草抜き


 翌日の放課後。

 いつも通り生徒会室に来た。


 相変わらず部屋には誰もいない。



 今日は議事録の作成と、花壇の草抜きをするんだ。




 まずはジョウロを持って花壇に向かう。


 以前よりも背丈の伸びた向日葵。

 今日も沢山話しかけながら水をあげる。



「今日はね、簿記が2時間もあったんだ。私、簿記が苦手だからさ……頭が爆発するかと思ったよ」


「手…仕訳をして貸借対照表と損益計算書を完成させるんだけどねぇ……。最後の当期純利益が合わなかったの。これどういうことかって、途中の仕訳をどこか間違っているわけ。もうね、全てやり直し。やばくない?」

「………」



 当たり前だけど、向日葵は何も言わない。

 そして、向日葵に話し掛ける自分が面白すぎて、思わず笑いが零れる。



「とはいえ、向日葵には簿記が何かも分からないよね。ごめんね」



 長い花壇にひたすら水やりをした後、今度は端から草を抜いて行く。


 無心でできるこの作業。

 少し、楽しい。






「……おい……渡里」

「……え?」



 後ろから呼ばれた私の名前。

 振り返ると、少し先に長谷田先生が立っていた。



「お前……何してんの」

「な、何って……。見て分からないのなら、言っても分かりません」

「はぁ? お前さぁ……その態度やめろって」

「なら、先生も私に対するその態度やめてください。不快です」

「……」



 視線を長谷田先生から花壇に戻し、草抜きの続きを行う。



「……」



 先生は無言で花壇の前に座り込み、同じように草を抜き始めた。



「……どういう風の吹き回しですか。先生に居られると邪魔です。ここから消えて下さい」



 そう言っても、先生は動く気配が無い。

 ひたすら草を抜き続けている。



「……だから、それ。お前の態度、マジで可愛げ無さすぎ。大人しく一緒に作業させろよ」



 知らんわ。

 大体、可愛げってなによ。


 先生個人の尺度で私に意見してきて欲しくない。



「……分かりました。では、ここは先生に任せます。私は他にもやることがあるので生徒会室に戻ります」

「はぁ??」

「可愛げが無い私がここから消えますね。後はお願いします」

「え、いや。ちょっと待てって渡里!!!」



 そんな先生の声を無視して、私は生徒会室に戻った。



 ……何を今更。


 草なんか抜いちゃって。

 どういう風の吹き回しなのか。



 今更、生徒会の活動に参加しようなんて。


 遅すぎるんだよ……。




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