剣と魔法のabc

素足

プロローグ 

「ぶほおおおおおおおおおおおッッ!?」


 鈍い打撃音とともに黒い塊が宙を舞う。


 夜の草原、2つの影が対峙している。一つは長身の男性の影、もう一つは小柄な少年の影。小さな影は地面に突っ伏している。


「どうした、こんなものかお前は」

「・・・・・・・・・・・・」

「立て」


 軋む全身を鼓舞し、強大な存在を前に少年は立ち上がる。いつもなら心地よい夜風すら、今は全身を毒のように痛めつける。


「さあ来い」

「その前に一つ、いいですかね」

「なんだ、言ってみろ」


 少年は息を吸い込み、歯を食いしばる。


「いくら修業とはいっても拳に強化魔法かけまくって弟子をぶん殴る師匠がどこにいるのか教えてもらってもいいですかね!その拳硬度が鉄と変わらないんですけど!?」

「何を言ってる。実戦訓練だぞ、本気でやらなくてどうする。それにお前だって真剣を使ってるじゃないか」

「だーかーら!!その剣をあんたの拳がぽっきり折っちまってるから言ってんでしょうが!?」


 少年の背後には刀身が真っ二つに折れた剣が転がっていた。刀身の腹に傷はなく、刃だけが何かに思いきりぶつけられたように潰れ歪んでいる。


「本当にこんなので大丈夫か、入学試験は。レイ、死んじまわないか?」

「怖いこと言うな、そんなわけないだろ。あんたより強い新入生なんているわけないから」


 レイと呼ばれた少年は齢15。明日は、ワースド王国の直属の魔導士育成機関である、ワースド魔法学院の入学試験を受ける予定である。試験前日である今夜は十分に休み、英気を養うのが基本であるが、師匠であるネグムにベッドから引っぺがされた挙句、前日にもかかわらず厳しい修行を行っているのである。


「俺の時代は、そんな軟弱な奴は真っ先に死んでいたがな」

「あんたの時代と一緒にするな。時代に沿った教育方針をお願いしてもいいですかね」


 ネグムはもともと国王直属の近衛魔導士団で副団長を務めていたほどの実力者で、引退してからは教官としてたまに顔を出しているという。とんでもないスパルタで有名らしい。


「無理だな。俺はこれしか教え方を知らんのだ」


 ネグムが右の拳を固く握りしめる。全盛期を過ぎたとは思えない闘気が全身から湧き出ているた。


 「とはいえさすがに試験前日だ。もう切り上げるか」

 「・・・・・・・・・・・・いや」

 「?」


 全身の痛みで溢れそうになる涙を押しとどめ、レイは拳を握り締める。


 「もう少し、お願いします!!」


 明日の試験はどうしても落ちるわけにはいかない。少しでも前に進めるなら、合格の可能性が上がるなら、多少の痛みは覚悟するとしよう。死ぬほど嫌だが。


 「言うじゃねえか、しなびたゴボウみてえに細かった小僧が・・・・・・・・・・・・よし、そんじゃあちょっと、俺も本気を出すとするかなあ!?」

 「いややっぱお手柔らかに、ってうおああっ!?」

 「そらそらそら、避けなきゃ骨の2,3本でも逝っちまうかもなあ!?」

 「ああだめだこれ、止まんなくなっちゃったよこのバトルジャンキージジイ!?」

 「ははははははははははは!!」


 後日悲鳴を上げる少年の亡霊と、それを追いかける人型の怪物の噂が巷で噂になったという。

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