悪役令嬢に転生したので筋トレします。〜登場人物全員マッチョの乙女?ゲームの世界〜

ノエ丸

第1話 普通のOL。悪役令嬢に転生する~マッスルHEART~

 ああ――。


 身体中が痛い――。


 何が起きたのだろうか、突然ライトに照らされて。


 何かに――、身体を叩きつけられた様な――。


 地面に横たわる身体からは、徐々に熱が奪われていく。

 そして、自然と瞼が閉じていってしまう。


 ああ、私は死ぬのか――。

 やり残したこといっぱい有るのになぁ――。


 次が有るなら、今度は後悔のない人生に――



 そこで、私の記憶は途切れた。




 ◇


「うわぁああ!?」


 叫び声を上げながら、一人の少女がベッドから跳ね起きた。

 その顔は血の気が引いた様に青白くなっており、息を荒らげ、辺りを見回す。


「え!何処ココ!」


 少女が声を上げる。

 そして自身の違和感に気づいた。

 まずは自分の手に気づき、顔、頭、そして身体と順にペタペタと触っていき。再度叫ぶ。


「ち、小さくなってる!!?」


 声に反応したのか、ガチャリとドアの開く音がした。


「お嬢様。如何なされましたか?」


 ドアから入ってきたのは。

 物語などでよく目にする、執事服を着た初老の男性だった。


「うわあ!イケおじ!」


「イケおじ?どうやら未だ熱が下がっていないご様子ですな、他の者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」


 ええ〜。めっちゃ良い声~、大塚○忠さんに似てる~。


 イケおじの人は、軽く会釈をしてからドアから出ていった。


 人が居なくなり、部屋に静寂が訪れる。改めて辺りを見回す。

 広い部屋だなぁ。ていうかベッドデカッ、なんか上の方にヒラヒラしたの付いてるし。再度自身の身体を見る。


 ええ・・・。ちっさ、何歳くらいだろコレ。うーわ、髪の毛サラサラ。トリートメント何使ってんの?

 ――え!?肌がスベスベモッチモチ!!

 こ、これが――若さ。


 一人衝撃を受けていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「あ、はーい」

 ドアに向かって返事を返す。

 そして自身の口から出てきた、声の可愛らしさに一人で勝手に驚いていた。声かわいいなぁおい。


「失礼致します。お嬢様、お召し物と飲み物を持ってまいりました。」


 現れたのは、やけに肩幅の広いメイドさん。


 ん?と思った。


「あ、ありがとう」


 メイドが来た事にも驚いたが――。


 良い筋肉してるじゃん。そう思った。


 そこからは、メイドさんの熟練の技でテキパキと着替えをしてもらった。自身の白くシミひとつない身体に只々驚きを隠せずにいた。


 お嬢様って言ってたし、良い所の家なのかな?わからない。情報が、声が大塚○忠似のイケおじ執事と筋肉メイド位しかない。たった2つでもうお腹いっぱいよ?私は。


 取り敢えず自分の名前くらい知りたい。


「所で――、私の名前って何だったかしら?」

「え?お嬢様の・・・ですか?」

「ええ、そうよ。あ、勘違いしないでね!一応よ、一応!」


 怪しまれてないよね?メイドさんをじっと見つめる。

 メイドさんは、コホンと咳払いをひとつしてから告げた。


「お嬢様のお名前は。

 カトレア・フォン・ドーピングス。

 です。」


 ・・・・・・うん。カトレア・フォン・ドーピングスね。必死で表情を変えないようにてし言う。


「ありがとう、あとひとつ良いかしら?」

「何なりと」

「この国の名前は何かしら?」

「マッチョネス王国と言います」


 ・・・・・・・・・・・・あー。はいはい、わかりました。わかりましたとも。全部繋がりましたっと。


「ありがとう。また用があったら、呼ぶから下がっていいわよ?」

「畏まりました」


 メイドさんは、手をヘソに当ててペコリと頭を下げた。姿勢いいなー。


 メイドさんがドアから出て行くのを見送り、暫くしてから頭を抱えてベッドに倒れ込む。


「クソっ!ここあの乙女?ゲームの世界じゃないの!!」


 そう、ココは私がプレイしていた乙女?ゲームの世界だった。


 その名は。

「ムキムキプリンセス〜マッチョHEART〜」


 登場人物全員マッチョと云う、狂ったような設定のゲームだ。


 プレイヤーが操作する主人公からしてもうおかしい。

 名前はマリア・ナイスバルク

 身長185cm。体重秘密。握力80kg。100mを10秒フラットで走る。立ち絵が作中で1番デカイ。立ち絵が出る場面では、画面の3分の1が主人公だけで埋まる。泥酔しながら作った?と言いたくなる設定だった。体重は女の子だから秘密♡とか製作者インタビューで語ってたのもイラッとした。


 性格は繊細で臆病。誰にでも優しく動物にも好かれる純粋な女の子となっている。そして声が早○沙織。イカレとんのかと思った。

 実際目を瞑り声だけ聴くとすごく良い。目を開けるとやっぱり駄目だと現実を突き付けられる。


 とは言え。正直内容はいい。主人公が可笑しいだけで、他のキャラの筋肉はちゃんと、そのキャラに合ったものになっている。


 イケメンの顔にボディビルダーの様な身体とか、脱ぐと身体が倍に膨らむとかも無い。


 ちゃんと細マッチョだったり、服の上からでも分かる筋肉だったりする。


 主人公の設定以外はちゃんと作り込まれているのだ。


 そんな、通称ムキプリは意外と人気があったりする。

 私もその沼にハマった1人である。

 オタクの悲しい性で、作中の推しのしている事もしたくなる訳で。

 前の世界では、推しの求める筋肉になる為に、筋トレに勤しんでいた。

 ちゃんとジムに通い、家でも筋トレをし。プロテインもちゃんと取っていた。

 気づけば私は、筋肉の鎧を纏うOLになっていた。

 ワイシャツ、スーツと筋肉でピチピチになる始末。

 そんな奴が推しのグッズを買い漁ったり、推しの缶バッジの痛バックを持ってたりする。


 想像してみ、怖いだろ?それが私だ。


 ああ、そうか!思い出した。

 唐突にある出来事を思い出すす。それは私がこの身体になる直前の出来事。



 あの日私は、会社の帰りに後輩君に誘われて食事に行ったんだった。

 そこで、なんと!

