第3章: 青春のエンジニアたち

1. 絆深まる準備


夏休みが終わり、2年生の2学期が始まって間もなくのこと、僕は教室に入り、いつもの席に座った。周りでは、クラスメイトたちが夏の思い出を語り合っている。その中で、僕の耳に千紗と佳奈の会話が飛び込んできた。


「ねえねえ、千紗ちゃん。今度の文化祭、私たちのクラスは何をやるんだろう?」佳奈が興奮気味に尋ねていた。


千紗は少し考え込むような表情をしてから答えた。「うーん、なんか面白いことができたらいいな。みんなで協力して、すごいものを作り上げたいな」


その言葉を聞いて、僕の中でかつての記憶が蘇った。かつての文化祭での出来事。状況は少し違うが、量子カフェを企画し、みんなで力を合わせて成功させた日々。


(あの時の喜びと達成感...今回も同じように感じられるだろうか)


僕は静かに微笑んだ。この世界でも、きっと素晴らしい思い出が作られるだろう。


そのとき、クラス委員長が前に立ち、文化祭の企画会議を始めた。次々と案が出される中、僕は黙って聞いていた。


しかし、その時だった。


「ねえ、みんな」千紗が立ち上がって言った。「私たち、『未来カフェ』をやってみない?最新の科学技術を使って、お客さんに未来を体験してもらうの」


(千紗さん...君は、どんな世界線でも同じ輝きを放つんだね)


クラスメイトたちから賛同の声が上がり、千紗のアイデアが採用されることになった。僕は静かに手を挙げ、「僕も協力させてください」と言った。


千紗が僕の方を向いて笑顔で頷いた。「ありがとう、将人くん!一緒に頑張ろうね」


その笑顔に、僕は胸が熱くなるのを感じた。大城戸の想いを胸に、この世界での新たな挑戦が始まる。文化祭という舞台で、みんなと協力して何かを作り上げる。その過程で、僕自身も成長していけるはずだ。



2. 夢を現実に


文化祭の準備が本格的に始まった。僕たちのクラスは、千紗が提案した「未来カフェ」の実現に向けて動き出していた。古い実験室を改造して、私たちの「未来カフェ」スペースを作ることになった。


僕は、大城戸の記憶を頼りに、できる限りの協力をしていた。しかし、同時に自分の立ち位置にも気を配っていた。あまりに突出した知識や技術を見せれば、不審に思われるかもしれない。


ある日の放課後、僕たちは実験室で作業をしていた。千紗と浩介が熱心に議論している様子を見て、僕は少し離れた場所から見守っていた。


「ねえ、浩介くん」千紗が興奮した様子で言った。「ここにホログラム投影装置を置いたら、お客さんに未来の街並みを見せられるんじゃない?」


浩介は少し考え込んだ後、笑顔で答えた。「それ、いいアイデアだな!でも、そんな高度な装置、どうやって手に入れるんだ?」


その瞬間、僕は思わず口を開きそうになった。僕の中には、簡易的なホログラム装置の作り方があったのだ。しかし、すぐに自制した。


(ここで出すべきじゃない。彼らの創意工夫を大切にしなければ)


代わりに、僕は静かに二人に近づいた。「ねえ、単純な反射を使えば、似たような効果が得られるかもしれないよ」


千紗と浩介が驚いたように僕を見つめた。


「将人くん、それって本当?」千紗の目が輝いた。


僕は穏やかに微笑んだ。「うん、試してみる価値はあると思う」


その後、三人で簡単な模型を作り始めた。試行錯誤を重ねる中で、僕は彼らの創造性と協調性に感銘を受けた。


(この世界でも、みんな同じように輝いているんだ)


作業が一段落したとき、千紗が僕に向かって言った。「ねえ、将人くん。あなたって本当に頼りになるね。いつも冷静で、的確なアドバイスをくれて」


その言葉に、僕は少し戸惑いを覚えた。嬉しさと同時に、自分の立場を思い出したからだ。


「そんなことないよ」僕は静かに答えた。「みんなで協力しているから、うまくいっているんだと思う」


その夜、家に帰る途中、僕は空を見上げた。星空が美しく輝いていた。


(大城戸...みんな、楽しそうに生きているよ)


そんな思いを胸に、僕は静かに歩を進めた。文化祭まであと少し。この世界での自分の役割を果たしながら、みんなと一緒に素晴らしい思い出を作っていこう。そう決意を新たにした。



3. 記憶を受け継ぐ者


6月中旬の放課後、僕は図書館の一角で静かに本を読んでいた。文化祭の準備で賑わう校内とは対照的に、図書館は静寂に包まれている。


ふと、千紗と将人が入ってくるのが目に入った。二人は静かに話をしながら、奥の席に向かっていく。僕は思わず身を隠すように本の陰に身を寄せた。


(勉強会か...)


