着物おーぷん‼~平穏にハーレムキャンパスライフなんて出来るわけない

濵 嘉秋

第1話 ハーレムとか本気で言ってるのか、あの変態

 永要大学えいようだいがく。偏差値50と少しのそこそこなランクにある大学だが近年、その偏差値は上昇傾向にあった。

 理由は単純、毎年行われる学園祭の目玉・ミスコンの影響である。エントリーした学生全員が芸能人顔負けの美貌を誇り、ネットはもちろんテレビでも話題になった。ミスコンなんだから美人が多いのは当然?それはそうだ。だが美人が多いというのは大学選びの大きな指標になる。

 事実、騒がれるようになって以降…永要大学の応募は増えたらしく、倍率も上がってきた。結局は皆、可愛い彼女、カッコいい彼氏がほしいのだ。


「ふふん…」


 かくいう俺、工藤多一くどうたいちもその一人だ。可愛い女の子との出会いを求めてこの大学を選び、厳しい受験戦争を生き抜いて今日‼この学び舎の前に立っている。


「ふふ、くふふふ……」


 しかしここにして正解だった。中に入っていく女の子が可愛い子が多い…最低でも地下アイドルクラス、上澄みは今を時めく若手女優やアイドルにも負けず劣らず。同じくらいイケメンが多いのは気に食わないが。まぁ彼女たちの中にも俺と同じ目的の子は多いはず…イケメン共には精々餌としてぶら下がってもらおうか。


「何あの人…キモ」


「世の中にはいろんな人がいるんだよさくちゃん。あぁいうのは分かりやすくていいの」


 早速美人JD二人組が俺を見ている。何を話しているのかは聞こえないが、あの子たちは素晴らしいな。ぜひとも仲良くなりたい。

 おっと、新入生ばかりに気を取られてはいけないな。サークルの勧誘に来ているはずの先輩方も拝んでおかなくては。


「で、だよ」


 入学式も終わり、俺たち新入生はオリエンテーションのために大教室へと移動していた。座席は予め決められているらしく、自分の名前のシールが貼られた席に座る。だがこうして見ても目の保養になる。もう後姿すら可愛い子が多い。


「えーまず改めて、入学おめでとうございます。この後の流れについて説明させていただきます……」


 なんだが偉そうな人が話している。たしか学部長だったか。だが俺が気になっているのは入り口の傍に立つ若い女性。職員にしては若すぎるような…もしかするとボランティアの学生なのかもしれない。ここまでの流れで分かるだろう。そう、かなりの美人だ。黒髪を後ろで結んでいる、シンプルだがだからこそ美人が際立ついい髪型だと思う。


「では早速、皆さんの学生証を配りますね」


 そう言って渡された学生証。……うん、これは他の誰にも見られないようにしなくては。


「では本日はコレで終了となります。明日は午前9時10分にこの教室で……あ、最後に一つ。生協で購入したノートPCの配布も本日行いますので、購入された方は少し残っていてくださいね」


 今日はこれで終わりか。このまま女子に声をかけたいところだが、初日から飛ばすのは愚策だろうか?いやしかし、様子見をしてその結果、他の男に取られるのは避けたい。だがまだ焦る時期ではない。まずはサークルだ。手っ取り早く異性と仲良くなるにはサークルが一番って創作が物語ってる。

