第30話 おいでませ魔境

 『生物部』と書かれたキーホルダーのついた鍵を捻る。カビとホコリと有毒物質のパーリナイな匂いがお出迎えだ。

 壁に貼られた『電気部』の賞状、隣にある日に焼けてほとんど白飛びしている集合写真は呪われそうなのでなるべく見ない。

「こんにちわー」

 リュックサックをそこら辺にある椅子に置く。決して床に置いてはならない。何が落ちているか分かったものじゃない。

 シュー。

 気体の漏れる音が聞こえた。ヤバい!!なんだ、なんのパイプが折れたんだ!?空気より軽いのか?重いのか?

 チーン。

 …???

「ナンミョウホウレン…」

 あ、死んだ?私有毒ガス吸って死んだ?

「…罰当たりな遊びしてますね」

 正解は、先輩たちが、マッチで線香に火をつけ、酸素でその火力を強くし、音叉を鳴らして、お経を唱え、お葬式ごっこをしていた、でしたー!!分かるかボケ。

「南妙法蓮華経ってさぁ…」

 宗教トークが始まった横で、部長のリュック先輩(椅子すら信用しておらず、リュックサックを背負ったままで活動しているから)と数人が何やら低いテンションで会議している。

「科学部もインスタを始めるべきだと思うんだ」

 今からですか?仮入部、文化祭、告知すべきイベントは終わりましたが?

「バエル実験をしたいね…」

 バエル…。

「ルミノール、銀鏡、パルスジェット、テルミット…どれがバエルかな…」

「ジョシウケも考えないと…」

 ジョシウケ…。

 テンション低いのはいつも通りだけど、内容が科学部と非相溶性だよ…。

「科学甲子園について話しておきます」

 それら全てを華麗にスルー、つまり無視して、レンズ先輩がきったねぇホワイトボードに無理やり文字を書いた。色は黄色、なぜならそれしか出ないから。

 科学甲子園とはその名の通り科学の甲子園。秋から冬にかけて行われ、全国の高校生たちが科学の腕を競い合う。去年うちは県大会落ち。波乱の2次試験の様子を、近所の進学校へのライバル心たっぷりに伝えてもらった。

「うちと霞山高校は同じ方法で課題をクリアしようとして、霞山高校はたったの25点と惨敗だったわけです」

「うちは?」

「15点」

 惨敗に負けとるがな。

 夏休み、テスト勉強より身が入ってしまいそうだな。

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