千紗と過ごした似たような時間が蘇る。研究につまずき、難解な理論について語り合った日々。それは今も鮮明に残っている。


僕は静かに本を閉じ、二人の様子を窺った。千紗が熱心にノートを取る姿。将人が丁寧に説明する様子。その光景に、僕は複雑な感情を抱く。


目を開けると、千紗と浩介が図書館に入っていく姿が見えた。僕は思わず立ち上がり、彼らの後を追おうとした。しかし、一歩踏み出したところで足を止める。


(いや、それは違う)


記憶の中の浩介の声が聞こえてくる。


「将人、お前は千紗を見守るんだ。彼女の人生に介入するべきじゃない。そう決めたはずだろう?」


僕は深く息を吐き、再び窓際に戻った。千紗と浩介が図書館に消えていくのを見送る。


しばらくして、僕は自分の研究に没頭した。量子力学の複雑な方程式を解きながら、時折千紗のことを考えてしまう。彼女が今、何を学び、何を感じているのか。


数時間後、ふと顔を上げると、外はすっかり夕暮れになっていた。僕は疲れた目をこすり、立ち上がった。図書館に向かおう。千紗たちはもう帰ったはずだ。


図書館に着くと、案の定、人気はまばらだった。僕は量子力学の本棚に向かい、必要な資料を探し始める。そのとき、隣の書架から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ねえ、将人くん。この本、面白そう」


千紗の声だった。僕は思わず身を固くした。彼女はまだここにいたのか。心臓が大きく高鳴る。


「うん、それは良い本だよ」


僕は冷静を装って答えた。千紗の方を見ると、彼女は興味深そうに本を開いていた。その姿は、かつての千紗そのものだった。


「量子力学って、本当に不思議だね。二つの粒子が離れていても影響し合うなんて...」


千紗の言葉に、僕は思わず微笑んだ。彼女の知的好奇心は、いつも僕を魅了する。


「そうだね。量子もつれは、現代物理学の中でも特に興味深い現象だ」


僕は自然に説明を始めていた。千紗は熱心に聞き入り、時折質問を投げかけてくる。僕は思わずほほが緩んでいた。


話し込むうちに、時間が過ぎていくのを忘れてしまった。図書館の閉館時間が近づき、僕たちは慌てて外に出た。


夜の空気が、少し肌寒い。千紗が軽く震えるのを見て、僕は思わずジャケットを脱ごうとした。しかし、その手を途中で止める。


(ダメだな、僕は...)


「千紗さん、そろそろ寮に戻ろう。遅くなってしまったね」


僕は優しく、しかし少し距離を置いて言った。千紗は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに笑顔になった。


「うん、そうだね。今日はありがとう、将人くん。とても勉強になったよ」


千紗が去っていく後ろ姿を見送りながら、僕は複雑な思いに包まれた。彼女との時間は幸せだった。


(これでいいんだ。これで...)


僕は静かに深呼吸をし、研究室に戻る道を歩き始めた。



4. コートの輝き


春の陽気が日に日に増す中、僕は放課後、一人で学校の屋上にいた。遠くに見える校庭では、部活動が始まっている。特に目を引いたのは、バスケットボールコートだった。


(ああ、浩介がバスケ部に入部したんだな)


僕はコートで練習する浩介の姿を見つめていた。彼の動きは鮮やかで、周りの部員たちを圧倒している。その姿は、大城戸の記憶の中の浩介そのものだった。


ふと、コートの脇に千紗の姿を見つけた。彼女は熱心に浩介の練習を見守っている。その瞬間、僕の胸に複雑な感情が湧き上がった。喜びと、どこか切ない感情が入り混じっていた。


(千紗さんは、もしかして浩介のことを...)


千紗が突然、大きな声で叫んだ。


「入れーっ!」


浩介がシュートを放つ瞬間だった。ボールは美しい弧を描いて、見事にゴールに吸い込まれた。


千紗が小さくガッツポーズをする姿を見て、僕は思わず微笑んだ。彼女の無邪気な喜びが、この世界の尊さを改めて感じさせてくれた。


浩介と千紗が目を合わせ、笑顔を交わす瞬間。僕はその光景を静かに見守った。


(これが、大城戸の願った世界なんだ)


僕は深く息を吐いた。


夕暮れが近づき、部活動が終わりに近づいていた。僕は静かに屋上を後にした。階段を降りながら、僕は決意を新たにした。


(僕は、この世界の傍観者ではない。この世界の一員として、みんなと共に歩んでいこう)


そう心に誓いながら、僕は下校の支度を始めた。研究室に戻る途中、ふと立ち止まり、空を見上げた。夕焼けに染まる空が、不思議なほど美しく感じられた。


(浩介、千紗さん、みんなの幸せのために、僕にできることは何だろう)


その問いを胸に、僕は静かに歩き続けた。夏の生ぬるい風が僕の頬を撫でる。その風に乗って、かすかに聞こえてくる千紗と浩介の笑い声。僕はその音を大切に心に刻みつけた。


研究室に戻ると、僕は机に向かい、ノートを開いた。量子力学の方程式を解きながら、時折窓の外を見やる。もう誰もいないコートが、夕日に照らされて輝いていた。


(明日も明後日もずっと、みんなの笑顔が見たいものだな)


そう思いながら、僕は再び研究に没頭した。みんなの幸せを見守るため、僕にできることを少しずつ積み重ねていく。

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