文化祭の準備が本格的になってきた。

 放課後は生徒会室に籠り、やるべきことを淡々と進める。


 長谷田先生は毎日、生徒会室に来た。


 別に先生と何か話すわけではない。

 2時間のうち、一言二言交わすだけ。



 最近思う。

 先生の言葉は嘘ばっかりだと。


 先生の本当の言葉はどこかに隠れ、本心なんて一切見えない。


 向日葵、立派だな。

 先生はそう言った翌日、本当は向日葵が嫌いだ。と言った。


 立派、という言葉も嘘だし。

 嫌いだ、という言葉も嘘。


 情報研究部の後輩から聞いた話によると、長谷田先生は授業で『向日葵が弱々しくて残念』だと言ったらしい。


 別に弱々しくないけれど、先生はそう思っているということ。

 立派なんて嘘じゃん……そう思ったのに。


 学校から帰る時、向日葵を眺めている長谷田先生を見た。


 それも1回だけでは無い。

 何度も、その光景を見た。


 嫌いなら……見ないと思うんだ。



 とか言う私も、長谷田先生に対しては嘘ばかりだけれども。



 嘘と言う名の仮面を被った者同士の会話。



 嘘で溢れそうな生徒会室は、今日も静かだった。






「ところで、渡里……。お前、いつ他の奴ら呼ぶんだよ」



 またそれ。

 それは先生の仕事だろ。


 呼び集めて、指導しろよ。



「………」



 無言で作業を続ける。


 文化祭の企画書作り。

 職員会議に提出するものだ。



「無視すんなよ」



 先生は私の肩に触れてきた。

 気安く触るな……っ。その思いが一瞬で沸き、酷く先生の手を振り払う。



「……無視ではなく、せめてもの抗議です。呼んで集めて指導するまでが、先生の仕事ではないのですか」

「だから、この前言っただろ。俺の言うことは確実に遂行しろって。俺の仕事かどうか、ではないんだよ。俺が呼べって言ったら、お前は呼ぶだけ。それだけだろ」

「……遂行できません。その言葉、教頭先生に報告しますよ」



 そう返答すると、先生は黙り込んだ。



 本当……つまらない教師。



「先生が他のメンバーに指導できない理由って何ですか。私にばかり厳しく言って、他の人は放置。どっちが悪いかなんて明確だと思うんですけど」

「……それは、言えない」



 その言葉を聞いて、私は立ち上がった。



 もう、この人と話すことは何も無い。



「渡里……どこ行くんだよ」


「先生には関係ありません」



 本当に、つまらない。


 私はそんな言葉を残して生徒会室から出た。




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