 後輩君から告白されたのだ!正直なんで?って思った、彼はイケメンだし、会社でも狙ってる子が結構いた。

 私を選んだ理由?そりゃ筋肉よ。


 ——彼は筋肉フェチだった。


 そんな彼を逃がす訳もなく二つ返事てOKを出した。

 彼と別れた帰り道を私はルンルン気分で帰っていた。


 浮かれすぎてて、信号無視の自動車が向かってくるのに気づくのが遅れた。


 轟音。

 人と車が衝突する音。


 私は冷静に、——ああ。事故るとこういう感じなんだ。と思っていた。

 見事に車体の上を転がり、地面にポーンっと投げ出された。

 地面をゴロゴロ転がり。全身を痛みが襲うも何とか耐えれた。

 この時は鍛えていて良かったと心の底から思った。


 まぁ、転がった先でトラックにコンボ決められたわけだけど。

 トラックは無理。耐えられませんわ。

 自動車とトラックの連携プレーで、私のHPは削られてしまい。そのまま死んでしまったのだろう。


 心残りがあるとすれば、家の中のオタグッズの処分が出来なかったこと。

 あとは先に死んでしまったので、両親には申し訳ないことをした。

 先立つ親不孝をお許しください。


 あとは後輩君かな。理想の女性に出逢えたとか言ってたし。

 付き合って即死亡とかトラウマもんよ、ほんとに。

 彼には今後いい出会いがあることを願おう。


 そんな事があったのを思い出した。



 ——というか、カトレア嬢かぁ。


 カトレア・フォン・ドーピングス


 俗に言うところの。


 ——悪役令嬢。である。


 設定では悪役令嬢なのだが——。

 ファンの間からは不憫令嬢と言われ人気がある。


 なぜなら。

 攻略対象の1人にマッチョネス王国の第3王子がいる。よくあるパッケージの真ん中に居る存在ね。

 その第3王子とカトレア嬢が婚約関係にあるわけで、そこにプレイヤーキャラの主人公が王子の心を射止めて、カトレア嬢との婚約を解消するというイベントがある。


 因みに、この婚約解消イベント。王子以外のキャラを攻略すると発生せず。そのまま王子とカトレア嬢が結婚するイベントに変わる。

 何故かって?カトレア嬢は別に性格が悪いわけでは無いからだ。


 王子と主人公が出会うシーンに偶々彼女が居合わせ、嫉妬の炎が燃え上がり。主人公にアレコレ嫌がらせをするのが、婚約解消イベントの大筋である。


 何故不憫なのか。

 それはカトレア嬢のする嫌がらせが、主人公に効果が無いという事。

 水を掛けようとすると、ブンッと云う音と共にカトレア嬢の背後に移動され。誤って水を零したのだと勘違いされたり。

 三階から植木鉢を近くに落としてビビらせようとするも、普通にキャッチして。壁の小さい出っ張りを足場に三階まで跳躍し、植木鉢が落ちて来た事を知らせる。


 直接実力行使に出た時はこんな感じだった。


 カトレアは遂にマリアに実力行使をすることにした。

 度重なる失敗を経て、カトレアのマリアに対する嫉妬の心はピークに達していた。

 なぜ、王子はきっと私ではなくこの女を選ぶ。

 確信めいた思いが、カトレアの中に。確かに存在していた。

 そしてその思いが、遂に彼女を狂気の行動へと駆り立てた。

 場所は中央階段頂上。

 丁度マリアが階段を降りようとした。その時!

 カトレアはマリアを階段から突き落とすべく、勢いよく背中を押した。


 瞬間。


 カトレアの脳裏に浮かぶは。


 巨大な岩石。

 自分の背丈よりも遥かに巨大で、幾ら力を込めてもビクともしない。

 まさに不動。動かざること山の如し。

 いや、山そのものを押しているような錯覚がカトレアを襲う。


(——な!)


(くぅ——負けませんわ!

 わたくしは必ずこの方を倒し!

 あの人に再び振り向いてもらう為に!!)



「負けるわけにはいかない!!」



 しかしカトレアの健闘も虚しく。

 マリアにとっては、後ろから同級生に背中を叩かれ、挨拶をされた。程度にしか感じなかった。


「カトレア様。

 どうかなさいましたか?」


 その時カトレアの心が折れた。



 こんな感じだった。何をしても主人公のフィジカルで何も無かった事にされる。

 だからこそファンから、不憫令嬢と呼ばれるようになった。


 その後の婚約解消イベントでも、マリアはカトレアを庇うが。

 カトレアの行動がガバガバ過ぎて、結構な生徒に目撃されているので証人がわんさかいる。王子ルートではやることなす事、不憫なまま終わる為。変に人気が出ていた。

 因みに他の攻略対象のルートだと、カトレアのカの字も出てこない為、完全に空気と化しており、その不憫さに拍車が掛かっていた。



 私は。そのカトレア嬢に転生したらしい。


 ——ええ。マジィ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る