第1章 第1話 死神少年と厠の守護者
この世には、沢山の犯罪がある。
殺人、窃盗、詐欺、わいせつ、名誉毀損、賄賂……
平和に見える世界だとしても、戦争や内戦は起こり、毎日人は死んでいくのだ。
それは、社会にまだ出ていない者たちの間でも起こっているという……。
「なぁ、知ってるか?」
「知らないよ」
「言う前から知らないって言わないでくれる?」
特徴的なアホ毛をもつ茶髪の男の子は、シフという。
一方、肩までの黒髪の男の子は、ムジナという名前。
「最近、街で刃物を持った人がうろついてるんだってさ」
「……それだけ?」
「あぁ、それだけだ」
「えぇー?なんかもっとこう、ライオンが街に来たとか、ドラゴンが出たとかそんな事考えてたよ」
「いや、ないから。まず、こっちからドラゴン行かないから安心しな」
こっちから……その言葉は、この世界……魔界のことを表している。
そう、シフは、ムジナが間違えて召喚してしまった人間なのである。ムジナ曰く、大人を召喚したつもりなんだけどなぁ……とのこと。しかし、人間を召喚できたからそれで満足しているようだ。
「ま、この辺の人らは強いから大丈夫だろ」
「その刃物の人もこの辺の人だったら?」
「……それは考えてなかった」
「バカなの?」
「魔法使いの類はみんな賢いと思うぞ。少なくともお前よりかはな」
「ムジナは魔法使いじゃん」
「そうだ」
「でもバカだね……」
「哀れみ深い目でこっち見ないでくれる?!」
そんな漫才のような事をしていると、メガネをかけた男の子がやってきた。
シフは学生ということで、勉強を教えてもらえる施設に行っている。
学費を払わないといけないが、ムジナはそこまで考えてなかったので、お金の代わりにその辺で狩ってきたモンスターを学費代わりに通わせている。
もちろん料理して給食になっている。しかし、シフは人間。モンスターなんか食べたくないと、毎日のように言っている。
そんなシフに、『そんなこと言ってたら大きくなれないぞ』と言いながら、モンスターの肉片を口の中に押し込む姿はどう見ても虐待だろう。
「また物騒な話してるのか」
「物騒ではないぞ、忠告だ。ヘラ」
メガネをかけた男の名前はヘラ。
生徒ではないが、よくこの施設に来るという。
彼は炎のように赤い髪とコートを着ており、緑のカーゴパンツを身に付けている。
「そんなに沢山の本持って大丈夫なのか?」
「少し頭を使えば解決することだ。バカなムジナくん」
「どいつもこいつもバカって言いやがって!……で、そんなヘラに質問だが、都市伝説とか妖怪とか信じてるか?」
ムジナは机に置かれた本を指差して聞いた。
「バカ言え。俺らは悪魔。力でねじ伏せたらどうってことない」
「じゃ、オレと同レベルの脳筋ってことで。最近、都市伝説とかに沿った事件が起きてるらしいんだ」
「ムジナってば、さっきからこの話ばっかりで……」
シフは憐れみの目をムジナに向けた。
「バカの一つ覚えだな」
「ひどい!……で、それをシフが授業を受けているときにオレらで探索に行くってことだ!」
「待て。オレらで……って?」
「お前も行くんだよ、バカ」
「はぁ?冗談じゃない。俺はここで本でも読んでるよ」
ヘラは本を机に置いて椅子に座る。だが、ムジナは彼の腕を掴んで引っ張った。
「ダーメ。さ、行くぞ。シフ、すぐ戻るからな!」
「ヘラさん、ほんとに行くの?」
「行くさ。死なれちゃ困るからな」
ヘラは観念したかのように腕を組んだ。
その隣でムジナは嬉しそうに拳を突き上げる。
「んじゃ、まずはトイレの花子さんからだ!」
「おい、ムジナ」
「何だよ?」
「それ、女子トイレだぞ」
「あ……」
いきなり詰んでしまったムジナとヘラ。
無事にトイレの花子さんに会えるのか……?!
──────────
「で、トイレの前に来たが……どうやって入って確かめるんだ?」
「ふっふーん。こうするのだ!」
ムジナが取り出したのはセーラー服。
しかし、一着しかない。
「変装?」
「そ。お前はなんか女々しいからいらないだろ」
「いや、いるって!」
「ちゃんと用意してるぜ」
そう言って勢いよく取り出したのは……。
「これって……赤ずきん?」
「赤だしな」
「人のイメージカラーで決めるな!」
「赤なのか……墓穴掘ったな」
「と、とにかく行くぞ!」
トイレの花子さんとは、学校の怪談でも有名な女の子の幽霊。
学校3Fのトイレの扉を3回ノックし、『花子さんいらっしゃいますか?』と尋ねる。
それを一番前の扉から三番目の扉にするのを三回繰り返す。すると、三番目のトイレから返事が返ってくる。そして扉を開けると花子さんが入ってて、トイレに引き込まれるという。
「ノックしたぜ。次でラストだな」
「本当に呼び出すのか?」
「あぁ!起こってる事件も気になるしな……全て暴露させてやる」
「そうか……ま、好きにしろ。俺はあっちで見てるからさ」
「お前もやるんだよ」
「はいはい」
ムジナに押され、二人は前進した。そして手前から二番目の個室に差し掛かった時だった。
──ドンドンドン!