 大教室を出て外に出ると、すでにサークル勧誘の嵐。運動系から文化系まで、学内に存在するありとあらゆるサークルが新入生を取り込もうと躍起になっている。


「そこの銀髪!もうサークルは決めているか⁉」


「え?俺、ですか?」


「他にそんな髪色がいるか?」


 辺りを見渡す。やはり黒が多いが様々な髪色がいるものの、意外と白はいない。つまり他との差別化には成功しているというわけだ。

 こうして目立つ髪色にすることによって美人な先輩によるサークル勧誘を独占するナイスな作戦…のはずだったのだが。


「創作活動に興味はないか?小説や美術、自分の内なるものをさらけ出すんだ!」


「はぁ……」


 男なんだよなぁ。しかも筋骨隆々な…ていうかその見た目で文化系サークルなのかよ。ラグビーとかアメフトとかにしとけよ。

 しかし創作か。…アニメなんかだと清楚系な美少女が所属していたりするが、ここは現実だ。実際は運動系のサークルとかのほうが美人は多い。


「申し訳ありませんが、ちょっと気になってるサークルがあって」


「もう龍二。勝手に動かないでよ!」


「おぉ。怜奈れいな、彼を勧誘していたところなんだが…気になってるサークルがあるらしいんだ。勿体ないが諦め」


「創作活動、興味しかありませんね」


 決めた。新歓くらいには行ってやる。

 なんだこの人は。

 亜麻色のボブヘアに整いすぎてる顔立ち。そして何より見る者全てを釘付けにする抜群のプロポーション。ハッキリ言って付き合いたい。それ以上のことがしたい。


「お?そうかそうか!いやぁ今年は早くも二人捕まえられたな!」


「二人?」


「そうだ。…おい怜奈、さっきの彼は?」


「あれ?ちゃんと掴んでたんだけど…あ!いたぁ!」


 怜奈さんが人混みの中で誰かを掴んだ。そして引っ張り出されたのは黒髪の男だった。ムカつくことにイケメン野郎だ。あんな美人に首根っこ掴まれるなんて羨ましいやつめ…だがスキンシップはそこが限界だ。それ以上は俺が頂く!


「キミと同じ一年だ……そうだ、名前を聞いていなかったな。俺は佐藤龍二さとうりゅうじ…創作サークルの代表をしている。で、こっちが」


天音怜奈あまねれいなです!よろしくね後輩くん!」


「工藤多一です!よろしくお願いします怜奈さん!」


「お、元気がいいね。しかしまぁ…攻めた髪色だねぇ」


「せっかく髪色の束縛がなくなったんです。どうせなら思い切ろうと」


「へぇ、いいじゃんいいじゃん!普通なら金とか茶色とか、あっても緑なのに、ここでこんな真っ新な白を選ぶなんて!正に他とは違う何かがありそうじゃん?真司もそう思わない?」


「…ソウデスネ」


 絶対思ってないなこの捕縛系イケメン。棒読みがバレバレだぞ。それに気づいていないのかスルーしたのか、先輩方はイケメン野郎の紹介に移行する。


「で、コイツがさっき声をかけた新入生。辰巳真司たつみしんじだ」


「あぁ、よろしく工藤くん?ていうか先輩、僕はまだ入るって決めたわけじゃ」


「あぁ、真司は体験で決めるって話だったか」


 コイツも怜奈さんに引っかかったのか。いつの間にか首根っこを掴まれる形から右腕をガッチリ捕まれる体勢にシフトしている捕縛系イケメン改め辰巳。


「それじゃあ今から、といきたいところだが…初日だし予定もあるだろう。ここから一週間はオリエンテーションや履修登録と慣れないことが多いしな。まず親睦を深める目的で食事でもどうだろうか」


 そういうのは大事だ。いきなり食事と言うのもハードルが高い気がするが、この人たちだって他の新入生にも声をかけるはずだ。そうすれば自動的に美人JDとの接点もできる。

 あとはその女子たちが辰巳みたいなイケメンに持っていかれなければ……まぁこいつ、顔だけはいいってタイプの人間みたいだし。そこまで警戒する必要もないか?


「なんか失礼な事考えてるなお前」


「え?い、いや別に…初対面でそんなこと考えるわけないだろ」


「そうか?……まぁいいや。先輩方、僕はこれから寮に荷物が届くので」


「そうか。じゃあとりあえず食事会の日程だけ決めさせてくれ」


 結局、食事会は明日の夜19時ということになった。そこが決まると辰巳は人混みの中に消えていく。怜奈さんとの交流を自ら減らすなんて、愚かな奴だ。


「しっかし多一。その髪色が似あうって珍しいね…日本人だとどうしてもコスプレ感が出るのに」


「ありがとうございます。怜奈さんのお友達にはいないんですか?銀髪というか白髪というか」


「いるにはいるけど…そこまで似合ってはないかなぁ。素材はいいんだけどね、合う合わないってあるから」


「さっそく打ち解けているな。じゃあ俺はもう少し新入生を見てくるから、後で合流だ」


「りょうかーい!」


 佐藤先輩と怜奈さんは同級生なのだろう。交際関係にあるのかは図れないが、関係性は悪くないのだろう。これからサークルに入るとして、人間関係の良し悪しは重要だ。もしこれで二人の仲が険悪だったら入会は止めて怜奈さんとだけ接点を持ち続ける方向に変えていただろう。

 だがそれも不要みたいだ。佐藤先輩もいい人そうだし。


「佐藤先輩が言ってましたけど、創作って具体的になんなんです?小説だったり美術だったりって」


「その通りだよ?創作活動と言えるものは全部ウチの活動に入るの。ネットに小説を投稿するのも、絵を描いたり、陶芸したり……まぁサークルとして存在してるから目に見える形で結果を残さなくちゃだけど」


