【完結】銃剣戦姫~狐獣人の姫に転生した戦闘工兵は「工廠」スキルで獣人達の旗じるしとなる~

橘まさと

第1話 神降ろし

■西暦1945年3月 日本 沖縄


 第二次世界大戦末期、沖縄に米軍の兵士たちが上陸をしはじめた。

 沖縄の次は日本の本土ということもあり、町を上げての徹底抗戦をしている。

 銃声が昼夜を問わずに鳴り響き、負傷した兵士や国民のうめき声がこだましていた。


「ここが地獄と言っても納得できるな……」


 相棒の四式自動小銃にクリップで一気に銃弾を込めたオレ——尾野大我おのおおが——はもらった握り飯を食べる。

 ここは小さな村で、食料を分けてもらおうと立ち寄ったら米兵がうろついていることを聞き、その対応に出て来たのだ。

 米食が禁止されて東京ではほとんど食べられなかったのだが、やはり白米は美味い。

 塩気がほど良く、具がなく大きさも小さいが活力が湧いた。

 握り飯をくれたモンペ姿の少女は幸子といったが、その名の通り幸せになってもらいたい。


「いや、オレがここで米兵を殺して幸せな世界を作るべきだ」


 自分にいい聞かせ、村人が米兵を見かけたという丘へ向かった。

 そこにはジープに乗った米兵数人が日本人女性にちょっかいをかけている。

 嫌がる日本人女性の髪を掴んで、銃を突きつけ無理やりにでもいうことを聞かせようとしていた。

 オレの心が烈火のごとく燃え上がる。

 四式自動小銃を構え、タイミングを計る、三、二、一……今だ!

 木の影に隠れて様子を見ていたオレが飛び出し、自動小銃の引き金を引く、ダァンという音と共に米兵のおでこに穴が空く。


「What happened, move quickly!」

「日本語をしゃべれよ、鬼畜がぁ!」


 そのまま、動揺している二人を次々と撃ち殺した。

 あとには米兵の血で汚れた女がへたり込んでいる。


「早く逃げろ、まだ敵がいるかもしれない」

「あ、ありがとうございま……兵隊さん右のほう!」


 ダァンと銃声が響き、オレの右肩に銃弾が当たった。

 激しい痛みが襲い掛かり、その場に転がる。

 ダァンと二発目の銃声と共に俺の腹が熱を帯びた。


「に、逃げろ! 早く!」


 オレが女の盾になろうとしたとき、三発目の銃弾が女の頭を撃ち抜く。


「クソォォ! クソォォ! 貴様らのような外道は必ず殺してやるからなぁぁぁ!」


 痛みに苦しい中、呪詛の様な言葉を履いているときに来た四発目の銃弾がオレの意識を刈り取った。


■帝国歴 345年 ヴィンヘルト帝国辺境 白狐族の隠れ里


 ——私たちが何をしたというのか。

 

 逃げ惑う狐獣人達を金髪碧眼の人間が”狩り”と称して殺していく。


 ——私たちが何をしたというのか。


 人間の男が女の狐獣人を組み伏して乱暴をしはじめた。


 ——私は何もできないのか。


 狐獣人の姫として、私は泣き叫ぶ民を見捨てて、籠に入れられて逃されようとしている。


「タマモ姫様は東方の本国へお帰りください。この帝国は我ら獣人を家畜としか見ておりませぬ。むしろ、それ以下でしょう」

「ですが、里の民を見捨てて私が生き恥をさらすなどっ!」


 叫び始めた私の口を隠れ里の主であるゲンヤが塞いだ。

 人間に見つかることを恐れてのことだろう。

 コクリとうなずいた私を籠に入れ、男たちが運び始めた。

 だが、少しだけ移動したところで、数人の人間に囲まれる。


「貴様! その荷物はなんだ! 中をあけろ!」

「お前たちの様な外道の指示に従う通りなどない!」

「外道とは否ことを……我々はこの辺境の領主であるヴィンセント様の命により来ている。大儀は我らにあるのだ」

「帝国は今の皇帝になってから変わってしまった。獣人と人間が手を取り合えっていた時代があっただろうにっ!」

「不敬罪も追加だ。極刑に処する!」


 私は籠の中で震えながらこれから起こることを想像し、涙した。

 なぜ、力がないのか……魔法を使いこなす人間に獣人達は成すすべがない。


「力が欲しい……そうだ、おばあ様から教わっていたあの秘術を使おう」


 一子相伝とされている、白狐族の中のイナリ家に伝わる〈秘術:神降ろし〉を教わって通りに行った。

 私は意識を集中し、体内に眠る力を呼び起こす。


「グァァァ! 姫様、お逃げくださ……」

「黙れ、ケダモノが」


 ゲンヤの声が消え、籠が崩された。


「姫様を守れ!」

「うわぁぁぁ!」


 私を守ろうと隠れていた農民達が鍬や鎌を構えて人間たちに襲い掛かるが、人間の指揮官が手から炎を飛ばして燃やした。

 苦しむ声、肉の焦げる匂い、それらが私に降りかかる度にあやまり、そして神が来てくれることを願う。


「タマモ・イナリだな? 貴様は領主様が妾として囲ってくれるとおっしゃられている。寛大な判断に感謝をすることだ」


 指揮官の男が私に近づき、手を伸ばしてきた。


——こんな外道に私は屈しない!


 強い願いと共に祈った時、天から光の柱が下りてきて、私を包み込む。

 私の意識は光へ吸い込まれるようにして消えていった。

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