第21話「お姫様、二人揃うと厄介」

「……♪」


 現在、ナギサの右隣では、ミャーがとてもご機嫌そうにご飯を食べていた。

 ご飯よりも寝るのが好きそうな彼女だったが、食べることも好きらしい。


 そして、本来ナギサの隣ではない彼女が、どうして現在隣に座っているかというと――当然、ミャーがナギサの席を変更したからだ。

 元々ミャーの隣にはフェンネルが座っていたようで、彼女がナギサに席を譲った形になる。

 そんなフェンネルは今、ミャーの正面に座っていた。


 要は、ミャーの正面に座っていたお嬢様が、ナギサが元々座っていた席に行かされたのだが――それが、アメリアだった。


「…………」


 おかげで現在アメリアは、凄くナギサを睨んでいる。


(僕、何も悪いことしてないのに……)


 怨念とも思えるほどの黒い感情を向けられているナギサは、心の中で嘆いていた。


「ミャーは、本当にご飯が好きだね」


 ミャーがモグモグと幸せそうに食べている姿を見て、彼女の右隣に座っているアリスが笑顔で声をかけた。

 それにより、ゴックンと飲み込んだミャーは、ゆっくりと口を開く。


「食欲、睡眠欲は……逆らえないものだから……」


 どうやらミャーは、欲望に忠実らしい。


(三大欲求のうちの二つ、か……)


 ミャーが呟いた言葉に思うところがあったナギサだが、当然口にすることはできない。

 下手に口にしようものなら、ミャーからの報復が待っているだろう。


 しかし――

「…………」

 ――なぜかミャーは、白い目でジッとナギサを見つめてきた。


「な、なんでしょうか……?」

「今、不快な感情を……感じた……」

「――っ!?」


 まさか、言葉にしていないのに気付かれた!?

 とナギサは思ってしまい、それが顔に出る。


 その表情を見たアリスが、突然ニヤニヤとし始めた。


「あっれ~? ナギサちゃん、何を考えていたのかな~?」


 昔かわいがっていた元幼女にちゃん呼びされ、しかも心を見透かされているような表情を向けられたナギサは、なんとも言えない感情が湧き上がってしまう。

 こんなところ、国王に見られれば大笑いされそうだ。


「ご、誤解です、何も考えていませんよ……!?」

「本当かな~? ミャーの勘は、鋭いんだよ~?」


 アリスは完全にわかっていながら、ナギサを追い詰めていく。

 天真てんしん爛漫らんまんといわれている彼女は、いたずら好きのようだ。


「んっ、私の目は……誤魔化せない……」


 ニヤニヤとするアリスに同調するように、ミャーもニヤッと楽しそうに笑みを浮かべて、ナギサを追い込もうとする。


 二人の顔を見て、ナギサは瞬時に察した。

 この二人は、揃うととても厄介な存在になる、ということを。


 いくつもの修羅場を乗り越えてきたナギサが、こんな修羅場は初めてだった。


「ミャー様、アリス様、早くお食べになりませんと、授業に遅れてしまいますよ?」


 そんな中、まるで女神のようにナギサに助け船を出してくれる存在がいた。

 黙って話を聞いていた、フェンネルだ。


「ざんねん……」

「ふふ……ナギサ、命拾いしたね?」


 ミャーは言葉ほど落胆を表情に出さず、またご飯を食べ始める。

 そしてアリスは、相変わらず楽しそうにナギサを見ていた。


 呼び方がちゃん呼びでなくなったのは、ふざけてちゃん呼びしていたからだ。

 その証拠に、アリスはナギサが席を移動する際には、ナギサ呼びをしていた。


「ありがとうございます……」

「いえいえ、騒ぎもありましたし、本当にあまりゆっくりはできませんので」


 ナギサがお礼を言うと、フェンネルは温かい笑みを返してくれた。

 ここ数日お姫様に振り回されているナギサは、フェンネルが心の癒しのように感じてしまう。


 その後、四人は仲良く食事をし、身支度を整えた後校舎へと移動した。


「――それじゃあ、三人ともまた後でね」


 一年生の廊下に着くと、アリスだけ別のクラスだったことで、彼女とはここで別れることになった。

 アリスを一番護りたいナギサからすれば、これは嬉しくないことではあったが、文句や意見を言える立場ではないので仕方がない。


 意外だったのは、アリスのことを気に入っていて、一緒にいたがるミャーが、アリスとクラスが別なことに対して何も言わないことだ。

 もしかしたら、姫君たちは同じクラスにしない、というルールがあるのかもしれない。


 姫君たちこそ仲良くさせないといけないと思われるが、彼女たちを慕う生徒はかなり多いので、不平等さが出ないようにしているのではないか、ということが考えられた。


「…………」

「あっ……」


 突然後ろから負の念を感じたナギサが後ろを振り返ると――とても悔しそうにしているアメリアが、ナギサを見つめていた。

 彼女も、ナギサと同じクラスらしい。


「えっと……」

「見てなさい……怒られないやり方で、あなたをギャフンッと言わせてあげるから……」


(あはは……目のかたきにされてるな……)


 かなり年下の子から喧嘩を売られ、ナギサは苦笑するしかなかった。


「ごめんなさい、ナギサさん……。普段は、あそこまで悪い子ではないのですが……」

「どうして、フェンネルさんが謝られるのですか……?」


 突然謝ってきたフェンネルに対し、ナギサは疑問を抱かずにはいられなかった。


「幼馴染ですし、近しい立場ですので……」


 だから、アメリアの代わりに謝っているということらしい。

 フェンネルは、優しいだけでなく責任感も強いようだ。


「私は……ちゃんと、忠告した……。後は、何があっても……自業自得……」


 それに比べて、ミャーは放任主義らしい。

 単純に、面倒ごとに巻き込まれたくないだけだろう。


 ナギサは困ったように笑いながら、二人と教室に入っていく。


 人気者のお姫様の登場により、教室内は一瞬で湧きだったが――

「うるさい……」

 ――ミャーが不機嫌そうにすると、一瞬で静まり返った。


 暴力を振るったり、権力を振りかざすようなことはしそうにないミャーだが、それでもやはり発言力のあるお姫様なので、皆気を遣うようだ。


「ナギサ、あそこ……」


 静かになった教室に満足したらしきミャーは、後方の席を指す。

 そこが自分の席だということだろう。


 そして、当然――

「君、隣……」

 ――ナギサは、ミャーの隣らしい。


 どうやらナギサは、知らない間によほど気に入られたようだ。



=======================

【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます!!


次話、ナギサを思わぬ形で追い詰めるキャラが登場予定です。


これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る