0-8 結成

「わたしからのお願いはただひとつ――わたしたちとともに、革命を起こしにいこう! ……ってこと! おにぎりのお礼としては……ちょっと大きすぎるかもしれないけど……いいよねっ!」


 ツナグはキズナの差し出された手を見つめた。


「でも……どうして俺なんかを……」


 ヒトリはため息をつき、言う。


「優柔不断な男だねぇ……。君を誘っているのは、君だからに決まっている。わたしは君の決意を聞いた。わたしたちは、君の現状を救おうと動いた意志を見せつけられた。山賊長クズを殴り飛ばしたあの強さを見た――君がいれば、百人力さ」


 ツナグは「あれはたまたま……!」と返すが、「偶然であんな力が出ると思うかい?」と、ヒトリに言い返されてしまう。


「それに君……この世界へ来たばかりで行く宛てだってないだろう? わたしらに着いてくれば、衣食住は提供するよ?」

「うーん……」


「衣食住の提供」、これはツナグにとって非常にありがたいものだった。


 ツナグはまだ悩んでいると、「あーもう、じれったい!」とキズナは声を上げ、ツナグの手を取った。


「――!?」

「はい! これでもうツナグはわたしたちの仲間! 今日から君も、革命家だよっ!」


 強制的な勧誘に、ツナグは焦り戸惑った。そんなツナグを見て、ヒトリは笑う。


 事が進んでしまった今、もうこの場から逃げ出すことはできなさそうだ。


「よろしくねっ! ツナグ!」


 ――もう、覚悟を決めるしかない。


 どっちみち、断る理由だってないのだ。


 ツナグは二人の顔を見上げる。



「――ああ。やってみせるぜ、革命家!」



 最後に、「……今日から世話ンなります」と付け加えて。


 ツナグはハッキリと宣言した。


 おかげでもう、ツナグの中に迷いはない。

 こうなったら、運命に任せて突き進むのみだ。


「ああ、そうそう……。せっかく三人になったんだ。三人以上になったら、伝えたいことがあったんだよねぇ」


 キズナは「なになにっ!?」と興味津々だ。


「やはり三人のチームとなったら、チーム名が必要だろう? わたしたち革命家たちの――革命軍に必要な名を付けようと思っていてねぇ」

「革命軍かぁ! いよいよわたしたちも、本格化してきた感じだねっ!」


 ツナグは「革命軍の名前かぁ……」と呟いた。ツナグはまだこの二人のことをまったく知らない。二人が今までどんな活動をしてきたのかさえわかっていない。どんな名を付けるべきかなどらツナグには到底思いつきそうにない。


 すでに軍の名前の候補があるのかとツナグはヒトリに聞くと、ヒトリはその質問を待ってましたとばかりに「もちろん」と答えた。


「名前は前々から決めているんだ――その名も、『ニューエゥラ軍』」


 ニューエゥラ――「新たな時代」。


「わたしたちはこの腐った時代を終わらせ、新たな時代を、世代を築き上げていく――やがて、みなの幸せが叶う、新世界を創り上げるんだ」


 ヒトリの案に、反対する者などこの場にはいない。


 今まさにここで、革命軍が誕生した。


 世界を変える革命軍の名は――「ニューエゥラ軍」。


「よぉし! じゃあさっそく軍らしく役割を決めなきゃね! 隊長はもちろんお姉ちゃんでしょ。副隊長は……やっぱりわたしだよねっ! ツナグは……まあ、雑務だねっ!」

「ざ、ザツム……」

「新入りなんてそんなもんさぁ。それに、生活面の面倒はわたしが見るんだ。料理だったり掃除だったり……それくらいはやってもらわないとねぇ」

「……うっす。頑張ります」


 ツナグはこれから大変なことになっていきそうだと思いつつ、二人と過ごしていくことに、なぜか少しだけ、うれしさと期待を持ち合わせていた。


「……あ! そうだ、俺……キズナにせっかくもらったおにぎりを……」


 ツナグは地面に視線を落とした。そこには山賊長に踏み潰され、グチャグチャに潰れてしまったおにぎりがあった。


 ツナグは罪悪感を抱く中、キズナから「気にしないで。ツナグは悪くないもん」と言われ、笑いかけられる。


「おにぎりなら、また作ってあげる!」


 キズナの明るさにひかれ、自然とツナグも笑顔になる。


 彼女は天使の革命家だ、なんてツナグは思った。


「ツナグくん〜。わたしの妹に下手に手を出したら、この槍で突き刺すからねぇ」


 釘を刺すかのように槍を構えるヒトリ。ツナグはそんなヒトリを悪魔の革命家だなんて内心呟きつつ、ふと視界に動くものを捉えた。


 どうやら山賊長が目を覚ましたようだ。山賊長は気づかれないようにその場を去ろうとしたようだが、残念なことにツナグたちはそれを見逃すほど浅はかではない。


「さあ、ツナグくん。早速我らニューエゥラ軍、初仕事と行こうか」

「……うっす!」

「よぉし! 悪い子にはおしおきしちゃうよっ!」


 ツナグたちはゆっくりと迫るように動き出す。


「……え、えと……さっきはほんとすんまへん。だからその……今回は……」


 許しを乞う山賊長に、ツナグたちはただ笑みを返し、詰め寄った。



「い……イヤァァアアァァアァ!!」



 村にはしばらく、山賊長の悲鳴が響き渡ったのだった。



 ――掬等繋きくひと つなぐ、19歳。彼はこの日、こうして革命軍の一員となったのだった。

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