桜舞う日の約束 ―― 過去からの贈り物

プロローグ：世界を変える瞬間

1. 世界の変革に続く道

僕は息を呑んで、シミュレーションルームの中央に立つ千紗を見つめていた。彼女の表情には決意と不安が混ざり合っている。巨大なモニターには複雑な数式と図表が次々と表示され、部屋中に青白い光が瞬いていた。

「準備はいいですか、千紗さん？」研究員の声が静かに響く。

千紗はゆっくりと頷いた。「はい...お願いします」

僕は胸が締め付けられる思いだった。千紗が何度も何度もシミュレーションを繰り返し、浩介くんが生存する世界線を必死に探している様子を、ただ見守ることしかできない。

「シミュレーション開始します」

研究員の声と共に、ホログラム投影が宙に浮かび上がった。そこには無数の世界線が光の糸のように絡み合っている。千紗の手が震えているのが見えた。

「こーちゃん...どこ...」千紗の小さなつぶやきが聞こえる。

僕は千紗の必死の様子に胸が痛んだ。彼女の強い思いと、それでも変えられない現実の狭間で、僕には何ができるのだろうか。

シミュレーションが進むにつれ、千紗の表情が次第に変わっていく。希望と絶望が交錯する中、彼女は諦めることなく探し続けていた。

「まだ...まだあるはず」

千紗の声に、僕は思わず近づきそうになった。でも、ここで介入するわけにはいかない。彼女の選択を、僕は見守るしかないのだ。

シミュレーションルームに漂う緊張感が、さらに高まっていく。世界を変える瞬間が、今まさに始まろうとしていた。

2. みんなが幸せに過ごせる世界を

「このプロジェクトは、君たちが幸せになるためにあるんだ」

僕は真剣な眼差しで千紗を見つめながら言った。シミュレーションルームの青白い光が、彼女の決意に満ちた表情を照らしている。

「もし君にとっての幸せがそうであるなら…その気持ちを尊重したい。でも、僕としては絶対嫌だ。最後まで他の方法を探すことは諦めない」

千紗は小さく首を振った。「将人くん、ありがとう。でも、これが私の選択なの」

彼女の声は、不思議なほど穏やかだった。

「みんなが幸せになれる世界を作りたい。それが私の望みなの」

僕は必死に言葉を探した。「でも、千紗さん。誰かが犠牲になるような世界じゃ、本当の幸せとは言えないよ」

千紗は一瞬考え込むように目を伏せた。「そうね...私たちにはまだ可能性があるはず」

「そうだよ」僕は力強く頷いた。「僕たちで、きっと見つけられる。誰も傷つかない、みんなが笑顔でいられる未来を」

千紗の目に、小さな希望の光が宿った。「うん、そうだね。じゃあ、もう一度やってみよう」

彼女の指がコンソールに触れる。モニターには再び無数の世界線が映し出された。

「必ず見つけよう、みんなの幸せな未来を」

千紗の決意に満ちた声に、僕も強く頷いた。二人で力を合わせて、新たな可能性を探る。その瞬間、まるで未来が少し明るくなったように感じた。

シミュレーションルームに漂う緊張感の中にも、かすかな希望の光が差し込んでいた。

3. 変わる世界

連日の徹夜続きで、僕の目は充血していた。モニターに映る無数の世界線を見つめながら、必死に探し続ける。

「きっとあるはずだ...」

つぶやく声は、疲労で掠れていた。みんなが幸せに生きられる世界。誰も犠牲にならない未来。それを見つけ出すまで、僕は諦めるわけにはいかない。

千紗の笑顔を守るため。浩介くんの命を救うため。そして、僕たち全員の幸せのために。

「もう少しだ...」

瞼が重くなってきた時、突然の警報音が鳴り響いた。

「な...何だ！？」

驚いて目を見開くと、メインモニターにエラーメッセージが表示されている。

「シミュレータ起動？誰が...」

そう呟いた瞬間、頭に閃くものがあった。

「まさか、千紗さん！？」

僕は慌てて立ち上がり、シミュレーションルームへと走り出した。廊下を駆け抜けながら、千紗の名前を叫ぶ。

「千紗さん！待ってください！」

だが、シミュレーションルームのドアに辿り着いた時には、既に遅かった。扉が開くと同時に、眩い光が僕を包み込んだ。

「な...何が...」

目を開けると、そこには千紗の姿はなく、ただシミュレータだけが静かに作動を続けていた。モニターには、ゆっくりと書き換わっていく世界の姿が映し出されている。

「どうして...」

僕の問いかけに、誰も答える者はいなかった。ただ、部屋に漂う桜の香りだけが、何かが確かに変わったことを物語っていた。

世界は、誰かの意思によって、静かに、しかし確実に変容を遂げていった。そして僕は、その変化の只中に立ち尽くすしかなかったのだ。