第1話
テレビが嫌いだ。
テレビをつけると勝手にこわい映像が流れるからだ。
戦争のニュース、事故の映像、見ているだけでこわくなる。
もし、空から爆弾を落とされたらどうしよう。
ガレキの下敷きになったらどうしよう。
痛くて、息ができなくなって、苦しくて、こわい、こわい、こわい、そう叫びながら死ぬ。
死んだらどこへ行くんだろう。
真っ暗闇の世界にずっと閉じこめられていたらどうしよう。
こわい。
こわい、こわくて仕方ない。
それでも、小さい頃、夢はヒーローになることだった。
どんな時でも困った人を助けてくれる、強くてやさしいヒーロー。自分と同じ名前。
憧れるだけで、永遠に叶わない、遠い夢。
「ヒロ。テレビ消さないでよ。見てたんだから」
お姉ちゃんが睨んだ。
ヒロ——成田ヒロ。小さい時は大好きだった名前。今は嫌いな名前。
お姉ちゃんと朝ごはんが一緒の時、テレビを消せないのが困る。
毎日流れるウクライナとロシアのニュース。更新されていく死んだ人の数。
朝からテレビなんか見たくない。
たくさんの人が死んだ。
ガレキの下に生き埋めになって、戦場で血だらけになって。
たくさんの人がストレスで心が壊れてしまった。アルコール依存症になった人もいる。
きれいな女子アナウンサーが七時を告げた。
急いでご飯を掻きこんで、口をゆすぐと玄関に出る。
「あっくん。ごめん、待った?」
あっくん——茂木淳。
照りつける陽射しの下、すらりと立ったあっくんがにこにこ首を振った。
あっくんは背が高い。中二の時からおれより20センチも高かった。ずるいと思うけど、あっくんならいい。あっくんはすごく優しいから。
朝から、暑い。
夏休みが明けてもやっぱり暑い。それでもあっくんのまわりはどこか涼し気だ。
暑いねぇ、そう言うと、あっくんは頷いて眼鏡を外した。額の汗をハンカチで拭く。驚くほどイケメンなあっくんは目がいいのに眼鏡をかけている。
今日もいつもの遠回りルートで学校へ行く。
みんなが渡るあの橋を、おれたちは絶対に渡らない。
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