第2話

長い、長い、廊下の先に302号室は存在していた。軽くノックをしてみる。まぁ、返事はないのだろうけど。


「はぁ〜い。」


僕の思いとは裏腹にドアの奥からは明るい声がした。この子は最初から他の人魚とは違ったんだ。他の人魚は返事などしない。いや、僕の今までの担当がそうだっただけなのかもしれないけれど。


人魚とは聡明な生き物だ。ここに来た時点で自分の運命などもう悟っていて、喋れない子だって少なくないと言うのに。


「....?はぁ〜い?」


2度目の明るい声で、僕は現実世界へと引き戻された。僕はゆっくりとドアに体重をかけていく。


「こんにちは〜!」


彼女は僕がみた今までのどの人魚より美しかった。まるで、童話から出てきた人魚姫のような少女だった。


桜色の髪の毛と緋色の瞳がとてもよく目を惹いた。


「こんにちは。」


自分が達が喰らうために育てている人魚と言葉をかわすのはいつぶりだろうか?


「あなたが私の“担当“の人〜?」


僕は思わず肯定とも否定ともとれる曖昧な角度で首を曲げてしまった。


「んふふっ」


海水と味気のない飾りが敷き詰められた部屋で、彼女は可笑しそうに笑った。

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