光台高等学校の日常

家猫のノラ

第1話 アイス

 光台高等学校。偏差値66。校則無し。敷地面積ハマスタ二個分。進学実績悪い。自称進と揶揄されることあり。


「あの、アイス、食べてもいいですか?」


 ダークブラウンの髪が似合う、身長が高めで、綺麗系の女の子、カモシカちゃんが発言した。まだ春の匂いが残りつつも、気温は確実に上がり続け、夏を意識させるような時期だった。


「えっと…それは、ダメかなぁ」


 今は生物の授業が始まってから五分後。微生物をちゃん付けで呼ぶボルボックス先生は、困ったようにそう返事した。


「そう…ですか。じゃあお弁当箱入れて持って帰ります」


 食堂の前にあるセブンティーンアイスの自販機。授業開始直前に、彼女はチョコレートアイスを持って、教室に滑り込んできた。案の定、食べ終わることなどできずに、刻一刻と溶けていくアイス。彼女はそれを深刻そうに握りしめて、生物の先生に、食べる許可を得ようとしたのである。


 彼女がひどく悲しそうな顔をしながらお弁当箱にアイスをしまい、蓋を閉じているところを見ながら、私はこの高校に入ってよかったと心から思った。

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