第6話




「ごはん用意するから、先に手を洗っておいで。後トイレはこっちにあるから」



 案内を受けた後、お姉さんは先に朝ご飯の準備をする為、リビングへと向かう。



 先にトイレを借りてから洗面所で手を洗うと、僕は何気なく辺りを見渡す。

 すると洗面台には化粧水や洗顔剤、乳液などスキンケア商品など多くのモノが収納スペースに並んでいて、その隣にはドラム式洗濯機があり、その上には色んな衣類用洗剤が置いてあった。



 見たところ女性の一人暮らしという感じだ。一人暮らしの根拠は歯ブラシが一本しかなかったからだ。

 てゆうか、同棲しているなら僕を泊める事はしまい。



 でも一人暮らしなのだとしたらお姉さん、何気に稼いでいるのでは?

 この部屋の間取りは少なくとも1LDKだろうし、部屋も綺麗で設備も整ってる。そして猫も飼っているときた。



 これだけの生活を支える経済力を有しているという事はそれだけ社会人として地位を築いていると言えるだろうし、ならば尚の事あんな残念な感じになっているのか理解に苦しむ・・・・・・。



 なぜにお姉さんを取り巻く人間たちは彼女を野放しにしてきたのか。

 もしかしてお姉さん、外行きだけはいい格好するタイプなのだろうか。それにしてもよく隠し通せたものだな。



 まぁ、美人は勝手にいい風に解釈されるし、その先入観を隠れ蓑に今までのうのうと生き残ってきたのかもしれない。

 お陰で被害を被っている人間がここにいるんだけどね!



 手を洗った後、ハンドタオルがない事に気づいて探してみれば、後ろにタオルハンガーがあって、そこにバスタオルと一緒にハンドタオルが掛けてあった。

 それで手を拭きながら――ふと、それは目に留まる。



 あくまでそれは偶然、たまたま、思いがけず、期せずして、不可抗力で僕の視界にランドリーケースに入った中身が目に留まる――女性用下着が。



 丸形二段のランドリーケースの上段に下着類が入っており、ファサァァ、と無防備に白のブラジャーが投げ置かれていた。



 それは抗いがたい魔力を放っていて、気づけば僕は白のブラを手にしていた。

 シンプルな刺繍で彩られたブラは色気はないけれど日常使いなのだろうきっと、その色気のなさがかえってお姉さんの生活感を想像させて生々しさを感じる。



 僕はしげしげとブラに見入ってしまっていた。



「これ、何カップあるんだ・・・・・・」



 見たところ、マスクメロンがすっぽりと収まりそうなスケール感だ。

 フルーツキャップがなければこのブラで代用出来そうだゲスゲスゲス。 ・・・・・・といけない、ついゲスな笑いが漏れてしまった。

 いやしかしこれは・・・・・・。



「ゴクリ」



 女性モノの下着、それもかなりのサイズ・・・・・・しかも、ランドリーケースに入っているという事は既に使用済み・・・・・・。



 ダメだよせ、僕。変な気を起こすな・・・・・・お前が今までに築き上げてきたものを台無しにする気か? お前は人畜無害で女の子からの票を獲得してきた筈だ。それはお前のブランドであり強みなんだ。それをここで手放すなんてダメだ! 誰も見ていないなんて事はない、他ならぬ僕が見ているのだ! だからその特急呪物から手を離せ! 早く!



「はっ!」



 不意に、内なる僕の声が聞こえてきて、僕は目を覚ます。

 一体、なにをしていたんだ・・・・・・。 我に返った僕は、そっとブラをランドリーケースに戻す。

 すると今になって、自分の愚かな行動に気づかされる。



 ストーカーであり、寝ている僕を家に連れて行くようなお姉さんの下着に見入ってしまうなんて、僕はなんと浅ましく卑しい人間なのだろう。どんな人間性であれ、女性用下着に食い入るように見入ってしまうとは、情けない、なんて情けないんだ・・・・・・。



 けれど、この下着は抗い難い魔力があったのも事実で、今も尚、ランドリーケースに佇む白のブラは僕に語りかけている。



『今ここにいるのはあなたしかいないのだから、好きになさい。はしたないと思わず、欲望のままにブラジャーを手に取りむしゃぶりつきなさい。誰も咎めるものなどいないのだから』



 これは悪魔の声だ・・・・・・。

 悪魔が内なる僕に直接語りかけているのだ。人間の本能的な欲求、抗い難い欲求を刺激して、奈落へと引き摺り込もうとしている。



 だが僕は負けない。僕は人として胸を張って生きたい。たとえ誰が見ていなくとも、自分自身に嘘を吐きたくないのだ。



 僕の潔癖は鉄壁で、あらゆる悪をはじき返す。

 お姉さんの下着如きに負けてたまるか。

 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!

 悪霊退散ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

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