 要するににほぼ何でもありのサークルか。とはいえ、俺の人生の中で創作活動に触れた場面はない。だから小説とか絵を描けと言われてもそこそこのハードルがある。だがまぁ今はなんでも簡単に始められる時代だ。世の中にはネット小説から書籍化され、さらにアニメ化までされる作品が大量にある。やってみれば意外と…ということもあるだろう。


「そうだ!ライン交換しようよ!サークルに入ったらグループにも招待したいし」


「ぜひ!」


 というわけで怜奈さんのラインをゲットした、まずは一人。この調子で可愛い子の連絡先を次々と手に入れていこう。


「あちゃー…そういえば真司への連絡どうしよう。ライン交換忘れてたな」


「いいんじゃないすか?明日の19時の食事会はアイツも把握してるし…その時に交換すれば」


 とは言ったものの、あの感じ…きっと食事会も来ないんだろうな。流石にサークルメンバーの前で口に出さないが。

 怜奈さんもサークル勧誘で忙しいらしく、その後すぐに別れた。だがいい調子だ…初日からあんな美人と連絡先を交換できたし、やっぱり目立つ髪色作戦は成功と見ていいだろう。その後も幾つかのサークルに声をかけられて新歓の日程を教えてもらった。しかもその全てに美人がいた。

 手に入れた女の子の連絡先は14個…一日で凄まじい収穫だ。が、こうなると問題はどのサークルに入っても他の先輩方との付き合いには気を使っていかなくては。

 まぁサークルに入らなかったからと言ってその時点でサヨナラバイバイはないだろうけど。


「そろそろ行くか…」


 向かったのは大学から徒歩で20分程度の場所にある学生寮。共有スペースもあり、食事もそこで取るらしいほとんどシェアハウスみたいな空間だが…つまりは他の住民との接点も増えるということ。入寮者は全員が永要大学の学生ということで、美人率も高めだろう。


「ここが俺のハーレムの本拠地……!」


 すでに昼は過ぎている。荷物もすでに到着しているだろうから荷造りを終わらせて明日に備えるとしよう。

 玄関ドアを開けると、廊下にいた長身の男性が俺の訪問に気づいた。

 

「おや、もしかして工藤多一くんかい?」


「は、はい。寮長の長谷川さんですか?」


「あぁ。長谷川俊作はせがわしゅんさくだ。俺も永要大学の卒業生、よろしくね!」


 こういう場合、寮長も美人なお姉さんというのがお約束なのだが…まぁ高望みがすぎるな。厳しそうな人じゃないだけ幸運だ。


「荷物はもう届いてるよ。ほらそこに」


 俊作さんが指さした先にはキャリーケースが二つと大き目のバックが一つ。内キャリーケース一つは俺が送ったものだ。


「部屋は二階の206号室なんだが…案内するよ。荷物も一緒に持ってくかい?」


「はい。お願いします!」


 この寮は3階建てで、二階三階はそれぞれ5部屋ずつの計10部屋。最大で10人が住めるというわけだ。俺が申し込んだ時には枠が残り3つとなっていたが、その後に確認すると満室になっていた。さて、女子は何人いるのか気になるが…そんなことを聞いてもな。どうせすぐ分かることなんだから焦らなくてもいいか。


「ここが今日からキミが暮らす部屋になる」


 案内された206号室は8畳のワンルーム。学生の一人暮らしなら充分な広さだろう。小さいがキッチンもあるし日当たりもいい。我ながらいい部屋を引いたものだ。


「今日の夜に歓迎会を予定してるんだが…何か予定とかあったかな?」


「いや。空けてますよ。予め言われてましたし」


「それもそうか!じゃあ7時に食堂にに来てくれ。あ、そうそう…新入居者三人の内、キミが二人目なんだが、もう来てる男の子は上にいるよ」


 俊作さんが教えてくれるが、男かぁ。まぁこれから同じ屋根の下で暮らすんだ。仲良くなって損はない。


「次に共有スペースの説明なんだが…せっかくだしもう一人も呼ぼうか」


 早速仲良くなる機会がやってきた。

 階段の前まで来ると、俊作さんがその男の名前を呼ぶ。


「おーい真司くん!ちょっと降りてこれるかい?」


 真司?さっき聞いた名前だな。いや、真司なんて割とある名前だし…「はーい」という返事の声が本当についさっき聞いた声なのも気のせいに違いない。


「紹介しよう。辰巳真司くん、キミと同じ一年生だ」


「…さっきぶりだな」


「マジかぁ」


 気のせいじゃなかった。

 捕縛系イケメンこと辰巳真司たつみしんじ。関わることはないと思っていたが、どうやら長い付き合いになりそうだ。

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