第15話 妃たちとの宴・1
※人名、再登場時に改めて紹介するので無理に覚えなくて大丈夫です。
宴会場は板敷きの部屋であり、意外と装飾は控えめだった。どうやら梓宸が私に気を使って小さめの部屋を準備してくれたらしい。
四角い部屋の一番奥に座っているのが梓宸。部屋の右壁と左壁には二人ずつ美人さんが並んで座っている。……いくらこの部屋が小さめとはいえ、部屋の壁沿いに方卓(テーブル)を並べていては会話するのも大変そうだけど……。やっぱり貴族の習慣はよく分からないわ。
「よし凜風! ここに座れ!」
バンバンと自分の真横の床を叩く梓宸。お前は阿呆か。いくら歓待を受ける側とはいえ、皇帝の横に座れるはずがないでしょうが。皇后(正妃)じゃあるまいし。
勉強が足りない幼なじみは無視して、普通の客が座るという場所にテーブルを準備してもらう。つまりは梓宸の正面。入り口から一番近い場所。
さて。梓宸が両脇に侍らせている(すごく距離が開いているけれど)のが上級妃・四夫人らしい。
四夫人とは藍妃、翠妃、紅妃、白妃のことであり、皆が正一品。通常はこの中から後継ぎを産んだ女性が皇后に選ばれる。とは、私の横で畏まる張さんが小声で教えてくれたことだ。
今日が終わればもう四夫人に会うこともないだろうし、無駄な知識を増やさないで欲しい……。
そんな私の願いなどもちろん張さんに届くことなく。
「彼女は藍妃、
妃が定型文な挨拶をしている間、張さんは次々に情報を耳打ちしてくる。私だから覚えられるけど、普通の人なら右から左に聞き流しますよ?
少し青みがかった黒髪をした海藍という女性はいかにも「貴族の娘!」といった高圧的な美人だった。つり上がった目尻に、気の強そうな眉毛。あと少し肩の力を抜けばもっと美人になるだろうに。
海藍さんは妃らしく折り目正しい挨拶をしてくれたけれど、目は笑っていなかった。心を読むまでもなく「なんでこんな庶民の女に挨拶しなきゃならないのか」という本音が透けて見える。うんうん、後宮の妃と言ったらこうじゃなくちゃね。
心の中で何度も頷いていると次の妃を紹介された。
「彼女は翠妃、
さっきから口にしている太妃派とか革新派ってなんのことだろう? 後宮の派閥? そんな一生役に立たない知識を教えられても困るんだけど……。
瑾曦さんは名前に込められた意味の通り太陽が光り輝くような人だった。北狄人らしい茶髪に、小麦色の肌。輝くように大きな紺碧の瞳。覇気の塊のよう。
どことなく孫武さんに似ている感じがするのは、同じ北狄の人間だからかしらね?
もうなんだか半分流れ作業で次の妃を紹介される。
「彼女は紅妃、
短い。張さんもだんだん面倒くさくなっていない? 女の子とはいえ陛下の御子を二人も産んだ功労者ですよー?
張さんの紹介はおざなりだったけど、そこはさすが妃に選ばれるだけあって美人さんだった。二人も子供を産んでいるとは思えない。
特に名前と同じ紅色に染まる頬は格別。だけれども、どことなく気弱そうな雰囲気を纏っていてそこがちょっと残念だった。これでもっと覇気があればあの紅色の頬も映えるだろうに。
そんな春紅さんは私を見てびくびくと怯えていた。私、そんなに恐い人じゃ無いと思うのだけど?
しかしまぁ別々の女を孕ませるとは、皇帝だから仕方がないとはいえお盛んなことだ。でも皇帝になってから五年で子供四人は少ない……いや、もう一人懐妊したというから五人か。それにしても少なくない? 後宮なんて百人単位でお相手がいるのでしょうし。
「最後となりますが。彼女は白妃、
張さんに促され、少し警戒した様子で挨拶をしてきたのは今までの妃に比べて明らかに年若い女性――いや、少女だった。この国には滅多にいない金色の髪と紺碧の瞳。どちらも欧羅人の特徴だ。
純粋な欧羅人は後宮に入れないと思うので、たぶん混血(ハーフ)だろう。まるでときおり輸入されてくる西洋人形のような可愛らしさ。後宮に送り込まれるのも納得だ。
(でも……)
小柄な体格。つぶらな瞳。柔らかそうな肌。
雪花様、どこをどう見ても12~13歳くらいにしか見えなかった。
懐妊?
こんな幼い少女を?
あんな体格のいい梓宸が?
孕ませたの?
孕ませるようなことをしたの?
思いっきり
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