第4話 後日談

「あれ、今日のごはんはモンスターじゃないんだね」


 シフは驚いてムジナの方を見た。

 ムジナはそこまで料理はできないというか料理はしない。なので……果物だ。洗っただけ。切っただけ。


「あぁ。たまにはいいだろ?」

「これが毎日続けば文句無しなんだけどなぁ……」

「そのつもりだ」

「え?」

「なんでもない」


 手長足長との戦いの後、ヘラと会っていない。

 図書館にいるかと思ったが、そこにもいないようだ。多分家にこもってるのだろう。


 友達だと言い張っても、家の場所が端から端なのであまり行かない。教室に例えると、左前端と右後ろ端のようなものだ。


「あ、そうだ!最近、妖精さんがここに遊びに来るんだよ」


 シフはフォークを置いて話した。

 それを不思議そうに見るムジナ。


「妖精?」

「そう!えーと、名前はなんて言ったっけなぁ……。確か、ルージって名前だったっけ」

 ─正解!覚えてもらって嬉しいなぁ─


 シフが話した瞬間、鈴……ではなくハンドベルくらいの声が響いた。今度は声だけでなく姿ありだ。

 茶髪ポニーテールに、葉っぱに紐を通した服。そして綺麗な羽。これこそ妖精だ。


「あ、おはよう!」

「ど、どうしてお前がここに?!」

 ─んー……大妖精様に復活させてもらったんだ─


 宙で嬉しそうに話すルージ。

 シフはずっと知っていたかのような口ぶりだ。


「そんなに軽くていいのかよ……ヘラ、すっごく落ち込んでるぞ。あいつ、メンタル弱いから」

 ─そこまで?!確かに魔法一個失敗しただけでずっと涙目だったし……─

「そんなに弱かったんだ?!」


 普段とのギャップに驚くムジナ。

 それを見たシフは頬杖をして言った。


「ムジナは魔法使いなんだし、教えればいいじゃん」

「そんなに楽に覚えられるものじゃないんだぜ」

「そうなんだ……」

「というか、復活したって言いに行ったほうがいいんじゃないか?心配してるぜ、あいつ」


 ムジナは転送用の本を取ろうと席を立とうとした。

 それをルージは止める。


 ─ううん。彼の選択の時だと思うんだ─

「選択?」

 ─その選択を乗り越えれば、彼のメンタルは少しだけ強くなると思うよ─


 ルージの言葉にムジナは座り直した。

 そしてフォークで橙色の果物を刺す。

 それをルージに向け、渡した。


「……よくわからんが、ルージの事は秘密にしておいたほうがいいよな」

 ─ま、そゆこと!これ、くれるの?─

「あぁ。一緒に朝ごはんだ!」


 二人が話していると、シフが席を立った。


「じゃ、学校行ってくるね!」

「もうそんな時間か。気をつけてな」


 ムジナは椅子に座ったままだ。


「ムジナはどこか行かないの?」

「あとで街に行こうかと思ってさ」

「魔界に街なんかあるの?」

「魔王城の城下町といった方がいいか」

「そんなのあるんだ……」


 シフは何かを考えるような顔をした。


「いつか一緒に行こうな」

「うん!じゃ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 バタン、と扉が閉まる。

 部屋に残された二人はいつもの二人とは思えないほど、真剣な表情をしていた。


 ─本当は討伐する為じゃないの?─

「そうだな」

 ─今回は一人で行くの?─

「ヘラは今そっとしておいた方がいいだろ」

 ─会ってないのにどうしてわかるの?─

「そりゃもう勘だろ」

 ─聞いた私がバカでした─

「どういうことなんだよ……。そろそろ俺も出ようかな。留守番頼める?」

 ─私は番犬じゃないわ─

「番妖精でもないよな」

 ─そんな言葉初めて聞いたわ─

「俺も初めて言った」


 今、この魔界は『ライル・メラク』と呼ばれる魔王によって治められている。

 そんなライルは、実は女である。

 その魔王城で何が起こるのか?


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