扉が叩かれる音がした。
「……お前、叩いたか?」
「こんな所からどうやって叩けっていうんだよ。そっちこそやったんじゃないのか?」
「違うって」
「「ってことは……?!」」
──ギィ……。
『……あなたたちも引き込んであげる』
嬉しそうな少女の声が響いた。
それと同時に二人の命知らずな男たちの叫び声も響いた。
「出たあああああああっ?!」
「どうするんだよ!お前が行こって言うから……!」
「た、倒そうぜ……」
ムジナは手に剣を持つが、その手は震えている。
「アホか!怪談におけるヒロインを倒してどうする?!」
「ヒロイン?いつからヒロインになった?!」
「いいじゃん!ほら、来るぞっ!戦闘体勢用意だ!」
「待て、ヘラ!」
先に戦闘体勢に入っていたムジナが叫ぶ。
「何だよ?」
「あれは……」
ムジナが指差した先にあったのは、びしょ濡れの服だった。
女の子用の服であり、所々破れていた。
『気付いちゃった?お兄ちゃんたち』
戦時前後の子供のような服を着た少女が楽しそうに問うた。
「思いっきりバレてますけど」
「おかしいなぁ……変装ならバレないと思ったんだけど」
ムジナが難しい顔をして唸る。問題は難しくはないが。
『そんなのじゃあバレるよ』
「そんな所に引き込んだ子の服置いてたらバレるよ」
「みんな注意散漫だねー。あはは」
事の発端の男は能天気に笑う。
「変装するって言ったのお前だろ」
「そうっすね」
そして真顔に変わるという。
「で、どうしてまたこんな事件が起こってるんだ?トイレの花子さんよぉ」
ヘラの問いに少女は悲しそうな顔をして話し始めた。
『……都市伝説のモデルとか妖怪とかは、有名になればなるほど力が強くなるの。力を過信していつもより仕事をしすぎて、目立ちすぎて倒された者もいる。物理的な力じゃなくて、自分がやるべき仕事についての力が強くなるの。……私の仕事は知ってるよね?』
少女がヘラにその無垢な瞳を向ける。
ムジナは寒気がしたのか自分の両肩にクロスした手を当てた。
「呼び出すのを試した人間をトイレに引き込むんだろ?本に載ってるぞ」
『そう。私だって七不思議の中では有名な方でしょ?』
「そうだが、自分で言うのもおかしくないか?」
『そりゃおかしいよ。でも、この力……やっぱり有名なんだよ!だって見てみてよ。あなたの今いる場所……』
「ムジナ!」
叫びにハッと我に返るムジナ。
その目にはヘラは映っていなかった。
どうしてなのか?
その答えは散々バカと言われたムジナでもわかった。
「ヘラ!どうして花子さんの個室の中に?!」
「助けて!ちょっと離して、花子さん!」
『いつも女の子ばっかり引き込んでたけど……男の人を引き込める日が来るなんてね……!』
意外に花子さんの力は強かった。力では大人顔負けのヘラでも離れないようだ。
──これが有名になればなるほど強くなるという力なのか?
でも、どこかおかしい。
ムジナの話によれば、最近都市伝説に沿った事件が起きているという。
では、この子は本当にトイレの花子さんなのか?
しかも、人間が住む世界の怪談の幽霊が魔界にも出てくるのか?
というかなぜ、三回目のノックをしていないのに開いたのか?
……と、そんなことを考えていると……。
「もういい!ドア、斬るぞ!」
さっき直しかけた剣を持ったムジナが目に映った。
「はぁ?!それはいくらなんでも……」
「お前、このまま花子さんに引き込まれて死にたいのか?!」
「……わかった!わかったから早くしてくれ!」
『待って!それだけは……!』
「でやぁっ!」
キィィイイン!という音を発しながら真っ二つに斬られるドア。
なぜ、変な音が出るのか?という疑問はその時は脳内には無かった。
咄嗟にヘラの腕を掴み、引っ張る。
ヘラの体が浮いた。
そのまま倒れこむ二人。
ドアが巻き起こした埃の煙が収まると、そこには少女の姿は無かった。
「……大丈夫か?」
「あぁ……ドア、斬ってよかったのか?」
「知らん。でも、そうしないと助からなかったから文句無しな」
二人が安堵の声を出していると、どこからか少女の声が聞こえた。
『ふふ……封印を解いてくれてありがとう。
これからは都市伝説、妖怪、幽霊の時代よ……感謝するわ……』
「どういうことだ?!」
ムジナが声を荒げるが、花子さんから返事が返ってくることはなかった……。
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