ディレクターは見た! 国王たちのアラバキ戦記
沼津平成
第1部 対棒人間軍 1年目夏 開国祭決戦 浮島
Vol1~Vol19
Vol1 人工の魔術
ひとまず、落ち着いてください。アラバキは空想の国です。棒人間国と楽しい戦いをいくつも(しいて言えば、掛け持ちで)繰り広げているのだから、それを片っ端から説明することは、源氏物語全文を音読して、さらにその解説を書くことくらいに難解であり、また僕【沼津平成】の指にいくら肉刺や胼胝ができてもまだ足りないくらい、両手で抱えきれないくらいの歴史をどの国も必ずや秘めているはずです。アラバキも例にもれずそうでした。
アラバキ国の開国はテツが生まれた瞬間で、詳しいことは「テツとこりどうの工作物語」に詳細を記してあるから、いまわざわざ写すようなことはいたしません。
アラバキは魔力のない国ですが、音声認識はあるので、【人工の魔力】とやらは作ることができました。テツは公園で技を練習していました。まだ太陽が出てないうちでした。
「いでよ、【ウルヌス】――」
テツはいいました。ウルヌスは、一瞬のうちに相手の上に滝を作り、雷のような勢いで水を落とし、男のごついゴスペルのようなあの効果音が大音響であたりに轟いている、どよめきに負けずに――。そんな技でした。
相手は案山子でした。しかし案山子は濁流の中を流れ始めて、消えていきました。
呼吸を整えると、木漏れ日の中をテツは駆けだし始めました。案山子の運命を悟られたくないのか、太陽は焦っていました。
*
テツは家に着くと、リュックサックを担いで、出ていきました。アパートは「仮の家」でした。彼は国王で、だから本当の家は城でした。
近くに駅があります。テツは電車に乗りました。特別列車を申請しました。間もなく5A系がすっ飛びながらやってきました。テツは駅員に要請しました。「
「こりどうがそこへ観光に来ている」
「了解いたしました」
忠実な執事のように一礼をし、運転士は車掌を呼びました。「よし、走れ!」
テツを乗せた5A系は、十時五十五分、あかねサンフラワア駅を出発しました。
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