憧れやまた会いたいと思っている。


世間では、名前を口に出すことすら恐れられている。彼女をわざわざ探す人なんて、彼女に憧れを抱いているおれみたいな影の人間がすることだ。


俺はこれでも一応、殺人犯として陰ながら活躍している人の一人だ。もっとも、俺の場合は、とある事故がきっかけで、殺人の札を貼られただけで、元は泥棒なのだが……。


それにこれはまだ誰にも言ってないが、おれは彼女、藤田未兎ふじた みうにあったことがある。


あれは数年前のことだった。

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