お姉さんと一緒!
大いなる凡人・天才になりたい
第1話
§
「ふぁぁぁ・・・・・・」
誰もいない店内で、レジを任されている僕はふと眠気から欠伸を溢してしまう。
すると「おやおや、勤務中にそんな大きなあくびをするとは、何事かね」
という声がして隣を見れば金剛先輩がきしし、と笑ってみせる。
金剛先輩は音大に通う二十歳のお姉さんである。主に夕方にアルバイターとして働いており、朝から夕方までパートタイマーとして働く僕とは少しだけしか勤務時間は被らないのだけど、僕と同じく週五で働いているので毎日顔を合わせる間柄。とあってコンビニ仲間の中では一番仲良しだ。年が一つしか離れていないのも理由の一つとしてあるかもしれない。
「すみません、つい」
と、僕は平謝りをすると金剛先輩はきしし、と笑って「いいよ、お客さんいないし」
夕方十六時頃になると客足は少なく、たまに仕事休憩の人たちがコーヒーを買いにやって来るか小学生がお菓子を買ってくるかだ。
「でも最近、歩夢くん眠たそうにしてるよね。夜更かしでもしてるの? 深夜にエッチな動画見たりさ」
「ち、違いますって!」
「あはは、隠さなくてもいいのにー」
そう言ってひとしきり笑うと、先輩は切り替えて真面目に訊ねる。
「で、なんでそんなに寝不足なの?」
と訊ねるので、僕はおずおずと切り出す。
「実はちょっと悩み事がありまして」
「悩み事?」
「はい・・・・・・」
悩み事っていうか、不安事というか、数週間前からなのだけど、
「実は最近、帰り道に誰かに付けられる気がするんですよね」
「え、」と金剛先輩は声を漏らして一旦、言葉を区切ると、改めて二の句を継いだ。
「それってストーカーって事?」
改めて言うので、僕は確証はないので「たぶん・・・・・・」と曖昧に頷く。
「気のせいかもしれないですけど、でもなんか帰り道、視線を感じる事が多くて・・・・・・それであんまり眠れてないんですよね」
僕は力なく話すと、金剛先輩も調子を合わせて相槌を打つ。
「そっかぁ。男の子でもそういうのあるんだねぇ。まぁでもうち、接客業だしさ、常連さんに気に入られて帰り道を付けられるってよく聞くよね」
「なるほど・・・・・・」
「あ、そう言えば」
思い出したように金剛先輩は声を上げた。
「怪しい人いるよね、うちの常連で。いつも帽子とマスクとメガネしてる女の人」
先輩の言う心当たりの人の姿が、僕にもすぐにイメージ出来た。
「あぁ、いますね」
特徴だけで言えばそうした客は少ないながらにいるけれど、常連となると一人しかいない。共通認識出来るほど顔の知れた人――いや、どんな顔かは分からない。でも、毎回同じ洋服を着てるから、それであのフルフェイスだから結構印象に残る。同じ格好だし、大体同じ時間に買い物に来る。ルーティンなのか、ならばここら辺で仕事してるのかな。でもオフィスカジュアルという感じの格好ではないからどうなんだろう。
結構な頻度で買い物に来てくれる人ではあるけれど、毎回フルフェイスだからどんな顔をしているのか見た事がないくて、結構謎めいた人なんだよなぁ。
声もほとんど聞いた事がない。聞けても短い返事くらいでそこから年齢を割り出すのは難しい。強いて言うなら服装の感じが二十代から三十代辺りといったところか。
「いっつも歩夢くんが接客してるよね。私、ほとんどレジで応対してないんだよね。なんか、歩夢くんがレジにいるのを見計らってるって感じが、いつも見てて感じるんだよねぇ」
「あぁ、言われてみればそうですね」
「見てると挙動も怪しいし、結構目に付くんだよねぇ。もしかして、歩夢くんの事狙ってたりしてね」
「やめて下さいよー・・・・・・」
ストーカーかもしれない前提で、そんな事言われたら不安になるじゃないか。不謹慎な事言わないで欲しい本当。
「ごめんごめん。でも可能性はゼロじゃないから気を付けた方がいいよ。それともし、そういう事がずっと続くようなら店長に相談して、仕事時間をズラしてもらってもいいかもね。店長には話した?」
「いえ、まだです・・・・・・」
「じゃあ相談したらいいよ。ちゃんと理由があれば融通利かせてくれるでしょ」
「ですかね」
ここで話は終わり、後日、店長に会ったらシフトの相談をする事にした――けれど、事の真相はこの日の帰り道で知る事となる。
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