第16話 ヘッドホン

 文芸部の仮入部は期間中毎日やっているらしい。よほど部員に困っているのだろう。きっと盛り上げも凄い違いない。

 仮入部予定表を見た時のそんな感想には、もはや懐かしさまである。

「あ、こんにちは。今日は部長がいません…」

 金髪。ヘッドホン。全然喋らん。

 こっわ。この先輩こっわ。

「あ、このロッカーの中には過去の部誌が詰まってるよ」

 ベコベコのロッカーをベコベコと叩く。

「学生運動の時にバリケードに使われたロッカーらしくて、裏に『田中先生出てけ』って書いてあるんだよね」

 …田中ぁ。

 何ももてなされない、ロッカーの自慢だけされた前代未聞の仮入部。

 でも、何故か物凄く惹かれたんだ。

 その日に私は入部届に名前を書くことになる。


 私はこの先輩のファンで、同じもののファンだったことが発覚するのはまた別のお話。


「なんかクラスメイトと五人ぐらいで帰った時に、ヘッドホン途中からA子ちゃんと二人きりになったんよ」

 毒舌先輩が帰り道に話し始めた。

「もういいってその話」

 どうやらヘッドホン先輩の鉄板ネタらしい。本人は語られるのを嫌がっているが。

「A子ちゃんは気をきかせてさ、ヘッドホンにめっちゃ話を振ってあげたんだって」

「それであの名言か」

 どうやらブロッコリー先輩も知っているようだ。

「そう」

 二人の先輩はヘッドホン先輩の両サイドでニコニコと笑う。

「「『話す必要ある?』」」

「やめろって…」

 A子ちゃん先輩は可哀想でならないけれど、部活の後輩、ファンとして庇わせていただきたい。ヘッドホン先輩に悪意はないのだ。

 ただひたすらに下手。

「後悔してるん?あの時ちゃんと話してれば今頃違ったかなって」

「…チョット」

 庇ったものの、こっちの方が問題があるのではないかと思ってしまう。


「先輩のサイト保存してるんですよ。本当に」

「先輩が書いた本借りていいですか」

「先輩の本めちゃくちゃ面白かったです」

 そう言った時に見せる、体育座りをしながらの、不器用なはにかみが、私は好きです。


「お前もAirPods買ったら?」

「いや俺はヘッドホンあるからいい」

「あーあの、人を寄せ付けないヘッドホンか」

「そんなつもりはない…」

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