第17話 妃たちとの宴・3


「卜占ですか?」


「えぇ。凜風殿ならできるでしょう?」


「…………」


 千里眼(鑑定眼)を使えば未来予知的なことも可能だけど、張さんの前でやったことはないはずだ。なぜできると知っているのだろう?


(まぁ、『三代宰相』なら調べ上げていても不思議じゃないか)


 張さんの立場からして、皇帝陛下が入れ込んでいる女(自分で言うのは恥ずかしいわね、これ)がどういう人物か調べるのは当然だし、そのことに文句を言うつもりはない。


「占うことはできますが、未来のことはすぐに正解かどうか分からないですし、余興にはならないのでは?」


「いえいえ占いが合っている間違っていると騒ぐだけでも充分な余興となるのですよ」


「そういうものですか」


 この胡散臭い顔。絶対何か裏がある。

 張さんが何を企んでいるかは分からないけれど、こちらとしては名案も思い浮かばないので卜占をすることにした。


「ではまずは俺を占ってもらおうか!」


 酔っ払いが右手を差し出してきた。地元で流行っていた手相占いだろう。反射的に梓宸の手を握るけど、手相よりも手っ取り早いから金色の瞳で彼を『視』た。


 …………。


 ……なんでこいつの隣に私が座っているんだ? しかも数多くの官僚の前で。無意味なまでに豪奢な服を着て。とても幸せそうに微笑んで。


 いやいや、ないない。これじゃまるで皇帝と皇后・・・・・じゃないか。ありえないってそんな未来。皇帝と平民が結婚するだけじゃなく、正妃になるとか。


 しかし、ありえないと拒絶するなら別の占い結果を伝えなきゃいけないわけで……。


「……わーなんという龍顔ー。まさしく皇帝となるために産まれてきた御方ですわー。すてきー。我が大華国の将来は安泰ですわねー」


 思いっきり棒読みでからかってやったけど、酔っ払いは本気にしたようでとても満足げ。大丈夫かしらこの男? 悪い方術師に騙されない? お姉さん心配だわー。


「ふむ、不安であるなら凜風様が側で目を光らせることですな。皇后の位は空いておりますぞ?」


 その手には乗りませんー。庶民が皇后とか何の冗談か。

 酔っ払いから視線を逸らすと、事の発端である海藍様が目に入った。「やはり口だけの方術師ですのね!」とその顔が語っている。


 少し苛ついたので彼女のことも視ることにする。


 …………。


 ……うわぁ。


 良くも悪くも真っ直ぐ。直情型。実直な人物と言えば聞こえはいいけど、悪い大人にすぐ騙されそう。


 この人、陰謀渦巻く後宮でよく今まで生きてこられたなぁ。男子を産んだのだから色々狙われるだろうに。


「な、何よその哀れみの視線は!?」


「いえいえさすがはお妃様、とても気高く素直で単純――ごほん。『悪い男に騙されるくらいなら』と後宮に叩き込んだお父上のご慧眼はさすがの一言かと」


「今単純って言った? 単純って言ったわよねこの方術師?」


 海藍様はジト目で張さんを見るが、張さんは「はて、老いぼれはすっかり耳が遠くなりましてなぁ」と素知らぬ顔だ。


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